生贄の花嫁は、孤独な悪しき神に愛される

真風月花

文字の大きさ
上 下
46 / 56
七章

4、他にはいない

しおりを挟む
黒い髪が眼に当たるのだろうか、手の甲でしきりに眼を擦る様子が、 起きている時と違って幼い子供のような仕草で、エリザベスは思わず微笑み、アークの前髪をそっと眼の上から払った。



その瞳は…愛する人を見つめるエリザベスの瞳は…慈愛に満ちた紫の瞳、そして愛された胸元には紫の髪が揺れ、両腕には咲き乱れる花模様が浮き上がっていた。

 エリザベスの《王華》とアークフリードの中にあった《王華》が…エリザベスを包んでいたのだ。

ー叔母様の言っていた通り、こうして体を繋ぐと…《王華》は、王家の血に誘われてくるんだ。
私の中の二つの《王華》…。


だが、まだこの姿を見せたくないエリザベスは呟くかのように呪文を唱え、アークの眠りを深く夢の中へと誘うと、鮮やかな赤みがかった紫色のバラが咲き乱れる右腕を両腕に触れながら

「いつもは私の中で大人しくしてくれているのに、今日はお父様の《王華》が心配で出てきたの?」

そう言って、左腕の薄い紫色の萎れたバラに触れ
「…叔母様が一部を奪ったことで…色も花も…こんなになってしまったのね…。」


―…お父様…。お父様がアークに預けた《王華》が戻ってきました。…遅くなってごめんなさい。




13年前のあの日、お父様がアークに《王華》を預けたことを感じた。
それは…お父様の最後を意味していた。

今でも、あの時の震えるような恐怖を思い出す、お母様の気配が消え、そしてお父様とアークの異変を感じた時、私はコンウォールの父の手を振りほどいて二人の下へ行った。


覚えているのは…お父様の気配が…炎の中から消えていくのを感じた事と、血の海の中アークが数人の兵士に痛めつけられていたこと。

私は…冷静さを失っていた。
我を忘れた私は、野に返った野獣を同じで、とても人間の仕業とは思えないことを平然とやっていた。
すべてを憎み…アーク以外を…すべて破壊して、ようやく私は冷静さを取り戻したが…その惨状に立ち尽くした。






「これは…私が…?」


燃え盛る炎と、血と肉の塊が散乱する中で、幼い私の声が響いた。


魔法は日々使っていた。紫の髪と瞳をマールバラ王一族の色のブロンドの髪と青い瞳に変えることや、アークの様子を知りたくて、ノーフォークに瞬間移動したり…と…。

でも人を…こんなことには魔法を使ったことはない。

怖かった、《王華》を持っている事を初めて恐れた。



二つの《王華》は何を望んでいるのだろうか。
ひとりしか生まれない王家に双子の兄妹が生まれたことで、妹は心を壊し、代々受け継いできた《王華》を生まれながらにしてその身に宿す子が生まれたことで、その子は幼くして人を殺めた化け物となった。


この世界に二つの《王華》が存在することの意味はなんなのだろう…。


あれから13年。私はずっと考えていた。いや…お父様もずっと考えていらした、それは《王華》を捨てること。
マールバラ王一族は《王華》に怯え、そしてその力に酔っていた…そう狂っていたんだ、双子の片方に怯え、どうしたらいいのかわからず地下牢に閉じ込める所業はまさしく狂っている。

その出来事だけでも言える、この世界に二つの《王華》が存在することの意味は…終焉だ。
私に後始末をしろという意味。代々受け継いできた《王華》と私の中の《王華》をこの世界から始末する。

…私の中の《王華》は代々受け継いできた《王華》とは違う、私の魂に刻み込まれたものだから…《王華》を始末することは…おそらく…私も一緒にってことだろう。

覚悟はある。あの日の野獣のような自分を知ったから、この世界に居てはいけないことが分かったから。
叔母様に奪われた《王華》を取り戻したら…やる。《王華》をこの世界から始末する。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

人生の全てを捨てた王太子妃

八つ刻
恋愛
突然王太子妃になれと告げられてから三年あまりが過ぎた。 傍目からは“幸せな王太子妃”に見える私。 だけど本当は・・・ 受け入れているけど、受け入れられない王太子妃と彼女を取り巻く人々の話。 ※※※幸せな話とは言い難いです※※※ タグをよく見て読んでください。ハッピーエンドが好みの方(一方通行の愛が駄目な方も)はブラウザバックをお勧めします。 ※本編六話+番外編六話の全十二話。 ※番外編の王太子視点はヤンデレ注意報が発令されています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

ヤンデレ旦那さまに溺愛されてるけど思い出せない

斧名田マニマニ
恋愛
待って待って、どういうこと。 襲い掛かってきた超絶美形が、これから僕たち新婚初夜だよとかいうけれど、全く覚えてない……! この人本当に旦那さま? って疑ってたら、なんか病みはじめちゃった……!

それぞれのその後

京佳
恋愛
婚約者の裏切りから始まるそれぞれのその後のお話し。 ざまぁ ゆるゆる設定

心を病んだ魔術師さまに執着されてしまった

あーもんど
恋愛
“稀代の天才”と持て囃される魔術師さまの窮地を救ったことで、気に入られてしまった主人公グレイス。 本人は大して気にしていないものの、魔術師さまの言動は常軌を逸していて……? 例えば、子供のようにベッタリ後を付いてきたり…… 異性との距離感やボディタッチについて、制限してきたり…… 名前で呼んでほしい、と懇願してきたり…… とにかく、グレイスを独り占めしたくて堪らない様子。 さすがのグレイスも、仕事や生活に支障をきたすような要求は断ろうとするが…… 「僕のこと、嫌い……?」 「そいつらの方がいいの……?」 「僕は君が居ないと、もう生きていけないのに……」 と、泣き縋られて結局承諾してしまう。 まだ魔術師さまを窮地に追いやったあの事件から日も浅く、かなり情緒不安定だったため。 「────私が魔術師さまをお支えしなければ」 と、グレイスはかなり気負っていた。 ────これはメンタルよわよわなエリート魔術師さまを、主人公がひたすらヨシヨシするお話である。 *小説家になろう様にて、先行公開中*

婚約者から婚約破棄をされて喜んだのに、どうも様子がおかしい

恋愛
婚約者には初恋の人がいる。 王太子リエトの婚約者ベルティーナ=アンナローロ公爵令嬢は、呼び出された先で婚約破棄を告げられた。婚約者の隣には、家族や婚約者が常に可愛いと口にする従妹がいて。次の婚約者は従妹になると。 待ちに待った婚約破棄を喜んでいると思われる訳にもいかず、冷静に、でも笑顔は忘れずに二人の幸せを願ってあっさりと従者と部屋を出た。 婚約破棄をされた件で父に勘当されるか、何処かの貴族の後妻にされるか待っていても一向に婚約破棄の話をされない。また、婚約破棄をしたのに何故か王太子から呼び出しの声が掛かる。 従者を連れてさっさと家を出たいべルティーナと従者のせいで拗らせまくったリエトの話。 ※なろうさんにも公開しています。 ※短編→長編に変更しました(2023.7.19)

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

雪井しい
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

溺愛彼氏は消防士!?

すずなり。
恋愛
彼氏から突然言われた言葉。 「別れよう。」 その言葉はちゃんと受け取ったけど、飲み込むことができない私は友達を呼び出してやけ酒を飲んだ。 飲み過ぎた帰り、イケメン消防士さんに助けられて・・・新しい恋が始まっていく。 「男ならキスの先をは期待させないとな。」 「俺とこの先・・・してみない?」 「もっと・・・甘い声を聞かせて・・?」 私の身は持つの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界と何ら関係はありません。 ※コメントや乾燥を受け付けることはできません。メンタルが薄氷なもので・・・すみません。

処理中です...