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二章
21、帰り道【2】※蒼一郎視点
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最近暑いから、絲さんはちょっと軽なったみたいやった。
夏痩せやろか?
「ごめんなさい、ごめんなさい」
俺の隣を歩く欧之丞は、じーっと俺と絲さんを見上げながら何度も謝って来る。
あかんぞ、前を見て歩かんと転ぶからな。
そう思ったとたんに、欧之丞は松の根につまずいた。
「あぶないっ」と叫んだ琥太郎が、あろうことか欧之丞の下敷きになる。
埃くさいような、苔や土の匂いが鼻をかすめた。
「いてて」
「こたにいっ」
「欧之丞、怪我あらへんか? すりむいてないか?」
「うんうん」と何度もうなずく欧之丞の頭を、地面に寝っ転がったままの琥太郎が撫でてやっている。
うわっ、父さんは感動したわ。都合が悪なった時はええ子のふりをして、大人の目をごまかして。自分勝手な琥太郎とも思われへんかった。
しかも欧之丞に手を貸して、膝についた枯れた松葉や土を払ってやっている。立派なお兄ちゃんやん。
「お前、成長したなぁ」
「なにが?」
自分の膝やら半ズボンについた土を払いながら、琥太郎が俺を睨みつける。ええで、存分に睨んでも。ちょっとは親に反抗せんとな。
「あ、日傘っ。忘れるとこやった」
突然琥太郎は踵を返して、浜の方へ戻った。どうしたんやろと思うと、手に絲さんの日傘を持って帰ってくる。
「えらいやん、琥太郎。その日傘は絲さんのお気に入りやからな。失くしたら残念がるわ」
「そうや。そう思て、取ってきてん」
ふふん、と顎を上げる琥太郎を、欧之丞は「こたにいは、えらいなー」と感心している。
さっきまで泣きそうやった欧之丞も、俺が来たことで安心したんか、今はもう元気や。
せやろ? 俺とおったら安心やろ?
不思議なもので、俺も琥太郎も欧之丞の前では自信がつくみたいや。
この子は素直やから、つい可愛がりたくなるんやな。
抱えた絲さんの体は、具合が悪い時のようにはぐったりとはしてへん。
せやから、心配せんでええんやで。
じりじりと照りつける陽射しに、汗がにじんでくる。
振り返ると、琥太郎は右手で欧之丞の手を握り、左手に閉じた日傘を持っている。
真っ青な空と海。ぽっかりと浮かんだ夏雲。
その中を手をつないで歩く二人は、まるで絵に描いたように鮮やかや。
俺は眩しさに目を細めた。
「ちゃんと前見て歩くんやで」
「うん、こたにい」
しっかりとうなずく欧之丞を見て、琥太郎は微笑んだ。子どもらを眺めてると、俺まで自然に頬が緩んでくる。
気を失っとう絲さんには申し訳ないけど。こういうのが幸せっていうんやろな。
家に帰ると、波多野が「ぎゃーっ」と悲鳴を上げた。
門の側におる組員は、意識のない絲さんよりも波多野の声に驚いた様子や。
「絲お嬢さん。どうしたんですか? 倒れはったんですか」
「まぁ、倒れとうのは事実やな」
「具合が悪なったんですね。医者を……若先生を呼んできます」
「その必要はないと思うけどなぁ」
「なんでそんなに呑気なんですかっ」
なんでって。なんで俺は波多野に叱られとんやろ。
真っ青な顔をして、おろおろと俺の周り……というか絲さんの周りにまとわりつく波多野。
お前、ほんまに絲さんのこと好きやな。
「そないに心配せんでええ。ヤドカリに驚いて気ぃ失っとうだけやから」
「ですが」
「まぁ、気になるんやったら。冷たいもんでも用意しといたって。子どもらが汗かいとうから」
俺は、あごで背後に立つ二人を指し示した。
「うわーっ。琥太郎坊ちゃん、欧之丞坊ちゃん。汗だくじゃないですか」
波多野は庭にしゃがみ込んで、慌てて子どもらの顔を覗きこむ。麦わら帽子を脱がせてやって、手拭いで汗を拭いてやってもいる。
甲斐甲斐しいなぁ。
お前、ほんまにこの子らのこと好きやな。
俺とか、他の奴らに対しては淡々としとうくせして。
夏痩せやろか?
