生贄の花嫁は、孤独な悪しき神に愛される

真風月花

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五章

6、狂っている

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 外に出て、ようやく新鮮な空気を吸うことができた。

「どうして秋杜兄さんを、閉じ込めているの?」

「普通じゃないですからね。ぼくのことを人殺しなんて吹聴する人を、野放しにできないでしょう? 封花祭は、紺田村が抱えた闇であり、秘密なんですよ。何代にもわたって少女の首を落としたことを、ぺらぺらしゃべったら大問題ですよ」

「普通じゃないって、いつからなの? だって京香さんとは……以前は秋杜兄さんが交際していたって」
「いやなことを、言いますね」

 春見は瞼を伏せて、足下に咲く青い露草つゆくさの花を踏みつけた。

「ええ、京香は兄さんのお下がりですよ。子どもの頃から、ぼくは服でもなんでも兄さんのお下がりでしたからね。恋人がそうでも、おかしくないでしょう?」
「人は、服じゃないわ」

「一緒だと思いますよ。特に京香にとっては。彼女は兄が破れほころびてしまったので、ぼくに乗り換えたんです。とりあえずぼくと京香は利害が一致したので、結婚しただけですよ」

「あなたが実家を出て、秋杜兄さんが……おかしくなってしまって。じゃあ、黒羽家はどうなるの?」
「さぁ? なんとかなるんじゃないですか。そろそろ赤ん坊も生まれますしね」
「もう?」

 春見と京香の結婚式は、三か月前のことだ。それに先日会ったばかりの京香は、妊娠しているようには見えなかった。
 驚いている螢を目にして、春見は面白そうに笑った。

「違いますよ。父さんの子どもですよ」
「え? でも三人目の兄弟って……秋杜兄さんとは三十三歳も違うでしょう? おばさんだって今更子どもなんて」
「ないですよ、母さんはとうに五十を超えていますからね」

 春見は肩を揺らし、腹を抱えて笑っている。ひとしきり笑った後、螢を見すえてくる瞳は、とてつもなく冷たかった。

「螢さんと同じですよ。父さんが同じで、母さんが違う。ぼくの弟か妹です。ただぼくは、その子が依代として疫神を受け入れられるまで育つのを、悠長に待つ気はありません」

 螢は言葉を失った。

「赤ん坊を依代にして……斬るの?」

 夏の昼間なのに、冷たい風に首筋を撫でられた気がした。
 まるで魚の養殖ではないか。
 そんなことが許されるはずがない。

「ぼくがどんな気持ちで、この十年間を過ごしたか分かりますか? 十五歳の春に、大好きな従姉いとこを殺せと言われたんですよ」

 木の葉を透かした光が、春見の顔や服を緑に染める。それは、この世ならざる者の色のように思えた。

「黒羽が、これまで何をしてきたか、お話ししますよ」
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