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一章
14、朝のお出かけ【1】※欧之丞視点
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ふふん、と思い出し笑いをしながら、俺は布団にうつ伏せになって、足をばたばたと上下させた。
「おーのすけ、おーのすけ」
ん? だれか呼んだ?
でも俺は「おうのすけ」で「おーのすけ」じゃない。
空耳かな? そう思ってたら、また「おーのすけ」ってよばれた。それと……「もうっ。父さん、恥ずかしいから下ろしてって言うとうやろ」と。
なに? 俺はあわてて立ち上がり、縁側に向かった。
びっくりしたなんてもんじゃない。
庭の木々のその向こう。塀の上からこたにいが顔を出していたから。
「おはよ、こたにい」
「お、おはよ。起きてくれてよかったわ」
「こたにい、朝からあそぶのがすきなのか?」
くわしくは分からないけど。こたにいは蒼一郎おじさんに肩車をしてもらっているようだ。
「俺もしてっ。かたぐるま」
「ええで。外に出てき、欧之丞」
顔は見えないけど、こたにいの下から蒼一郎おじさんの声が聞こえる。
どんなに晴れている日でも、家の中は暗くて重くて、いつも気を張ってぴりぴりしているのに。
外だってこれまで楽しいと思ったこともないのに。
どうしてこたにいや蒼一郎おじさん、絲おばさんといると気持ちが安らぐんだろう。
閂はかかっていなかったから(多分、父さんが夜中に帰って来たんだろう。めずらしいなぁ)俺は、ぎぃっと軋む門を開いて表へととびだした。
「おう、欧之丞。おはよう」
蒼一郎おじさんが、にかっと笑う。手には柄のついた網と、四角い駕籠を持っている。
「もぅ、ええかげん下ろしてって言うとうやん。恥ずかしいやろ」
「別にええやんか」
「欧之丞に見られとう」
ぽかぽかと、蒼一郎おじさんの頭を叩くこたにい。
子どもが親に怒るだなんて……。しかも蒼一郎おじさんは、怒ってもいない。むしろ楽しそうに笑っている。
「俺もー」
「おお、ええで。どうする? 琥太郎と一緒がええか? 一人がええか?」
「だから、ぼくは降りるって」と息巻くこたにいを見つつ、俺は「いっしょがいい」とぴょんぴょん飛び跳ねた。
蒼一郎おじさんは体が大きいから。右の肩にぼく、左の肩に琥太兄を担いで歩き出した。
「うわー、うわーっ。こんな高いのすごい。木登りしたときみたい」
「へーぇ、欧之丞は木登りが得意なんか」
蒼一郎おじさんの声が、自分よりも下から聞こえる。
それに、木登りとちがって高いままで前に進んでいくんだ。
すっごいよ、空が近いよ。真っ青なあさがおは遠くて、それで蒼一郎おじさんがあるくたびに、ぼくもこたにいも上下するんだ。
「たのしいね。すごいね」
「ぼくはもう降りたいわ」
むすっと口をへの字にむすんでるけど。こたにいは別におこってはなかった。
だってほっぺたが赤かったんやもん。
「お清さんには、欧之丞が出かけることを伝えとうから。心配せんでええからな」
しんぱい? 蒼一郎おじさんの言葉に俺は首をかしげた。
蒼一郎おじさんは「まぁ、何も気にせんでええから」と言葉を続ける。
もしかしたら、俺がいないことを父さんや母さんがしんぱいするってことなのかな?
うーん。それはないなぁ。
「おーのすけ、おーのすけ」
ん? だれか呼んだ?
でも俺は「おうのすけ」で「おーのすけ」じゃない。
空耳かな? そう思ってたら、また「おーのすけ」ってよばれた。それと……「もうっ。父さん、恥ずかしいから下ろしてって言うとうやろ」と。
なに? 俺はあわてて立ち上がり、縁側に向かった。
びっくりしたなんてもんじゃない。
庭の木々のその向こう。塀の上からこたにいが顔を出していたから。
「おはよ、こたにい」
「お、おはよ。起きてくれてよかったわ」
「こたにい、朝からあそぶのがすきなのか?」
くわしくは分からないけど。こたにいは蒼一郎おじさんに肩車をしてもらっているようだ。
「俺もしてっ。かたぐるま」
「ええで。外に出てき、欧之丞」
顔は見えないけど、こたにいの下から蒼一郎おじさんの声が聞こえる。
どんなに晴れている日でも、家の中は暗くて重くて、いつも気を張ってぴりぴりしているのに。
外だってこれまで楽しいと思ったこともないのに。
どうしてこたにいや蒼一郎おじさん、絲おばさんといると気持ちが安らぐんだろう。
閂はかかっていなかったから(多分、父さんが夜中に帰って来たんだろう。めずらしいなぁ)俺は、ぎぃっと軋む門を開いて表へととびだした。
「おう、欧之丞。おはよう」
蒼一郎おじさんが、にかっと笑う。手には柄のついた網と、四角い駕籠を持っている。
「もぅ、ええかげん下ろしてって言うとうやん。恥ずかしいやろ」
「別にええやんか」
「欧之丞に見られとう」
ぽかぽかと、蒼一郎おじさんの頭を叩くこたにい。
子どもが親に怒るだなんて……。しかも蒼一郎おじさんは、怒ってもいない。むしろ楽しそうに笑っている。
「俺もー」
「おお、ええで。どうする? 琥太郎と一緒がええか? 一人がええか?」
「だから、ぼくは降りるって」と息巻くこたにいを見つつ、俺は「いっしょがいい」とぴょんぴょん飛び跳ねた。
蒼一郎おじさんは体が大きいから。右の肩にぼく、左の肩に琥太兄を担いで歩き出した。
「うわー、うわーっ。こんな高いのすごい。木登りしたときみたい」
「へーぇ、欧之丞は木登りが得意なんか」
蒼一郎おじさんの声が、自分よりも下から聞こえる。
それに、木登りとちがって高いままで前に進んでいくんだ。
すっごいよ、空が近いよ。真っ青なあさがおは遠くて、それで蒼一郎おじさんがあるくたびに、ぼくもこたにいも上下するんだ。
「たのしいね。すごいね」
「ぼくはもう降りたいわ」
むすっと口をへの字にむすんでるけど。こたにいは別におこってはなかった。
だってほっぺたが赤かったんやもん。
「お清さんには、欧之丞が出かけることを伝えとうから。心配せんでええからな」
しんぱい? 蒼一郎おじさんの言葉に俺は首をかしげた。
蒼一郎おじさんは「まぁ、何も気にせんでええから」と言葉を続ける。
もしかしたら、俺がいないことを父さんや母さんがしんぱいするってことなのかな?
うーん。それはないなぁ。
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