「ごめんなさい、ごめんなさい」
俺の隣を歩く欧之丞は、じーっと俺と絲さんを見上げながら何度も謝って来る。
あかんぞ、前を見て歩かんと転ぶからな。
そう思ったとたんに、欧之丞は松の根につまずいた。
「あぶないっ」と叫んだ琥太郎が、あろうことか欧之丞の下敷きになる。
埃くさいような、苔や土の匂いが鼻をかすめた。
「いてて」
「こたにいっ」
「欧之丞、怪我あらへんか? すりむいてないか?」
「うんうん」と何度もうなずく欧之丞の頭を、地面に寝っ転がったままの琥太郎が撫でてやっている。
うわっ、父さんは感動したわ。都合が悪なった時はええ子のふりをして、大人の目をごまかして。自分勝手な琥太郎とも思われへんかった。
しかも欧之丞に手を貸して、膝についた枯れた松葉や土を払ってやっている。立派なお兄ちゃんやん。
「お前、成長したなぁ」
「なにが?」
自分の膝やら半ズボンについた土を払いながら、琥太郎が俺を睨みつける。ええで、存分に睨んでも。ちょっとは親に反抗せんとな。
「あ、日傘っ。忘れるとこやった」
突然琥太郎は踵を返して、浜の方へ戻った。どうしたんやろと思うと、手に絲さんの日傘を持って帰ってくる。
「えらいやん、琥太郎。その日傘は絲さんのお気に入りやからな。失くしたら残念がるわ」
「そうや。そう思て、取ってきてん」
ふふん、と顎を上げる琥太郎を、欧之丞は「こたにいは、えらいなー」と感心している。
さっきまで泣きそうやった欧之丞も、俺が来たことで安心したんか、今はもう元気や。
せやろ? 俺とおったら安心やろ?
不思議なもので、俺も琥太郎も欧之丞の前では自信がつくみたいや。
この子は素直やから、つい可愛がりたくなるんやな。
抱えた絲さんの体は、具合が悪い時のようにはぐったりとはしてへん。
せやから、心配せんでええんやで。
じりじりと照りつける陽射しに、汗がにじんでくる。
振り返ると、琥太郎は右手で欧之丞の手を握り、左手に閉じた日傘を持っている。
真っ青な空と海。ぽっかりと浮かんだ夏雲。
その中を手をつないで歩く二人は、まるで絵に描いたように鮮やかや。
俺は眩しさに目を細めた。
「ちゃんと前見て歩くんやで」
「うん、こたにい」
しっかりとうなずく欧之丞を見て、琥太郎は微笑んだ。子どもらを眺めてると、俺まで自然に頬が緩んでくる。
気を失っとう絲さんには申し訳ないけど。こういうのが幸せっていうんやろな。
家に帰ると、波多野が「ぎゃーっ」と悲鳴を上げた。
門の側におる組員は、意識のない絲さんよりも波多野の声に驚いた様子や。
「絲お嬢さん。どうしたんですか? 倒れはったんですか」
「まぁ、倒れとうのは事実やな」
「具合が悪なったんですね。医者を……若先生を呼んできます」
「その必要はないと思うけどなぁ」
「なんでそんなに呑気なんですかっ」
なんでって。なんで俺は波多野に叱られとんやろ。
真っ青な顔をして、おろおろと俺の周り……というか絲さんの周りにまとわりつく波多野。
お前、ほんまに絲さんのこと好きやな。
「そないに心配せんでええ。ヤドカリに驚いて気ぃ失っとうだけやから」
「ですが」
「まぁ、気になるんやったら。冷たいもんでも用意しといたって。子どもらが汗かいとうから」
俺は、あごで背後に立つ二人を指し示した。
「うわーっ。琥太郎坊ちゃん、欧之丞坊ちゃん。汗だくじゃないですか」
波多野は庭にしゃがみ込んで、慌てて子どもらの顔を覗きこむ。麦わら帽子を脱がせてやって、手拭いで汗を拭いてやってもいる。
甲斐甲斐しいなぁ。
お前、ほんまにこの子らのこと好きやな。
俺とか、他の奴らに対しては淡々としとうくせして。
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