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二章
25、線香花火【1】
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ぼくと欧之丞がお風呂から上がったら、晩ご飯が用意されとった。
ねばねばしたオクラ……うーん、これ苦手やねんなぁ。
「欧之丞、オクラいる?」
「うん。たべる」
座卓の隣に座った欧之丞に、ガラスの器に入ったオクラをあげる。かつおぶしと一緒にお箸でくるくるねばねばとまぜて、欧之丞はおいしそうにオクラを食べてる。
なんでこんな大人っぽいのんが好きなんやろ。
「琥太郎さん」
ぴしりと短く名前を呼ばれた。怖々と顔を上げると、お櫃の蓋に手を掛けた母さんが、ぼくを睨んでる。
まぁ、睨まれても怖ないんやけど。
けど、母さんがそんな目をすることは滅多にないから。ちょっと気まずい。
ぼくは、せっせと茄子とししとうの揚げびたしを食べた。
「こたにい、なすびが好きなのか? あげるよ」
「え?」
「それと、このししとう。からいから、あげる」
「ええっ?」
欧之丞がほぼ手つかずの皿を、ぼくの前に置いた。
どないしよ。別に茄子が好きという訳でもないし、辛いししとうはもっと苦手や。
でもオクラを欧之丞にあげた手前、断ることもできへん。
さっきまで厳しい目つきをしとった母さんは、今は笑いを噛み殺している。
もーっ。作戦失敗や。
◇◇◇
食後、ぼくらは花火をした。
紙をこよりにした線香花火。
ブリキのバケツに父さんが水を汲んでくれて、母さんはぼくと欧之丞のそばに座ってる。
「燐寸、すりたい」
「あら。琥太郎さんにはまだ早いですよ」
母さんは微笑みながら、箱の側面で燐寸を擦るけど。
ぺきん、と細い軸が折れてしもた。
「ぼくがするー」
「駄目ですよ。欧之丞さんにも早いです」
欧之丞は両手を伸ばして燐寸箱を取ろうとしたけど。母さんが立ちあがったら、もう届かへん。
一度心配した母さんは、今度は神妙な顔で燐寸を手に取る。
ぼくも欧之丞も息を止めて、母さんの手元を見つめた。
凪の時間が終わって、山の方から風が吹いてくる。ざわざわと庭の木々の葉が音を立てる。
父さんが立つ位置を変えたと思たら、急に風が止んだ。
「ありがとうございます、蒼一郎さん」
「子どもらが待っとうからな」
両親の会話で、そうか父さんが風を防ぐ盾になったんやと気づいた。
うーん。会話も無しにそういうことが自然に出来るんは、粋やんなぁ。
ぼくは常々、粋でかっこよくありたいと思ってるから。覚えとこ。
しゅって、音を立てて燐寸が擦られると、橙色の温かい色の火がぽうっと点った。
その小さな火が消えんように、母さんは手で覆って蝋燭に移す。
触ったら熱いんやろけど。柔らかい火やった。
「はい、いいですよ。火傷をしないように気を付けてね」
欧之丞が、手渡された線香花火を蝋燭の火に近づけたけど。なかなかうまいこと火がつかへん。
紙のこよりやから、ゆらゆらして目標が定まらへんねん。
「これ、ほそいから、むずかしい」
「そうねぇ。じゃあ、一緒に点けましょうね」
母さんが欧之丞の小さい手に、自分の手を添えた。
蝋燭の灯りに照らされた欧之丞は緊張した顔をしとう。
「むーっ。失敗できない」
「そうね。頑張ってね」
ぼくは自分でしよ。母さんに手伝ってもらうなんて子どもっぽいもんな。
まぁ、欧之丞は気にせぇへんみたいやけど。
ねばねばしたオクラ……うーん、これ苦手やねんなぁ。
「欧之丞、オクラいる?」
「うん。たべる」
座卓の隣に座った欧之丞に、ガラスの器に入ったオクラをあげる。かつおぶしと一緒にお箸でくるくるねばねばとまぜて、欧之丞はおいしそうにオクラを食べてる。
なんでこんな大人っぽいのんが好きなんやろ。
「琥太郎さん」
ぴしりと短く名前を呼ばれた。怖々と顔を上げると、お櫃の蓋に手を掛けた母さんが、ぼくを睨んでる。
まぁ、睨まれても怖ないんやけど。
けど、母さんがそんな目をすることは滅多にないから。ちょっと気まずい。
ぼくは、せっせと茄子とししとうの揚げびたしを食べた。
「こたにい、なすびが好きなのか? あげるよ」
「え?」
「それと、このししとう。からいから、あげる」
「ええっ?」
欧之丞がほぼ手つかずの皿を、ぼくの前に置いた。
どないしよ。別に茄子が好きという訳でもないし、辛いししとうはもっと苦手や。
でもオクラを欧之丞にあげた手前、断ることもできへん。
さっきまで厳しい目つきをしとった母さんは、今は笑いを噛み殺している。
もーっ。作戦失敗や。
◇◇◇
食後、ぼくらは花火をした。
紙をこよりにした線香花火。
ブリキのバケツに父さんが水を汲んでくれて、母さんはぼくと欧之丞のそばに座ってる。
「燐寸、すりたい」
「あら。琥太郎さんにはまだ早いですよ」
母さんは微笑みながら、箱の側面で燐寸を擦るけど。
ぺきん、と細い軸が折れてしもた。
「ぼくがするー」
「駄目ですよ。欧之丞さんにも早いです」
欧之丞は両手を伸ばして燐寸箱を取ろうとしたけど。母さんが立ちあがったら、もう届かへん。
一度心配した母さんは、今度は神妙な顔で燐寸を手に取る。
ぼくも欧之丞も息を止めて、母さんの手元を見つめた。
凪の時間が終わって、山の方から風が吹いてくる。ざわざわと庭の木々の葉が音を立てる。
父さんが立つ位置を変えたと思たら、急に風が止んだ。
「ありがとうございます、蒼一郎さん」
「子どもらが待っとうからな」
両親の会話で、そうか父さんが風を防ぐ盾になったんやと気づいた。
うーん。会話も無しにそういうことが自然に出来るんは、粋やんなぁ。
ぼくは常々、粋でかっこよくありたいと思ってるから。覚えとこ。
しゅって、音を立てて燐寸が擦られると、橙色の温かい色の火がぽうっと点った。
その小さな火が消えんように、母さんは手で覆って蝋燭に移す。
触ったら熱いんやろけど。柔らかい火やった。
「はい、いいですよ。火傷をしないように気を付けてね」
欧之丞が、手渡された線香花火を蝋燭の火に近づけたけど。なかなかうまいこと火がつかへん。
紙のこよりやから、ゆらゆらして目標が定まらへんねん。
「これ、ほそいから、むずかしい」
「そうねぇ。じゃあ、一緒に点けましょうね」
母さんが欧之丞の小さい手に、自分の手を添えた。
蝋燭の灯りに照らされた欧之丞は緊張した顔をしとう。
「むーっ。失敗できない」
「そうね。頑張ってね」
ぼくは自分でしよ。母さんに手伝ってもらうなんて子どもっぽいもんな。
まぁ、欧之丞は気にせぇへんみたいやけど。
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