28 / 103
二章
6、子ども達の寝顔【2】※蒼一郎視点
しおりを挟む
絲さんは、麦茶と冷酒の載った盆を持っとった。それと小さな包みを三つ。
「二人ともよく寝ていますね。今日は琥太郎さんは、静かにお布団にいるかしら」
「せやなぁ。時々、欧之丞の上にでろーんと乗っかっとうからな」
我が息子ながら「お前は猫か」と愚痴の一つもこぼしたくなる。
そうやなくとも、片足を欧之丞の体にかけてる場合もある。
さらにひどい時は、欧之丞を乗り越えて畳の上をころころと転がっとう。
絲さんは布団の側にしゃがむと、小さい包みを二人の枕元に置いた。
オイルランプの灯りに透かして、中をよく確認している。
「それ、なんなん?」
「琥太郎さんの分はゼリビンズで、欧之丞さんの分は薄荷飴ですよ」
ゼリビンズって、あれか。赤やら黄色やら緑やらの、豆みたいな形で歯触りがくにっとした妙な菓子。
欧之丞は小さいくせして甘いもんが苦手やけど。薄荷は好きなんやな。確か檸檬もか。
それもあって、絲さんは時々料理番に教えてもらって檸檬やら薄荷のゼリィを作ってる。
琥太郎と欧之丞が二人揃って食べられる菓子やからや。
きっと子どもらが目ぇ覚ました時に、枕元に置かれた包みを見て顔を輝かせるのを、絲さんは楽しみにしとんやろ。
「夏に三太九郎は来ぉへんやろ?」
「聖夜でなくとも、特別に年に二回来ることもあるかもしれませんよ。この子達、いい子にしていますから」
おっと。それやったら琥太郎が、絲さんを俺に差し出して頬をすりすりするんからは逃れようと画策しとうことは、黙っといたろ。
なぁ、琥太郎。ええ父さんやろ?
せやから、これからも抱っこされて、頬もすりすりされるんやで。
「蒼一郎さんの分もあるのよ」
「まーたぁ。絲さんが食べたかったんやろ?」
「ふふっ。ばれました?」
悪戯っ子のように、絲さんは小さく笑った。
こうしてると、結婚前の女學生の頃みたいや。
祝言を上げても子どもが出来ても、絲さんは変わらへん。俺がずっとずっと恋い焦がれて、大事にして……たまには無茶もさせたけど、一途に好いとう絲さんのまんまや。
絲さんは、眠っとう子どもらを団扇であおいだった。
女學生の時とは、やっぱりちょっと変わったかな? あの頃にはない、落ち着きを感じる。
「蒼一郎さんもゼリビンズ、召し上がりますか?」
「俺は薄荷飴の方がええかな。でもまぁ、ゼリビンズにしとこか」
縁側に腰を下ろすと、絲さんは小さな包みの紐をほどいた。
中には藤色や黄色、淡い緑のゼリビンズと、白い薄荷飴が入っとった。
「あら、失敗しちゃったかも。薄荷の香りが移ってしまいますね」
「そもそもゼリビンズは匂いがきついから、麦茶に合わへんのとちゃうん?」
「それを言ったら薄荷飴もですよ」
じゃあ、そもそもなんで麦茶を持ってきたん? という話になるので、俺は口を閉ざした。
酒にも合わへんしな。
藤色のゼリビンズを一つ口に放り込む。
舐めたらええんか、噛んだらええんか微妙な触感や。
「琥太郎さん、今日は静かに寝ていますね」
「欧之丞に寝相を指摘されたからやろな。無意識で、どこまで行儀ようしてられるかは謎やけど」
絲さんは薄緑のゼリビンズをつまんだ。
「これね、青林檎の味なんですよ。爽やかなんです」
「絲さん『蒼一郎さん、あーんして』は?」
「え?」
自分の口に持って行こうとした指を止めて、絲さんは目を丸くした。
「二人ともよく寝ていますね。今日は琥太郎さんは、静かにお布団にいるかしら」
「せやなぁ。時々、欧之丞の上にでろーんと乗っかっとうからな」
我が息子ながら「お前は猫か」と愚痴の一つもこぼしたくなる。
そうやなくとも、片足を欧之丞の体にかけてる場合もある。
さらにひどい時は、欧之丞を乗り越えて畳の上をころころと転がっとう。
絲さんは布団の側にしゃがむと、小さい包みを二人の枕元に置いた。
オイルランプの灯りに透かして、中をよく確認している。
「それ、なんなん?」
「琥太郎さんの分はゼリビンズで、欧之丞さんの分は薄荷飴ですよ」
