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四章
13、甘え上手と甘え下手【2】
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高いところにある提灯に触ることができたんが、欧之丞は嬉しいみたいやった。
当然、父さんに抱っこされてるから触れただけやけど。
ふふん、って感じの満足そうな顔をしてる。
「俺、大きくなったら蒼一郎おじさんくらい、大きくなるんだー」
「えー、無理やろ。父さんって見上げるほど大きいもん」
少し視線を下げると、母さんの頭が見える。
普段、そんな場所を見ぃひんから不思議な感じやった。
「あ、つむじ」
「つむじ風なんか、吹いてないよ」
ぼくの言葉に欧之丞が指摘した。父さんは、笑いをかみ殺してるし。母さんは頭のてっぺんを慌てて手で押さえてる。
普段見慣れへん光景は、新鮮やった。
けど、欧之丞がぼくよりも父さんよりも背が高くなったら困るなぁ。欧之丞を見上げるんは嫌やもんな。
「やっぱり、ぼくも背ぇ高くなる」
欧之丞の真似しぃみたいやけど、とりあえず宣言しといた。
いろんな人が、父さんに挨拶したり頭を下げたりしとう。
ぼくなんか緊張して大変やったのに、父さんはぼくら二人を抱っこしたまままるで風が吹き抜けるように、そういう人らの間をすいすいと進んでいく。
それもちゃんと挨拶を返しながら。
中には「三條さん。これから一杯行くんですけど、いかがですか」とか誘ってる人もおる。
父さんは「せやなぁ」とか「ありがとうな。また今度な」とか軽くかわして、結局「行く」とは返事せぇへん。
ぼくは父さんの耳に口を寄せて「行かんでもええん?」と、こっそりと尋ねた。
そしたら「今日は一日、琥太郎や欧之丞と離れとったから。君らが優先やで」と言ってくれた。
見上げたら、夜空がいっぱいに広がってる。
二人を抱っこしたまま、神社の石段を下りる父さんは、いつもよりも慎重に足を運んどった。
「あ、あれなに?」
「こら、欧之丞。動くな、危ないやろ」
「なんかね、ひらーって飛んでる」
ぼくは、なんやろと思って、父さんの左腕から身を乗り出した。
「琥太郎まで。おとなしくせなあかんやろ」
「でも、手巾みたいなのが飛んでるから」
「一反木綿と違うんか?」
父さんの言葉に、後ろを歩いとった母さんが短い悲鳴を上げた。
「蒼一郎さん。冗談だと仰ってください。妖怪なんていませんよ、きっと」
「んー? まぁ、手巾は一反もの長さはないよなぁ」
「ようかい?」と嬉しそうに欧之丞が声を上げる。
「せやな。一反の長さの手巾かもしれないぞ」
「じゃあ、たくさん手ぇ拭けるやん」
「俺、つかまえるー」
ぼくらが大騒ぎするもんやから、父さんは体の均衡を崩さんように必死やし。母さんは、顔を引きつらせながらぼくらから離れんように歩いとう。
「ん? あれか、手巾っちゅうんは」
父さんは暗がりに目を凝らした。不思議なことに、空飛ぶ手巾には尻尾がついとった。
音もなくひらりと滑るように、木の枝から木の枝に飛んでいく。そして、きらりと緑色の目が二つ光ったんや。
「あれは、もしかしたらモモンガとちゃうか?」
「ももんが。もも?」
「いや、その桃とちゃうって」
モモンガって、こんな家の近くの神社におるん? だって圖鑑では、山とか森におるって書いてあったで。
ぼくとおんなじ疑問を持ったんか、母さんも目を丸くして、モモンガの飛び移った枝をじーっと見つめてる。
「わたし、モモンガなんて初めて見ました」
「ぼくもっ」
母さんはぼくを見上げて、にっこりと笑った。
