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二章
2、雨の日【2】
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ところてんにかかってるのは黒蜜やのうて、お酢と醤油の酸っぱいのん。それに白ごまと海苔がのっている。
どう考えてもおかずの一種なんやけど。
「それ、お菓子なん?」
「うん。おいしいよ」
「ところてんって、黒蜜しか食べたことないわ」
「……むしろ、そっちがおかしい」
「なんでやねん」「お酢って決まってんの」「お菓子に酢とか、おかしいやろ」「こたにいの方がおかしいもん」
兄弟げんかは、ほんのささいなことで再燃する。
母さんは呆れてしまって「こぼしたらいけないから、一度お台所に持っていきますね」と、お盆を持って立ち上がった。
「あ……っ」と欧之丞が声を上げる。
とても寂しそうに、そして切なそうな顔をして。
せやから母さんは、おろおろとしながら「ごめんなさい。今食べるわよね」と座卓にお盆を置くんや。
欧之丞にふりまわされてるなぁ、母さん。
ぼくは、ここまで手のかかる子やなかったからな。
そう、ぼくはええ子やから。
「絲おばさんとこたにいがいたら、食べられる」
そんな我儘も、ぼくらは許してしまう。ほんまに欧之丞には甘いねんなぁ。
結局、座卓にそれぞれのおやつを載せて、ぼくらは向かい合って食べた。
それを嬉しそうに眺める母さん。
しとしとと降る雨は好きやないけど。こうして静かな(さっきまでうるさかったけどな)日中は、嫌いやない。
穏やかで、落ち着いていて。
欧之丞が腕を動かすたびに、消毒薬のにおいがするけど。それがなかったら、ほんまに平和な午後や。
「そういえば欧之丞。困ったことはなんなん?」
「んー。俺ががまんしたらいいだけだから……」
するするとお箸から逃げていくところてん。
それを欧之丞は必死で掴もうとする。しかも握り箸やから持ちにくそうや。
んー。お箸の使い方、教えてもろてへんのやな。
「がまんって、ぼくに関することなん? 気になるやん」
「でも、言ってもムダだから」
なにそれ。急に大人ぶるのやめてや。まだ四歳のくせに。こっちは五歳やねんで。年上やねん。
「もしかしたら……」と小首を傾げた母さんは、そそーっと欧之丞の傍によって耳元で囁いた。
「これで合ってる?」
「うん。絲おばさん、すごいね。せいかい」
はーぁ? なんですか、それ。
「これからどうする? 琥太郎さんが自分のお部屋で寝れば、問題は解決しますよ」
「んー」と、欧之丞は口を尖らせた。
ぼくだけが蚊帳の外や。ずるいわ、母さん。ぼくにも分かるようにしゃべってよ。
「いい。こたにいにふとんをうばわれても、ねてるとこをけとばされても。まくらを取られても。俺、こたにいとおんなじ部屋でねる」
「え?」
ちょっと待とか。情報量が多すぎて、理解が追いつかへん。
まず、ぼくは欧之丞の布団を奪ってるんですか?
あと、寝てる欧之丞を蹴飛ばしてるんですか?
枕まで取ってるんですか?
そんなん初耳なんですけど。
「か、母さん……もしかしてぼくって、寝相わるいん?」
「あら。知らなかったの? 琥太郎さん」
母さんは意外そうに目を丸くした。
「よく廊下にまで転がってくるから、蒼一郎さんがお布団に戻していたのよ。最近は、襖や障子を蹴破らなくなって、よかったわ」
待って。さらに情報量が増えた。
確かに朝になったら、障子の桟が折れてることもあったけど。
ヤクザの家やから、組の人がなんかやらかしたんやろ、と気にもせぇへんかった。
あれ、ぼくの仕業なん?
「こたにいは、あばれんぼうだからな」
そして欧之丞に止めを刺された。
どう考えてもおかずの一種なんやけど。
「それ、お菓子なん?」
「うん。おいしいよ」
「ところてんって、黒蜜しか食べたことないわ」
「……むしろ、そっちがおかしい」
「なんでやねん」「お酢って決まってんの」「お菓子に酢とか、おかしいやろ」「こたにいの方がおかしいもん」
兄弟げんかは、ほんのささいなことで再燃する。
母さんは呆れてしまって「こぼしたらいけないから、一度お台所に持っていきますね」と、お盆を持って立ち上がった。
「あ……っ」と欧之丞が声を上げる。
とても寂しそうに、そして切なそうな顔をして。
せやから母さんは、おろおろとしながら「ごめんなさい。今食べるわよね」と座卓にお盆を置くんや。
欧之丞にふりまわされてるなぁ、母さん。
ぼくは、ここまで手のかかる子やなかったからな。
そう、ぼくはええ子やから。
「絲おばさんとこたにいがいたら、食べられる」
そんな我儘も、ぼくらは許してしまう。ほんまに欧之丞には甘いねんなぁ。
結局、座卓にそれぞれのおやつを載せて、ぼくらは向かい合って食べた。
それを嬉しそうに眺める母さん。
しとしとと降る雨は好きやないけど。こうして静かな(さっきまでうるさかったけどな)日中は、嫌いやない。
穏やかで、落ち着いていて。
欧之丞が腕を動かすたびに、消毒薬のにおいがするけど。それがなかったら、ほんまに平和な午後や。
「そういえば欧之丞。困ったことはなんなん?」
「んー。俺ががまんしたらいいだけだから……」
するするとお箸から逃げていくところてん。
それを欧之丞は必死で掴もうとする。しかも握り箸やから持ちにくそうや。
んー。お箸の使い方、教えてもろてへんのやな。
「がまんって、ぼくに関することなん? 気になるやん」
「でも、言ってもムダだから」
なにそれ。急に大人ぶるのやめてや。まだ四歳のくせに。こっちは五歳やねんで。年上やねん。
「もしかしたら……」と小首を傾げた母さんは、そそーっと欧之丞の傍によって耳元で囁いた。
「これで合ってる?」
「うん。絲おばさん、すごいね。せいかい」
はーぁ? なんですか、それ。
「これからどうする? 琥太郎さんが自分のお部屋で寝れば、問題は解決しますよ」
「んー」と、欧之丞は口を尖らせた。
ぼくだけが蚊帳の外や。ずるいわ、母さん。ぼくにも分かるようにしゃべってよ。
「いい。こたにいにふとんをうばわれても、ねてるとこをけとばされても。まくらを取られても。俺、こたにいとおんなじ部屋でねる」
「え?」
ちょっと待とか。情報量が多すぎて、理解が追いつかへん。
まず、ぼくは欧之丞の布団を奪ってるんですか?
あと、寝てる欧之丞を蹴飛ばしてるんですか?
枕まで取ってるんですか?
そんなん初耳なんですけど。
「か、母さん……もしかしてぼくって、寝相わるいん?」
「あら。知らなかったの? 琥太郎さん」
母さんは意外そうに目を丸くした。
「よく廊下にまで転がってくるから、蒼一郎さんがお布団に戻していたのよ。最近は、襖や障子を蹴破らなくなって、よかったわ」
待って。さらに情報量が増えた。
確かに朝になったら、障子の桟が折れてることもあったけど。
ヤクザの家やから、組の人がなんかやらかしたんやろ、と気にもせぇへんかった。
あれ、ぼくの仕業なん?
「こたにいは、あばれんぼうだからな」
そして欧之丞に止めを刺された。
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