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二章
19、口喧嘩 ※絲視点
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あんなにも泣いていた欧之丞さんが、浜辺で波に磨かれたガラスを見つけてようやく笑っていたというのに。
今度は琥太郎さんと口喧嘩を始めるんですもの。困ってしまいます。
「欧之丞は、甘えん坊のくせに生意気や」
「ふーんだ。すなおになれないこたにいが、わるいんだもん」
元々、そんな内容の喧嘩だったかしら。
わたしは薄桃色のハマヒルガオの群生の側で、ぼんやりと二人の喧嘩を眺めていました。
「琥太郎さん、欧之丞さん。喧嘩なら、日陰でしなさいな」
二人の背中を押して、松林へと導きます。
夢中になって、具合が悪くなってはいけませんからね。
ええ、その辺りの加減はわたしは得意なんですよ。
さほど体が丈夫ではない琥太郎さんも、あまり寝付くことはないんです。
松林の中に入ると、一瞬ひんやりとしました。
むーっ、と頬を膨らませた欧之丞さん。
琥太郎さんったら意地悪をして、そのふくふくしたほっぺたをつねるんです。
「な・ま・い・き」
「うるひゃいなー。こたにいのばーかばーか」
「なんやて。ぼくの方が賢いわ」
「俺もかしこいもんっ」
う、うーん。醜い争いです。
でも子どもには喧嘩の経験が必要なんですよね。わたしは経験がないんですけど。
「あー、賢く生まれてよかった」
「俺もーっ」
「えー、どうやろなぁ。欧之丞やもん、無理と……」
さすがに言いすぎです。わたしは、琥太郎さんの肩をとんとんと指でつつきました。
まぁ、本人が自分は賢いと言っているだけあって、すぐに琥太郎さんは言いすぎたと気づいたようです。
頬を膨らませて、うつむいてしまった欧之丞さんを目にして、はっとした表情を浮かべました。
「ごめん、ごめんな。ムキになってしもた」
「うーっ」
口を尖らせた欧之丞さんは、ちゃんと言葉が出てこないようです。
「あかんよな。ぼくは欧之丞の兄ちゃんやのに。欧之丞を守らなあかんのに」
琥太郎さんは恐る恐る欧之丞さんに手を伸ばしました。
小さな拳を握りしめて、唇を噛みしめる欧之丞さんを、きゅっと抱きしめます。
「ごめんな、ほんまにごめん」
「……うん」
素直に頷く欧之丞さんと、必死に謝る琥太郎さんを見ていると、不思議と穏やかな心地になりました。
子どもと喧嘩をしたこともない琥太郎さんなのに。ちゃんと仲直りができるのですね。
もう二人でも大丈夫かしら。
わたしは、てのひらでガラスが温くなっているのに気づきました。
どうやら緊張で、強く握りしめていたらしいです。
欧之丞さんがくれた水色のガラスは、本当に砂糖をまぶした飴のようです。
心地よい海風、沖合を行く白い帆掛け舟。のんびりとした時間が過ぎていきます。
「欧之丞。貝を探しにいこか」
「うん」
二人は再び、光の中へと走っていきました。しっかりと手をつないで。
長らく床に就いていたけれど、もともと元気で体力があるのね。欧之丞さんの走りは速いです。
琥太郎さんは、砂に足を取られつつも欧之丞さんに引っ張られて走っています。
「ねぇ、絲おばさん。貝がいた。みてみてー」
すぐに戻ってきた欧之丞さんを、琥太郎さんが「ちょっと、待ちぃや」と追いかけています。
そうねぇ、こうして浜を走っていれば琥太郎さんも足腰が強くなるんじゃないかしら。
論理的と言うか、何かをする前に頭でじっくりと考えすぎてしまう子ですもの。理由もなく走るということが、これまでなかったのね。
「母さんに見せる前に、ぼくに見せっ」
「やだっ。絲おばさんが先」
「母さんが食べてまうやろ。今度のは、ガラスとちごて貝なんやから」
……散々な言われようです。
