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一章
13、ご招待状 ※欧之丞視点
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俺は目をさました時、まくらもとに手紙が置いてあるのに気がついた。
「はたしじょうかな?」
てざりのいい和紙を広げてみると「あさになったら、こたろうのいえにくること」と書いてある。
「んー? ねむいぃ」
なにこれ、はたし状じゃなくて。ごしょうたい状?
でも、こたにいの家に行くなら、お昼からでもいいよな。
父さんは結局、昨日は帰ってこなかったみたい。母さんは、どうしたのか俺はしらない。
だって、話しかけたりしたら怒られるんだもん。
だいたいいつも、あの人は自分の部屋にとじこもって出てこない。
もし部屋から出て、廊下を歩く足音が聞こえたら。かくれないといけないんだ。
お清の背中じゃだめだ。母さんに命じられたら、お清はさからえない。
――クビになってもいいの? あんたなんかを雇う家があるとは思えないわ。
と、お清にいじわるを言うんだ。
お清は料理も上手だし、なんでもできる。
だから、きっと俺のためにこの家に居続けてくれるんだ。
お清が俺を逃がして、かくしてくれるから。まだ大丈夫なんだ。
こたにいと出会った時も、そうだった。
――坊ちゃん。後でお清が必ず見つけ出して病院にお連れしますから。外に、外に出るんですよ。木の陰でも塀の陰でもいいですから。お母さまに見つからないようになさってください。
そう言って、勝手口から俺を庭に逃がしたんだ。
家の中からどなりちらす声が聞こえて。最初は、木の陰に隠れてたんだけど。
でも、もし母さんに見つかったら。またぶたれる。
俺は立ち上がって、裏庭の門を開けた。背中がぬるぬるして気持ち悪くて、しかも歩こうとしたら頭がくらくらして。
だけど、家にいたらダメだから。きっとお清が見つけてくれるから。
家の中はいつも金切り声と怒鳴り声とため息と、泣き声ばかりが聞こえて。
外はあんなに明るいのに。
道行く親子は、楽しそうにしているのに。
この家は、まるで暗い暗い箱みたいで。
俺は、もがくように明るい外に逃げたんだ。それでもどんなに光が射していても、俺を照らしてはくれない。
どこに行ったら、俺を守ってくれる人がいるんだろ。
俺は生まれてきちゃいけなかったのかな。
俺を抱きしめて、ほおずりして。それで「欧之丞はいい子」って言ってくれて。俺のことを大好きになってくれて。
そんな人、この世にいるのかな。
ずっとずっと探し続けたら、出会えるのかな。
でも、どうしよう。俺を大事にしてくれる人と、生まれる時代がちがっていたら。
遠くはなれた場所だったら、さがしに行ける。
俺、どこまでもさがしに行く。
でも、もしその人が死んじゃった後で俺が生まれてたら。
俺が死んじゃった後で、その人が生まれたら。
俺は永遠に一人だ。
やだな……そんなの。
そんなの、いやだよ。
ぽろぽろと涙があふれて止まらない。
傷が痛いだけじゃない。心が痛いんだ。
どれくらい歩いたんだろ。「大きな通りは危ないから、一人で出てはいけませんよ」とお清に教えられていたから。少し細い道を曲がった。
どこまでも続く白い塀。
きれいであざやかな薄紅の花が、咲いている。
この先に行ったら、安全かなぁ。大丈夫だよ、お清。俺は大通りは行かないから。
でも、なんだかくらくらして、目の前が暗くて。
おかしいなぁ。まだお昼なのに。
足が重くて、引きずるように歩いたけど。とうとう、それもできなくなって。
俺は神社の石段に倒れ込んだ。
それを見つけてくれたのが、絲おばさんと、こたにいだったんだ。
「そういえば、こたにいの家に行ったら。いっつもあたま、なでてもらえるよな」
おれは自分の頭に両手をのせた。
ふんわりとなでてくれる絲おばさん。いーいにおいがして、やさしくて、ふわんとした気持ちになる。
がしがしなでる蒼一郎おじさん。あれは、本気で首がもげそう。
でも、なんでかな。すごく大事にされているような気がする。
そして……まるで拾ってきた猫を怖々となでるみたいな、こたにい。
ふふ、と自然に笑いがこぼれた。
だって、おれ、こたにいのこと、ひっかいたりしないのに。怖くなんかないんだよ。
「はたしじょうかな?」
てざりのいい和紙を広げてみると「あさになったら、こたろうのいえにくること」と書いてある。
「んー? ねむいぃ」
なにこれ、はたし状じゃなくて。ごしょうたい状?
