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三章
15、困ったなぁ【2】※蒼一郎視点
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髪はだいたい洗えたから、今度は手拭いに石鹸の泡をつけて琥太郎に渡してやる。
琥太郎はお兄さんっぽいのが好きやから、自分で洗いたいやろ。
とくに欧之丞と暮らすようになってからは、それまでの一人っ子の甘えん坊が以前よりも薄くなってきとう。
以前は組員に「若はほんまにお母さんのことが大好きですね」と言われて、ようむくれとったけど。
最近は、欧之丞の世話を甲斐甲斐しくしたるから、そんな風に揶揄う奴もおらへん。
父さん、なんか嬉しいわ。
「なぁ、父さん。ほんまによその家は、父親は子どものこと放ったらかしなん? 欧之丞の家が、特別なんとちがうん?」
ほっそい腕を手拭いで洗いながら、琥太郎がじーっと見つめてくる。
「会話もろくにないんとちゃうかなぁ。だいたい父親が子どもに話すときは、命令とか説教とちゃうん?」
「ぼく、そんなんいやや」
「せやなぁ。俺も琥太郎に命令と説教しかできへんのは嫌や」
どうやら俺や琥太郎は、世間の家族と大きな隔たりがあるらしい。むしろ欧之丞の破綻した家庭の方が一般的やもんな。
なんで愛しい妻や子どもを放っておけるんやろ。なんで家族を大事にせんと、他に女を作るんやろ。どうせ、そっちの子も日陰者扱いされて可哀想やのに。
家長やいうてえらそうにして、恐れられて。でも結局、誰のことも大事にせぇへんから、自分自身も大事にしてもらわれへんやんか。
琥太郎は難しい顔をしつつ、手拭いで体を洗っとう。絲さんによう似た白い肌や。
「あのな、父さん」
「ん?」
ごしごしと背中を洗おうとするけど、うまく洗えてへん。
そういえば欧之丞と一緒に風呂に入るときは、お互いに背中を洗ってると聞いたことがあるな。
「手ぬぐいを貸してみ」
俺の言葉に琥太郎は素直に応じた。
もう一度石鹸を泡立てて、小さい背中を洗てやる。力を入れたらあかんから、ゆっくりと。
「なぁ、父さん。ぼくな、父さんのこと嫌いやないで」
「嫌いやない?」
「あ、違う。言い方悪かったかも」
琥太郎は慌てて両手を振っている。けど、俺に背中を向けとうから、あんまり意味がないんやけど。
「ちゃうねん。ほっぺたをすりすりされるんは、痛いから嫌いやねんけど」
「琥太郎は、あれ嫌いなん?」
「いや、嫌いっていうか。その……苦手?」
しどろもどろになりながら、琥太郎が一生懸命に言葉を選んどう。
面白いなぁ。子どもなりに、父親を傷つけんように考えとんやな。
俺は顔がにやけるのを我慢しながら、背中を洗い続けた。
「母さんのほっぺたはすべすべやから、すりすりされても痛ないんやけど。というか、母さんはそんなことせぇへんけど」
「うん。絲さんは頬をくっつけてくれへんよなぁ。寂しいわぁ」
「……むしろ父さんがやりすぎなんやと思う」
うーん。子どもながらに鋭い指摘や。
俺は自分の顎の辺りに手をやった。まぁ、ちくちくするかな?
「けど、ぼくは父さんのことは嫌いやないから」
「琥太郎……もう一声。その言い方は違うって、自分でも分かっとんやろ」
俺の言葉に琥太郎は深呼吸をして、こっちを振り返った。泡だらけの体で。
「ぼく、父さんのこと好きやで」
感動や。まっすぐな瞳できらきらと見つめられて。ああ、父親になって良かったなぁと、俺はしみじみ感じ入った。
琥太郎はお兄さんっぽいのが好きやから、自分で洗いたいやろ。
とくに欧之丞と暮らすようになってからは、それまでの一人っ子の甘えん坊が以前よりも薄くなってきとう。
以前は組員に「若はほんまにお母さんのことが大好きですね」と言われて、ようむくれとったけど。
最近は、欧之丞の世話を甲斐甲斐しくしたるから、そんな風に揶揄う奴もおらへん。
父さん、なんか嬉しいわ。
「なぁ、父さん。ほんまによその家は、父親は子どものこと放ったらかしなん? 欧之丞の家が、特別なんとちがうん?」
ほっそい腕を手拭いで洗いながら、琥太郎がじーっと見つめてくる。
「会話もろくにないんとちゃうかなぁ。だいたい父親が子どもに話すときは、命令とか説教とちゃうん?」
「ぼく、そんなんいやや」
「せやなぁ。俺も琥太郎に命令と説教しかできへんのは嫌や」
どうやら俺や琥太郎は、世間の家族と大きな隔たりがあるらしい。むしろ欧之丞の破綻した家庭の方が一般的やもんな。
なんで愛しい妻や子どもを放っておけるんやろ。なんで家族を大事にせんと、他に女を作るんやろ。どうせ、そっちの子も日陰者扱いされて可哀想やのに。
家長やいうてえらそうにして、恐れられて。でも結局、誰のことも大事にせぇへんから、自分自身も大事にしてもらわれへんやんか。
琥太郎は難しい顔をしつつ、手拭いで体を洗っとう。絲さんによう似た白い肌や。
「あのな、父さん」
「ん?」
ごしごしと背中を洗おうとするけど、うまく洗えてへん。
そういえば欧之丞と一緒に風呂に入るときは、お互いに背中を洗ってると聞いたことがあるな。
「手ぬぐいを貸してみ」
俺の言葉に琥太郎は素直に応じた。
もう一度石鹸を泡立てて、小さい背中を洗てやる。力を入れたらあかんから、ゆっくりと。
「なぁ、父さん。ぼくな、父さんのこと嫌いやないで」
「嫌いやない?」
「あ、違う。言い方悪かったかも」
琥太郎は慌てて両手を振っている。けど、俺に背中を向けとうから、あんまり意味がないんやけど。
「ちゃうねん。ほっぺたをすりすりされるんは、痛いから嫌いやねんけど」
「琥太郎は、あれ嫌いなん?」
「いや、嫌いっていうか。その……苦手?」
しどろもどろになりながら、琥太郎が一生懸命に言葉を選んどう。
面白いなぁ。子どもなりに、父親を傷つけんように考えとんやな。
俺は顔がにやけるのを我慢しながら、背中を洗い続けた。
「母さんのほっぺたはすべすべやから、すりすりされても痛ないんやけど。というか、母さんはそんなことせぇへんけど」
「うん。絲さんは頬をくっつけてくれへんよなぁ。寂しいわぁ」
「……むしろ父さんがやりすぎなんやと思う」
うーん。子どもながらに鋭い指摘や。
俺は自分の顎の辺りに手をやった。まぁ、ちくちくするかな?
「けど、ぼくは父さんのことは嫌いやないから」
「琥太郎……もう一声。その言い方は違うって、自分でも分かっとんやろ」
俺の言葉に琥太郎は深呼吸をして、こっちを振り返った。泡だらけの体で。
「ぼく、父さんのこと好きやで」
感動や。まっすぐな瞳できらきらと見つめられて。ああ、父親になって良かったなぁと、俺はしみじみ感じ入った。
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