ねぇ、琥太郎さん。あなた、わたしのことをどんな風に思っているのかしら。
おかしいわ。蒼一郎さんには、ちゃんと母親をしていると褒めて頂いたのに。
今度は琥太郎さんと口喧嘩を始めるんですもの。困ってしまいます。
「欧之丞は、甘えん坊のくせに生意気や」
「ふーんだ。すなおになれないこたにいが、わるいんだもん」
元々、そんな内容の喧嘩だったかしら。
わたしは薄桃色のハマヒルガオの群生の側で、ぼんやりと二人の喧嘩を眺めていました。
「琥太郎さん、欧之丞さん。喧嘩なら、日陰でしなさいな」
二人の背中を押して、松林へと導きます。
夢中になって、具合が悪くなってはいけませんからね。
ええ、その辺りの加減はわたしは得意なんですよ。
さほど体が丈夫ではない琥太郎さんも、あまり寝付くことはないんです。
松林の中に入ると、一瞬ひんやりとしました。
むーっ、と頬を膨らませた欧之丞さん。
琥太郎さんったら意地悪をして、そのふくふくしたほっぺたをつねるんです。
「な・ま・い・き」
「うるひゃいなー。こたにいのばーかばーか」
「なんやて。ぼくの方が賢いわ」
「俺もかしこいもんっ」
う、うーん。醜い争いです。
でも子どもには喧嘩の経験が必要なんですよね。わたしは経験がないんですけど。
「あー、賢く生まれてよかった」
「俺もーっ」
「えー、どうやろなぁ。欧之丞やもん、無理と……」
さすがに言いすぎです。わたしは、琥太郎さんの肩をとんとんと指でつつきました。
まぁ、本人が自分は賢いと言っているだけあって、すぐに琥太郎さんは言いすぎたと気づいたようです。
頬を膨らませて、うつむいてしまった欧之丞さんを目にして、はっとした表情を浮かべました。
「ごめん、ごめんな。ムキになってしもた」
「うーっ」
口を尖らせた欧之丞さんは、ちゃんと言葉が出てこないようです。
「あかんよな。ぼくは欧之丞の兄ちゃんやのに。欧之丞を守らなあかんのに」
琥太郎さんは恐る恐る欧之丞さんに手を伸ばしました。
小さな拳を握りしめて、唇を噛みしめる欧之丞さんを、きゅっと抱きしめます。
「ごめんな、ほんまにごめん」
「……うん」
素直に頷く欧之丞さんと、必死に謝る琥太郎さんを見ていると、不思議と穏やかな心地になりました。
子どもと喧嘩をしたこともない琥太郎さんなのに。ちゃんと仲直りができるのですね。
もう二人でも大丈夫かしら。
わたしは、てのひらでガラスが温くなっているのに気づきました。
どうやら緊張で、強く握りしめていたらしいです。
欧之丞さんがくれた水色のガラスは、本当に砂糖をまぶした飴のようです。
心地よい海風、沖合を行く白い帆掛け舟。のんびりとした時間が過ぎていきます。
「欧之丞。貝を探しにいこか」
「うん」
二人は再び、光の中へと走っていきました。しっかりと手をつないで。
長らく床に就いていたけれど、もともと元気で体力があるのね。欧之丞さんの走りは速いです。
琥太郎さんは、砂に足を取られつつも欧之丞さんに引っ張られて走っています。
「ねぇ、絲おばさん。貝がいた。みてみてー」
すぐに戻ってきた欧之丞さんを、琥太郎さんが「ちょっと、待ちぃや」と追いかけています。
そうねぇ、こうして浜を走っていれば琥太郎さんも足腰が強くなるんじゃないかしら。
論理的と言うか、何かをする前に頭でじっくりと考えすぎてしまう子ですもの。理由もなく走るということが、これまでなかったのね。
「母さんに見せる前に、ぼくに見せっ」
「やだっ。絲おばさんが先」
「母さんが食べてまうやろ。今度のは、ガラスとちごて貝なんやから」
……散々な言われようです。
ねぇ、琥太郎さん。あなた、わたしのことをどんな風に思っているのかしら。
おかしいわ。蒼一郎さんには、ちゃんと母親をしていると褒めて頂いたのに。
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