琥太郎と欧之丞・一年早く生まれたからお兄ちゃんとか照れるやん

真風月花

文字の大きさ
上 下
43 / 103
二章

21、帰り道【2】※蒼一郎視点

しおりを挟む
 最近暑いから、絲さんはちょっと軽なったみたいやった。
 夏痩せやろか? 

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 俺の隣を歩く欧之丞は、じーっと俺と絲さんを見上げながら何度も謝って来る。
 あかんぞ、前を見て歩かんと転ぶからな。

 そう思ったとたんに、欧之丞は松の根につまずいた。

「あぶないっ」と叫んだ琥太郎が、あろうことか欧之丞の下敷きになる。
 埃くさいような、苔や土の匂いが鼻をかすめた。

「いてて」
「こたにいっ」
「欧之丞、怪我あらへんか? すりむいてないか?」

「うんうん」と何度もうなずく欧之丞の頭を、地面に寝っ転がったままの琥太郎が撫でてやっている。

 うわっ、父さんは感動したわ。都合が悪なった時はええ子のふりをして、大人の目をごまかして。自分勝手な琥太郎とも思われへんかった。
 しかも欧之丞に手を貸して、膝についた枯れた松葉や土を払ってやっている。立派なお兄ちゃんやん。

「お前、成長したなぁ」
「なにが?」

 自分の膝やら半ズボンについた土を払いながら、琥太郎が俺を睨みつける。ええで、存分に睨んでも。ちょっとは親に反抗せんとな。

「あ、日傘っ。忘れるとこやった」

 突然琥太郎は踵を返して、浜の方へ戻った。どうしたんやろと思うと、手に絲さんの日傘を持って帰ってくる。

「えらいやん、琥太郎。その日傘は絲さんのお気に入りやからな。失くしたら残念がるわ」
「そうや。そう思て、取ってきてん」

 ふふん、と顎を上げる琥太郎を、欧之丞は「こたにいは、えらいなー」と感心している。
 さっきまで泣きそうやった欧之丞も、俺が来たことで安心したんか、今はもう元気や。

 せやろ? 俺とおったら安心やろ?

 不思議なもので、俺も琥太郎も欧之丞の前では自信がつくみたいや。
 この子は素直やから、つい可愛がりたくなるんやな。

 抱えた絲さんの体は、具合が悪い時のようにはぐったりとはしてへん。
 せやから、心配せんでええんやで。

 じりじりと照りつける陽射しに、汗がにじんでくる。
 振り返ると、琥太郎は右手で欧之丞の手を握り、左手に閉じた日傘を持っている。
 真っ青な空と海。ぽっかりと浮かんだ夏雲。
 その中を手をつないで歩く二人は、まるで絵に描いたように鮮やかや。
 俺は眩しさに目を細めた。
 
「ちゃんと前見て歩くんやで」
「うん、こたにい」
 
 しっかりとうなずく欧之丞を見て、琥太郎は微笑んだ。子どもらを眺めてると、俺まで自然に頬が緩んでくる。

 気を失っとう絲さんには申し訳ないけど。こういうのが幸せっていうんやろな。

 家に帰ると、波多野が「ぎゃーっ」と悲鳴を上げた。
 門の側におる組員は、意識のない絲さんよりも波多野の声に驚いた様子や。

「絲お嬢さん。どうしたんですか? 倒れはったんですか」
「まぁ、倒れとうのは事実やな」
「具合が悪なったんですね。医者を……若先生を呼んできます」
「その必要はないと思うけどなぁ」

「なんでそんなに呑気なんですかっ」

 なんでって。なんで俺は波多野に叱られとんやろ。

 真っ青な顔をして、おろおろと俺の周り……というか絲さんの周りにまとわりつく波多野。
 お前、ほんまに絲さんのこと好きやな。

「そないに心配せんでええ。ヤドカリに驚いて気ぃ失っとうだけやから」
「ですが」
「まぁ、気になるんやったら。冷たいもんでも用意しといたって。子どもらが汗かいとうから」

 俺は、あごで背後に立つ二人を指し示した。

「うわーっ。琥太郎坊ちゃん、欧之丞坊ちゃん。汗だくじゃないですか」

 波多野は庭にしゃがみ込んで、慌てて子どもらの顔を覗きこむ。麦わら帽子を脱がせてやって、手拭いで汗を拭いてやってもいる。
 甲斐甲斐しいなぁ。
 お前、ほんまにこの子らのこと好きやな。
 俺とか、他の奴らに対しては淡々としとうくせして。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

服を脱いで妹に食べられにいく兄

スローン
恋愛
貞操観念ってのが逆転してる世界らしいです。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

お父さんのお嫁さんに私はなる

色部耀
恋愛
お父さんのお嫁さんになるという約束……。私は今夜それを叶える――。

処理中です...