上 下
78 / 103
四章

8、見つかってしもた

しおりを挟む
 ぼくと欧之丞は、それぞれ作ってもろた飴細工を見せあった。
 ギンヤンマが飛んできて、ぼくの朝顔にとまる。

「トンボが巨大に見えるよ」
「ほんまやなぁ」

 さすがに朝顔は実物大ってわけにはいかへんもんなぁ。
 そんな風に二人で遊んでいると、ちょっと後ろに立っている元締めさんが「あっ」と声を上げた。

 ぼくは察しがええから。慌てて欧之丞の手を引っ張って、元締めさんの背後に隠れた。
 ざっざっと玉砂利を踏む音が、近づいてくる。
 見なくても、それがうちの組員であると気づいた。

「探しましたよ、若。こんなところにいらしたんですか」
「う、うん」

 波多野や、ぼくのよう知ってる森内やない。波多野は父さんの信頼が厚いから「しゃあないですね。目の届く範囲にいてくださいよ」とため息をつきながら、きっと遊ばせてくれる。
 森内は「俺を誘ってくれたらええのに。ええとこに連れてってあげますよ」と乗ってくる。

「高瀬の坊ちゃん。あなたですか、うちの若を連れだしたのは」
「え?」

 突然名指しされて、欧之丞は呆然とした。
 相手は、ほとんど顔も知らない組員や。ぼくかて、名前すら知らへん。

「勝手なことをされては困ります。いくらカシラに可愛がられているとはいえ、あなたはただの居候なのですから」
「いそうろう? 俺、じゃまってこと?」
「そうですよ。あなたがいらしてから、若は変わってしまわれた。子どもじみた遊びに興じて、そんなつまらない飴細工に夢中になって」

 つまらない? なんでそんなことを言うん?

 ぼくは拳を握りしめた。朝顔の飴についてる棒が折れそうになる。

「俺、こたにいと一緒にいたらだめなの? こたにい、悪くなるの?」
「そうです。若に子どもの友達なんか必要ないんです。あなたは若の足を引っ張ってばかりだ」

 言いたい放題言われた欧之丞は、肩を落としてうなだれた。
 ちがう。ぼくは大人の真似をしてたぼくは、いい子のふりをしてたぼくは……あんなん本物のぼくやない。

「欧之丞は、ぼくの足なんか引っ張ってないっ。欧之丞がおってくれるから、ぼくは強くなれるんや」
「若……」
「黙って出てきたんは謝る。けど、欧之丞を悪く言うんは許さへんっ。今日、家を抜け出そうって誘ったんは、ぼくなんや!」

 滅多に出さない大声を出した所為で、宵祭りに集まってる人らが、立ち止まってぼくらを遠巻きにしてる。
 子どもは母親の着物の袖を引っ張って「あの子、どうしたの?」って訊いてるし。
 ああ、もう悪目立ちしてるやんか。

 目立ちたないから、人の中に溶けこみたいから。内緒で出てきたのに。元締めさんかって気を遣ってくれて、せっかくちょっと離れた位置におってくれたのに。

 なんでぼくの気持ちを分かってくれへんの?

 頭上に浮かんでる無数の提灯の灯りが、滲んで見えた。
 まるで水の中におるみたいに。
 なんでぼやけるんやろ。雨でも降りだしたんやろか。そう思たら、欧之丞が自分のズボンのポケットから手巾ハンカチを取りだした。
 そして、手巾をぼくの目に当てたんや。

 ようやく、ぼくは自分が泣いてるって気づいた。柔らかな手巾が、ぼくの温かい涙を吸い取っていく。
 
「俺が祭りに来たいって言ったんだ。こたにいは関係ない」
「欧之丞……」

 先に宵祭りに行きたいって言いだしたんは、ぼくやった。でも、欧之丞は母さんに食い下がって、どうしても行きたいってせがんだんや。
 
 我の強い欧之丞やけど、そんなに我儘やない。せやから、ぼくは欧之丞の希望を叶えたかってん。

「まぁ、そんな責めんでもええやんか。そろそろ三條さんも帰ってきはるやろ。それまでこの子らの側におったるから、それで堪忍してくれへんか」
「ですが……」
「三條さんから直々に、子どもらの見張りを頼まれたわけやないんやろ。俺が見てるっていうてるのに、なんでお前らがでしゃばるんや?」

 元締めさんの口調は、低く冷たくなっていった。それまでざわついていた周囲の人達も、しんとなったくらいや。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

あなたの子ですが、内緒で育てます

椿蛍
恋愛
「本当にあなたの子ですか?」  突然現れた浮気相手、私の夫である国王陛下の子を身籠っているという。  夫、王妃の座、全て奪われ冷遇される日々――王宮から、追われた私のお腹には陛下の子が宿っていた。  私は強くなることを決意する。 「この子は私が育てます!」  お腹にいる子供は王の子。  王の子だけが不思議な力を持つ。  私は育った子供を連れて王宮へ戻る。  ――そして、私を追い出したことを後悔してください。 ※夫の後悔、浮気相手と虐げられからのざまあ ※他サイト様でも掲載しております。 ※hotランキング1位&エールありがとうございます!

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と叫んだら長年の婚約者だった新妻に「気持ち悪い」と言われた上に父にも予想外の事を言われた男とその浮気女の話

ラララキヲ
恋愛
 長年の婚約者を欺いて平民女と浮気していた侯爵家長男。3年後の白い結婚での離婚を浮気女に約束して、新妻の寝室へと向かう。  初夜に「俺がお前を抱く事は無い!」と愛する夫から宣言された無様な女を嘲笑う為だけに。  しかし寝室に居た妻は……  希望通りの白い結婚と愛人との未来輝く生活の筈が……全てを周りに知られていた上に自分の父親である侯爵家当主から言われた言葉は──  一人の女性を蹴落として掴んだ彼らの未来は……── <【ざまぁ編】【イリーナ編】【コザック第二の人生編(ザマァ有)】となりました> ◇テンプレ浮気クソ男女。 ◇軽い触れ合い表現があるのでR15に ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾は察して下さい… ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング入り(1位)!?[恋愛::3位]ありがとうございます!恐縮です!期待に添えればよいのですがッ!!(;><)

処理中です...