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四章

6、飴細工【1】

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「子どもが二人きりでも危なないように、おじさんが目の届くとこにおったるから。遊んでき」
「え? ええんですか?」

 てっきり家に帰るように言われると思たのに。元締めさんは「今日は特別やで」と微笑んだ。

 欧之丞は「ありがとうございます」と、普段よりも丁寧な言葉遣いをした。
 
「高瀬の子は、三條さんのとこで可愛がってもろとんやな。ええことや」
「おじさんは、欧之丞のことを知ってはるんですね」

「まぁ、高瀬さんはこの辺の地主やからな、多少は。爺さんや父親は面識があったしな。今はこの子が次の当主で、後見人は三條さんやったな……まぁ、その方がええわ。うん、それがええ」
 
 元締めさんの言葉が歯切れ悪いのは、欧之丞がどんな扱いを実家で受け取ったかを知ってるからやろ。

 父さんが、べらべらと喋るはずがないから。多分、この辺りの有力者とかそういう人らは、欧之丞の母親の虐待のことも、父親が家を捨てて出て行ったことも、よう知ってるに違いない。

 大人の間では、きっと欧之丞は「可哀想な、哀れな子ども」やったんやろ。
 でも、今の欧之丞は違う。
 元気いっぱいで、ぼくのことを振り回して。むしろやんちゃな子や。
 全然、可哀想とちゃうもん。

「琥太郎くんもやけど、欧之丞くんもずいぶんと変わったな。元気そうやし、明るなってなによりや」

 大きな手が、欧之丞の頭をわしわしと撫でる。

「うわー、首がもげる」
「なんでや、そこまで力いれてへんやろ。っていうか自分、海ほおずき鳴らすん、下手やな」
「下手じゃないもんっ」

 口を尖らせて言い返す欧之丞。こいつほんまに怖いもん知らずやな。

「ほら、できるもん」と言いながら、欧之丞は海ほおずきを鳴らした。
やっぱり「ぷひぷひ」という、変な音や。
 これは練習が必要やな。
 ま、ぼくも鳴らしたことないけどな。

 元締めさんは、一生懸命に間抜けた音を出す欧之丞を優しいまなざしで見つめとった。

 不思議と欧之丞は、いろんな人に愛される。
 どっちかというと、怖そうな人に。

◇◇◇

「こたにい。俺、あれが欲しい」
「ん? 金魚以外ならええで」

 欧之丞が指さす先を見ると、そこには飴細工の屋台があった。
 透明な柔らかい飴に色を付けて、それを引っ張ったり鋏で切ったりして、いろんな形にしていく。

 どうやら、夜店の台に挿してある飴が獅子や龍の形をしてるのが気に入ったらしい。

「作ってもらおか? 何がええ?」
「え。なんでも作ってもらえるの?」
「うん、だいたいは」

 ぼくは欧之丞の手を引いて、飴細工の幟が夜風にはためく方へと向かった。
 飴細工の職人さんが「なんや坊主ら、飴が欲しいんか」と訊いてくる。けど、すぐにぼくらの背後を見て「いらっしゃいませ」と頭を下げた。

 うん。ちょっと後ろに元締めさんが立ってるからなぁ。それも腕を組んでふんぞりかえってる。威圧感あるよな、この人。
 
「あ、済みません。もしかしてこちらの坊ちゃんたちは……あれ? でも元締めにお子さんは。甥っ子さんでいらっしゃいますか」
「いや。三條んとこの息子らや」


 今度は飴細工の職人さんは「ひっ」と引きつった声を上げた。
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