でも、こたにいの家に行くなら、お昼からでもいいよな。
父さんは結局、昨日は帰ってこなかったみたい。母さんは、どうしたのか俺はしらない。
だって、話しかけたりしたら怒られるんだもん。
だいたいいつも、あの人は自分の部屋にとじこもって出てこない。
もし部屋から出て、廊下を歩く足音が聞こえたら。かくれないといけないんだ。
お清の背中じゃだめだ。母さんに命じられたら、お清はさからえない。
――クビになってもいいの? あんたなんかを雇う家があるとは思えないわ。
と、お清にいじわるを言うんだ。
お清は料理も上手だし、なんでもできる。
だから、きっと俺のためにこの家に居続けてくれるんだ。
お清が俺を逃がして、かくしてくれるから。まだ大丈夫なんだ。
こたにいと出会った時も、そうだった。
――坊ちゃん。後でお清が必ず見つけ出して病院にお連れしますから。外に、外に出るんですよ。木の陰でも塀の陰でもいいですから。お母さまに見つからないようになさってください。
そう言って、勝手口から俺を庭に逃がしたんだ。
家の中からどなりちらす声が聞こえて。最初は、木の陰に隠れてたんだけど。
でも、もし母さんに見つかったら。またぶたれる。
俺は立ち上がって、裏庭の門を開けた。背中がぬるぬるして気持ち悪くて、しかも歩こうとしたら頭がくらくらして。
だけど、家にいたらダメだから。きっとお清が見つけてくれるから。
家の中はいつも金切り声と怒鳴り声とため息と、泣き声ばかりが聞こえて。
外はあんなに明るいのに。
道行く親子は、楽しそうにしているのに。
この家は、まるで暗い暗い箱みたいで。
俺は、もがくように明るい外に逃げたんだ。それでもどんなに光が射していても、俺を照らしてはくれない。
どこに行ったら、俺を守ってくれる人がいるんだろ。
俺は生まれてきちゃいけなかったのかな。
俺を抱きしめて、ほおずりして。それで「欧之丞はいい子」って言ってくれて。俺のことを大好きになってくれて。
そんな人、この世にいるのかな。
ずっとずっと探し続けたら、出会えるのかな。
でも、どうしよう。俺を大事にしてくれる人と、生まれる時代がちがっていたら。
遠くはなれた場所だったら、さがしに行ける。
俺、どこまでもさがしに行く。
でも、もしその人が死んじゃった後で俺が生まれてたら。
俺が死んじゃった後で、その人が生まれたら。
俺は永遠に一人だ。
やだな……そんなの。
そんなの、いやだよ。
ぽろぽろと涙があふれて止まらない。
傷が痛いだけじゃない。心が痛いんだ。
どれくらい歩いたんだろ。「大きな通りは危ないから、一人で出てはいけませんよ」とお清に教えられていたから。少し細い道を曲がった。
どこまでも続く白い塀。
きれいであざやかな薄紅の花が、咲いている。
この先に行ったら、安全かなぁ。大丈夫だよ、お清。俺は大通りは行かないから。
でも、なんだかくらくらして、目の前が暗くて。
おかしいなぁ。まだお昼なのに。
足が重くて、引きずるように歩いたけど。とうとう、それもできなくなって。
俺は神社の石段に倒れ込んだ。
それを見つけてくれたのが、絲おばさんと、こたにいだったんだ。
「そういえば、こたにいの家に行ったら。いっつもあたま、なでてもらえるよな」
おれは自分の頭に両手をのせた。
ふんわりとなでてくれる絲おばさん。いーいにおいがして、やさしくて、ふわんとした気持ちになる。
がしがしなでる蒼一郎おじさん。あれは、本気で首がもげそう。
でも、なんでかな。すごく大事にされているような気がする。
そして……まるで拾ってきた猫を怖々となでるみたいな、こたにい。
ふふ、と自然に笑いがこぼれた。
だって、おれ、こたにいのこと、ひっかいたりしないのに。怖くなんかないんだよ。
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