琥太郎と欧之丞・一年早く生まれたからお兄ちゃんとか照れるやん

真風月花

文字の大きさ
上 下
94 / 103
五章

3、おやつの時間

しおりを挟む
 おやつにぼくは外側がしゃりっとした琥珀糖を食べた。欧之丞は甘いのが苦手やけど、なんか薄荷のとか変わった味のは食べられるらしい。

「前から思ってたんやけど。薄荷っておいしいん? すーっとするから、味がよう分からへんねんけど」
「すーっとするのがおいしいよ」
「けど今日のは、なんか紫っぽいやん。それ、なに?」

 座卓についてちょこんと座る欧之丞が、対面のぼくに半透明の紫色の棒を差しだした。

「なんかね、しばづけみたいな味がする。それと花がのってるけど、これなに?」
「……穂紫蘇や」
「ほじそ?」

「そう、紫蘇の花。お造りとかについてくるやろ? 小さい花が咲いてるのん。あれが穂紫蘇で、紫蘇の花やねん」

 まぁ、お造りのは青紫蘇でこれは、赤い紫蘇やけど。

「その琥珀糖は赤紫蘇が入ってるんや。せやから柴漬けっぽい味がするんとちゃう?」
「へーぇ。変わってるね」

 変わってると言いながらも、欧之丞は赤紫蘇の琥珀糖が気に入ったみたいや。
 しかも「かわいい花だなぁ」なんて、らしくないことを呟いては小花を眺めている。

「珍しいやん。欧之丞はかっこええのが好きなんやろ? カブトムシやクワガタとか、ギンヤンマとか」
「変?」
「変っていうか。珍しいなぁって思て」

 欧之丞は首を傾げながら、冷たいお茶を飲んだ。
 なんかちょっと寂しい気がしたんは、欧之丞が普段とちゃうように思えたからやろか。

 それとも颱風が近づいとうから、なんでもないとこでも不安な気持ちになるんやろか。

◇◇◇

「琥太郎さん、欧之丞さん。お風呂に入りましょう」

 おやつを食べ終えた頃、母さんがぼくらの部屋に入ってきた。
 なんでやろ。まだ夕方にもなってへんのに。

 ぼくは疑問は口にはせぇへんかったけど、母さんは「颱風が来たら、お風呂に入れなくなるわ。だから今から母さんと一緒に入りましょうね」って言うた。
 
「颱風になったらお風呂、入られへんの?」
「だって怖いじゃない。お風呂場に行く渡り廊下で暴風雨にさらされたりしたら」
「そしたら俺が絲おばさんを守ってあげるー」

 欧之丞がぴょんと跳びはねて、母さんの腕にしがみついた。

「だいじょうぶ。これあげるから、こわくないよ」
「え? なぁに?」

 きょとんと目を開いた母さんの口に、欧之丞はさっきの紫蘇味の琥珀糖をつっこんだ。
 言葉は悪いけど、ほんまにつっこんだんや。母さんは上品に手で口許を隠して琥珀糖を食べた。

「……変わったお味ね」
「おいしいよ」
「赤紫蘇のふりかけみたいね」
「ね、おいしいでしょ」
「ええ、おいしいわ」

 にっこりと微笑みながら母さんの腕をひっぱる欧之丞は、珍しく気に入りの甘いものが見つかったみたいで、えらい嬉しそうやった。
 だって「おいしい」以外の答えを求めてへんのやもん。
 
「こたにいの分もあるよ」
「え? ぼくはちょっと、ええかな」
「もーお、えんりょして」

 いや、遠慮ちゃうし。しょっぱいか甘いか分からんようなのは、得意とちゃうねん。
 西瓜かって、塩かけるの苦手やし。

 塩をかけたら西瓜は甘くなるっていうけど。けど、塩の部分はどうしたってしょっぱいやんか。
 
 いろいろ考えとったから油断した。ぼくの口にもうす紫色の琥珀糖が突っ込まれた。

「な、おいしいだろ?」
「むぐ……、まぁ、そこそこ」

「またぁ、えんりょして。すなおになったらいいのに」と、欧之丞はにかっと笑う。
 甘くてちょっと硬いお砂糖の膜が崩れたのといっしょに、しば漬けみたいなしょっぱい柔らかな寒天が口の中に広がっていく。

 ジブン、おいしいもんがあったら人にすすめるのが好きみたいやな。
 まぁ確かに心配していたほど妙な味やなかった。
 次の機会があったら、また食べてもええかな。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻への最後の手紙

中七七三
ライト文芸
生きることに疲れた夫が妻へ送った最後の手紙の話。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

目が覚めたら囲まれてました

るんぱっぱ
BL
燈和(トウワ)は、いつも独りぼっちだった。 燈和の母は愛人で、すでに亡くなっている。愛人の子として虐げられてきた燈和は、ある日家から飛び出し街へ。でも、そこで不良とぶつかりボコボコにされてしまう。 そして、目が覚めると、3人の男が燈和を囲んでいて…話を聞くと、チカという男が燈和を拾ってくれたらしい。 チカに気に入られた燈和は3人と共に行動するようになる。 不思議な3人は、闇医者、若頭、ハッカー、と異色な人達で! 独りぼっちだった燈和が非日常な幸せを勝ち取る話。

『 ゆりかご 』  ◉諸事情で非公開予定ですが読んでくださる方がいらっしゃるのでもう少しこのままにしておきます。

設樂理沙
ライト文芸
皆さま、ご訪問いただきありがとうございます。 最初2/10に非公開の予告文を書いていたのですが読んで くださる方が増えましたので2/20頃に変更しました。 古い作品ですが、有難いことです。😇       - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - - " 揺り篭 " 不倫の後で 2016.02.26 連載開始 の加筆修正有版になります。 2022.7.30 再掲載          ・・・・・・・・・・・  夫の不倫で、信頼もプライドも根こそぎ奪われてしまった・・  その後で私に残されたものは・・。            ・・・・・・・・・・ 💛イラストはAI生成画像自作  

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

神楽坂gimmick

涼寺みすゞ
恋愛
明治26年、欧州視察を終え帰国した司法官僚 近衛惟前の耳に飛び込んできたのは、学友でもあり親戚にあたる久我侯爵家の跡取り 久我光雅負傷の連絡。 侯爵家のスキャンダルを収めるべく、奔走する羽目になり…… 若者が広げた夢の大風呂敷と、初恋の行方は?

処理中です...