生贄の花嫁は、孤独な悪しき神に愛される

真風月花

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五章

7、消せぬ罪

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 紺田村は黒羽家を中心にまとまっていた。

 大地主であり、村では一番の名家だから、というのが表向きの理由だが。
 実際は封花祭の神事の一切を取り仕切る家だからだ。

 疫神を封じる黒鬼は、代々黒羽の男が担ってきた。依代の首を刎ねても、それは疫神自身を退治することであり、罪を負うことはなかった。

 封花祭で行われることは、閉鎖的な村の中で代々隠されてきた。

 そう、戦争が終わるまでは。

 戦後、かつて村の中だけで暮らしていた村人は、職を求め、学歴を求め、外へ出はじめた。

 そして気づいたのだ。
 封花祭で行われていることは、おかしいと。奇習で済まされる範疇ではないと。

 戦前までは村の子どもの中から依代が選ばれた。子どもが依代になれば、その家には十分すぎるほどの金銭が与えられる。
 江戸や明治のころは、口減らしのために依代候補がいたのだ。

 だが時代は変わった。戦後、自分の娘や息子を依代として差し出す家は皆無だった。
 しかも疫病はなくならない。
 黒羽は村のおさとして、疫神を封じなければならない。

「困った父さんは、依代になる子を産ませたんですよ。母さん以外の女にね」

 まさか、まさか。
 螢の頭の中で、嫌な考えがぐるぐると回っている。

 母と二人のつましい生活だったけれど。母は、父について何も語らなかった。
 離婚したのか死別したのか、それすらも話してくれないし、写真すらも持っていなかった。

 だから、新しく父になる人と逃げたのだ。
 螢は、好きでもない男との間にできた子だから。疫神を宿らせ、ただ殺されるだけの器として生を享けただけだから。

 目の前が暗くなり、足元がぐらついた。
 どこにも愛情がない。自分を慕ってくれていた春見だって、選んだ相手は京香だ。

 ただ空蝉だけが、ずっと傍らにいてくれた。

(空蝉……どこにいるの)

 螢の心が求めるのは人ではなく、悪しき存在とされる疫神だけだ。
 それは過ちなのだろうか。人の道に外れているのだろうか。


「螢さん、あなたの十年間は苦しかったと思います。山の中で、人としての生活もままならなかったでしょう? だから救いたかったんですよ、あなたを」

「救われる必要はないわ」
「放ってはおけませんよ」
「わたしが放っておいてと言っても? それは単に春見の自己満足よ」

 おかしなことを言わないでほしいという風に、春見は片方の眉を上げた。

「紺田村に暮らすのが嫌なら、どこかよそで暮らせばいい。いつまでも山の中に住むなんて、有り得ませんよ」

「わたし一人、まったく知らない場所で暮らすのね? 十年経っても二十年経っても、わたしは今の姿のままよ。皆に気味悪がられ、きっと追い払われるわ」

 春見の手が、螢の髪に触れる。封花祭で秋杜に切られたままの髪に。
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