今日は散々な日やったけど。でも、こんなに綺麗な朝顔の飴細工もあるし、欧之丞と冒険もしたし。父さんと母さんが迎えに来てくれたし、モモンガも見られたし。
きっとええ日やったんや。
当然、父さんに抱っこされてるから触れただけやけど。
ふふん、って感じの満足そうな顔をしてる。
「俺、大きくなったら蒼一郎おじさんくらい、大きくなるんだー」
「えー、無理やろ。父さんって見上げるほど大きいもん」
少し視線を下げると、母さんの頭が見える。
普段、そんな場所を見ぃひんから不思議な感じやった。
「あ、つむじ」
「つむじ風なんか、吹いてないよ」
ぼくの言葉に欧之丞が指摘した。父さんは、笑いをかみ殺してるし。母さんは頭のてっぺんを慌てて手で押さえてる。
普段見慣れへん光景は、新鮮やった。
けど、欧之丞がぼくよりも父さんよりも背が高くなったら困るなぁ。欧之丞を見上げるんは嫌やもんな。
「やっぱり、ぼくも背ぇ高くなる」
欧之丞の真似しぃみたいやけど、とりあえず宣言しといた。
いろんな人が、父さんに挨拶したり頭を下げたりしとう。
ぼくなんか緊張して大変やったのに、父さんはぼくら二人を抱っこしたまままるで風が吹き抜けるように、そういう人らの間をすいすいと進んでいく。
それもちゃんと挨拶を返しながら。
中には「三條さん。これから一杯行くんですけど、いかがですか」とか誘ってる人もおる。
父さんは「せやなぁ」とか「ありがとうな。また今度な」とか軽くかわして、結局「行く」とは返事せぇへん。
ぼくは父さんの耳に口を寄せて「行かんでもええん?」と、こっそりと尋ねた。
そしたら「今日は一日、琥太郎や欧之丞と離れとったから。君らが優先やで」と言ってくれた。
見上げたら、夜空がいっぱいに広がってる。
二人を抱っこしたまま、神社の石段を下りる父さんは、いつもよりも慎重に足を運んどった。
「あ、あれなに?」
「こら、欧之丞。動くな、危ないやろ」
「なんかね、ひらーって飛んでる」
ぼくは、なんやろと思って、父さんの左腕から身を乗り出した。
「琥太郎まで。おとなしくせなあかんやろ」
「でも、手巾みたいなのが飛んでるから」
「一反木綿と違うんか?」
父さんの言葉に、後ろを歩いとった母さんが短い悲鳴を上げた。
「蒼一郎さん。冗談だと仰ってください。妖怪なんていませんよ、きっと」
「んー? まぁ、手巾は一反もの長さはないよなぁ」
「ようかい?」と嬉しそうに欧之丞が声を上げる。
「せやな。一反の長さの手巾かもしれないぞ」
「じゃあ、たくさん手ぇ拭けるやん」
「俺、つかまえるー」
ぼくらが大騒ぎするもんやから、父さんは体の均衡を崩さんように必死やし。母さんは、顔を引きつらせながらぼくらから離れんように歩いとう。
「ん? あれか、手巾っちゅうんは」
父さんは暗がりに目を凝らした。不思議なことに、空飛ぶ手巾には尻尾がついとった。
音もなくひらりと滑るように、木の枝から木の枝に飛んでいく。そして、きらりと緑色の目が二つ光ったんや。
「あれは、もしかしたらモモンガとちゃうか?」
「ももんが。もも?」
「いや、その桃とちゃうって」
モモンガって、こんな家の近くの神社におるん? だって圖鑑では、山とか森におるって書いてあったで。
ぼくとおんなじ疑問を持ったんか、母さんも目を丸くして、モモンガの飛び移った枝をじーっと見つめてる。
「わたし、モモンガなんて初めて見ました」
「ぼくもっ」
母さんはぼくを見上げて、にっこりと笑った。
今日は散々な日やったけど。でも、こんなに綺麗な朝顔の飴細工もあるし、欧之丞と冒険もしたし。父さんと母さんが迎えに来てくれたし、モモンガも見られたし。
きっとええ日やったんや。
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