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二章

24、お風呂【2】※欧之丞視点

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 こたにいが何がかくしている。
 たぶん、こたにいは気づいてないだろうけど。俺に知られたくないことがあるときは、ほんのちょっとだけ目をそらすんだ。

 なんだろ。
 絲おばさんのことかな? 実は俺がわたしたヤドカリのせいじゃなくて、ほんとの病気とか?

 ううん。ちがうな。それだったら蒼一郎おじさんは、ものすごく心配するもん。
 
 俺は体をごしごし洗いながら、首をかしげた。
 せなかは洗いにくいから、てぬぐいを両手でひっぱるようにしてあらうんだ。

 うでとか、おなかを洗ってる時は気にならなかったけど。せなかは、なんだかてぬぐいがひっかかるように思える。

 あ、そうか。俺のせなかは傷があったんだ。
 以前はすっごく気になってたのに。最近は、わすれることが多かった。

 もしかして、こたにいがかくしてるのは。俺の母さんのことなのかな。
 俺の手がとまっていたせいか、こたにいが「どうしたん?」と声をかけてくる。

「ヤドカリのことやったら、気にせんでええで。母さんはすぐに気絶するから」
「う、うん」
「ぼくは慣れとうし、家やったら父さんとか波多野がおるからええんやけど。さすがに外やったら、びっくりするよな」
「うん」

 俺は、たずねることができなかった。
 こたにいが、かくしたいと思ってるのなら、多分聞かない方がいいんだ。

 それはきっと、俺のためなんだから。

 突然、目の前にふわふわとシャボン玉が飛んできた。

「ほら、見てみ。きれいやろ」

 見れば、こたにいが人さし指と親指をわっかにして、シャボン玉を作っている。
 虹みたいな色をきらめかせて、シャボン玉はすぐに消えていった。

「きれい」
「せやろ。欧之丞はなんも心配せんでええんやで。琥太郎兄ちゃんが守ったるからな。ずっとずっと守ったるからな」

 こたにいは、少しさびしい笑顔をうかべる。

「俺もシャボン玉、つくる」
「じゃあ、石鹸を溶かそか」

 二人してお湯をくむ桶に石鹸水をつくって、順番にシャボン玉を飛ばす。
 お風呂場の天井までしかとどかないシャボン玉。

 俺は思いついて、まどを開いた。
 夕方の少しすずしくなった風が、シャボン玉を外へとはこんでいく。

「どこまで行くんだろ」

 俺は、空へとすいこまれていくシャボン玉をながめていた。
 ほんとのことを聞かされない方が、守られてるっていうのをはじめて知った夕暮れ。

 母さんがいなくなって、さびしいかとたずねられたら。多分、答えられない。
 それを親不孝っていう人がいるかもしれないけど。

 俺にとってあの人は、ただただ怖いだけの人だった。何度もころされそうになって、そのたびにあの人は泣きわめいて。
 もし、鬼とかやまんばとか、そういうのがいたら。母さんのすがたをしてるのかもしれない。
 
 ふいに、ガラリとお風呂の戸がひらいた。

「なんや、二人して遊んどったんか。あんまりにも遅いから、湯あたりしとんかと思て心配したやんか」
「大丈夫? 早く上がっていらっしゃい」

 顔をのぞかせたのは、蒼一郎おじさんと絲おばさんだ。ふわふわのかみをゆるく三つ編みにした絲おばさんは、お姉さんみたいに見える。
 
「絲おばさん。もう平気なの?」
「ええ、大丈夫よ。心配をかけてしまったわね、ごめんなさいね」

 絲おばさんは柔らかく微笑む。
 あやまるのは俺の方なのに。

 でも、こうして心配してくれる人たちがいて、俺は今はしあわせなんだ。
 慣れないやさしさや、あたたかさに、時々もぞもぞするけど。
 でも、すごくうれしいんだ。
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