ゼリビンズって、あれか。赤やら黄色やら緑やらの、豆みたいな形で歯触りがくにっとした妙な菓子。
欧之丞は小さいくせして甘いもんが苦手やけど。薄荷は好きなんやな。確か檸檬もか。
それもあって、絲さんは時々料理番に教えてもらって檸檬やら薄荷のゼリィを作ってる。
琥太郎と欧之丞が二人揃って食べられる菓子やからや。
きっと子どもらが目ぇ覚ました時に、枕元に置かれた包みを見て顔を輝かせるのを、絲さんは楽しみにしとんやろ。
「夏に三太九郎は来ぉへんやろ?」
「聖夜でなくとも、特別に年に二回来ることもあるかもしれませんよ。この子達、いい子にしていますから」
おっと。それやったら琥太郎が、絲さんを俺に差し出して頬をすりすりするんからは逃れようと画策しとうことは、黙っといたろ。
なぁ、琥太郎。ええ父さんやろ?
せやから、これからも抱っこされて、頬もすりすりされるんやで。
「蒼一郎さんの分もあるのよ」
「まーたぁ。絲さんが食べたかったんやろ?」
「ふふっ。ばれました?」
悪戯っ子のように、絲さんは小さく笑った。
こうしてると、結婚前の女學生の頃みたいや。
祝言を上げても子どもが出来ても、絲さんは変わらへん。俺がずっとずっと恋い焦がれて、大事にして……たまには無茶もさせたけど、一途に好いとう絲さんのまんまや。
絲さんは、眠っとう子どもらを団扇であおいだった。
女學生の時とは、やっぱりちょっと変わったかな? あの頃にはない、落ち着きを感じる。
「蒼一郎さんもゼリビンズ、召し上がりますか?」
「俺は薄荷飴の方がええかな。でもまぁ、ゼリビンズにしとこか」
縁側に腰を下ろすと、絲さんは小さな包みの紐をほどいた。
中には藤色や黄色、淡い緑のゼリビンズと、白い薄荷飴が入っとった。
「あら、失敗しちゃったかも。薄荷の香りが移ってしまいますね」
「そもそもゼリビンズは匂いがきついから、麦茶に合わへんのとちゃうん?」
「それを言ったら薄荷飴もですよ」
じゃあ、そもそもなんで麦茶を持ってきたん? という話になるので、俺は口を閉ざした。
酒にも合わへんしな。
藤色のゼリビンズを一つ口に放り込む。
舐めたらええんか、噛んだらええんか微妙な触感や。
「琥太郎さん、今日は静かに寝ていますね」
「欧之丞に寝相を指摘されたからやろな。無意識で、どこまで行儀ようしてられるかは謎やけど」
絲さんは薄緑のゼリビンズをつまんだ。
「これね、青林檎の味なんですよ。爽やかなんです」
「絲さん『蒼一郎さん、あーんして』は?」
「え?」
自分の口に持って行こうとした指を止めて、絲さんは目を丸くした。
0
お気に入りに追加
118
あなたにおすすめの小説
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
イケメン彼氏は警察官!甘い夜に私の体は溶けていく。
すずなり。
恋愛
人数合わせで参加した合コン。
そこで私は一人の男の人と出会う。
「俺には分かる。キミはきっと俺を好きになる。」
そんな言葉をかけてきた彼。
でも私には秘密があった。
「キミ・・・目が・・?」
「気持ち悪いでしょ?ごめんなさい・・・。」
ちゃんと私のことを伝えたのに、彼は食い下がる。
「お願いだから俺を好きになって・・・。」
その言葉を聞いてお付き合いが始まる。
「やぁぁっ・・!」
「どこが『や』なんだよ・・・こんなに蜜を溢れさせて・・・。」
激しくなっていく夜の生活。
私の身はもつの!?
※お話の内容は全て想像のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※表現不足は重々承知しております。まだまだ勉強してまいりますので温かい目で見ていただけたら幸いです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
では、お楽しみください。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる