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六章
5、逃亡
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浅い眠りを繰り返し、何度も瞼を開くと、そのたびに春見と目が合った。
手はまだつながれたままだ。
「夢のようです。螢さんを追い越すことができたなんて。それにこれからは、ずっと一緒にいてくれる……」
「無理強いしているだけじゃない」
「過程は関係ありません。結果だけみれば、いいんですよ。そうだ、喉が渇きませんか? 水を入れますよ」
「いいわ。飲みたかったら、自分でするから」
止めたのに、春見は布団から出て水の入ったポットを手にした。
グラスの中に水が注がれていく。ポットの中に氷が入っているのか、カランカランと涼しい音が聞こえた。
つないでいた手をようやく離されて、螢はほっとした。
「どうぞ」
手渡されたグラスは冷たく、螢は喉が渇いていたのだと初めて気づいた。
「少し……苦い?」
「水道の水だからでしょうか? 螢さんは、ずっと山の湧水を飲んでいたんでしょう? 味が違うんですよ」
そういうものなのだろうか。紺田村にいる時は、井戸水だったし。よく分からないけれど。
夜明け前、ようやく雨は止んだ。
春見もさすがに眠ったらしい。再びつないだ手を外しても、彼が起きることはなかった。
母屋の風呂に入った春見は気付かなかったようだが。奥座敷の風呂には、換気用の小窓がある。
もちろんそのままでは届かないが、浴槽にのぼるとか、踏み台になる物を使えば、逃げられるかもしれない。
念のため布団に膨らみを持たせて、螢は浴室へと向かった。
急いで歩くと浴衣の裾がはだけるが、気にしてはいられない。
夕食の時に着ていたものと違い、寝間着としての浴衣だ。
本当は着替えたかったけれど。服は使用人が洗濯をすると言って持ち去ってしまった。
雨のせいか、浴室内にはまだ湿気がこもっていた。
螢は檜の浴槽にのぼって、小窓に手をかけた。手は届くが、よじのぼるには高すぎる。
風呂場に置いてある桶を裏がえし、そこに立つ。
「もう少し……」
背伸びをして、窓枠に肘をついた。
よし、これでなんとか。体重を腕にかけようとした時、体が持ち上がった。
「何をしているんですか」
恐ろしいほどに低い声。ためらいながらふり返ると、春見が螢の両脇に手を入れて、抱えていた。
「逃げるなと言ったはずです」
「お願い。外へ出して」
「何のために? 螢さんを待つ人は、ぼく以外にいないのに」
「いるわ。いるのよ」
空蝉を救わなければ。あの箱の中は苦しいって知っているもの。
「それは、あの疫神のこと?」
春見は目をすがめた。不機嫌な表情は、すでに怒りへと変化している。
「ぼくは、あなたを逃がしませんよ」
手はまだつながれたままだ。
「夢のようです。螢さんを追い越すことができたなんて。それにこれからは、ずっと一緒にいてくれる……」
「無理強いしているだけじゃない」
「過程は関係ありません。結果だけみれば、いいんですよ。そうだ、喉が渇きませんか? 水を入れますよ」
「いいわ。飲みたかったら、自分でするから」
止めたのに、春見は布団から出て水の入ったポットを手にした。
グラスの中に水が注がれていく。ポットの中に氷が入っているのか、カランカランと涼しい音が聞こえた。
つないでいた手をようやく離されて、螢はほっとした。
「どうぞ」
手渡されたグラスは冷たく、螢は喉が渇いていたのだと初めて気づいた。
「少し……苦い?」
「水道の水だからでしょうか? 螢さんは、ずっと山の湧水を飲んでいたんでしょう? 味が違うんですよ」
そういうものなのだろうか。紺田村にいる時は、井戸水だったし。よく分からないけれど。
夜明け前、ようやく雨は止んだ。
春見もさすがに眠ったらしい。再びつないだ手を外しても、彼が起きることはなかった。
母屋の風呂に入った春見は気付かなかったようだが。奥座敷の風呂には、換気用の小窓がある。
もちろんそのままでは届かないが、浴槽にのぼるとか、踏み台になる物を使えば、逃げられるかもしれない。
念のため布団に膨らみを持たせて、螢は浴室へと向かった。
急いで歩くと浴衣の裾がはだけるが、気にしてはいられない。
夕食の時に着ていたものと違い、寝間着としての浴衣だ。
本当は着替えたかったけれど。服は使用人が洗濯をすると言って持ち去ってしまった。
雨のせいか、浴室内にはまだ湿気がこもっていた。
螢は檜の浴槽にのぼって、小窓に手をかけた。手は届くが、よじのぼるには高すぎる。
風呂場に置いてある桶を裏がえし、そこに立つ。
「もう少し……」
背伸びをして、窓枠に肘をついた。
よし、これでなんとか。体重を腕にかけようとした時、体が持ち上がった。
「何をしているんですか」
恐ろしいほどに低い声。ためらいながらふり返ると、春見が螢の両脇に手を入れて、抱えていた。
「逃げるなと言ったはずです」
「お願い。外へ出して」
「何のために? 螢さんを待つ人は、ぼく以外にいないのに」
「いるわ。いるのよ」
空蝉を救わなければ。あの箱の中は苦しいって知っているもの。
「それは、あの疫神のこと?」
春見は目をすがめた。不機嫌な表情は、すでに怒りへと変化している。
「ぼくは、あなたを逃がしませんよ」
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