生贄の花嫁は、孤独な悪しき神に愛される

真風月花

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五章

2、会ってあげて

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 春見を呼び捨てにしたせいか、京香が眉をひそめた。
 いけない。もう春見は彼女の夫なのだ。

「えーと。花嫁さん、とてもきれいでした。それに春見さんも立派で、びっくりしてしまって」

「あら、ありがとう。春見さんは年下だけれど、とても優しくて頼りになるの。お兄さまの秋杜あきもりさんのような強引さはないけれど。生涯を共にするなら、穏やかな人の方がいいわね」

 これは、惚気のろけられているのだろうか。
 少し……いや、たいそう面白くない。
 
 確か花嫁行列を見に来ていた人が、この京香は以前、兄の方とつきあっていたと噂していたけれど。

 京香はサンダルが気になるのか、しきりに足元に手をやっていた。岩場や草の多い山に入る姿ではない。

「春見……さんは、お元気ですか?」
「そのことで話があって、こんな山奥にまで来たのよ」

 ふと京香の表情が曇った。

「春見さんは今、病気で臥せっているの。療養のために紺田村の実家に戻っているのよ。なんでも疫神がまき散らす災いを受けてしまったって」
「疫神の? まさか」

 螢と空蝉は顔を見合わせた。空蝉と共に逃げてからすでに十年。
 その間、一度も紺田村には戻っていない。

「私も詳しくは知らないのよ。でもね、紺田村出身の黒羽くろばね螢さんなら、疫神を退治できるから、捜してほしいと頼まれたの」

「退治なんてできません。それに疫神のことは、勘違いです」
「勘違いなどではないわ。螢さん、紺田村に行ってちょうだい。お願いよ」

 困ったことになった。螢は額に手を当てて考え込んだ。

「婚礼の時に出会ったくらいで、空蝉は何もしていないよね」
「当り前だ。めでたい場で災いなどまき散らすわけがなかろう。そもそも冬の終わりから春にかけては、病にかかりやすい。それを異端の私と結びつけて退治したところで、何の意味があろう」

 だよねぇ、と螢はうなずいた。

「あの、螢さん。お一人でぶつぶつ仰って、どうなさったの?」

 いけない。京香には空蝉が見えないのだ。
 彼女にとって螢は、たった一人山の中で暮らす仙人のような、変わり者の少女だ。しかも見た目が十八歳というだけで、年齢は京香よりも螢の方が上だ。

「病気なら、病院に行かれた方が」
「春見さんを見捨てるの? 彼からも秋杜さんからも聞きましたわ。あなたは妹同然に育ったって。なのに突然家出して、ずっと捜していたのだと」

 京香は螢の両肩を掴んで、体を揺らした。

「春見さんを助けてあげて。お願いですから」

 目に涙を浮かべながら、京香は訴えてくる。
 空蝉が関わっていないのなら、螢にできることは何もない。けれど、このままでは京香は納得しないだろう。

「本当に、わたしには何の力もないんですよ」
「それなら、会いに行ってあげて。ね? きっと春見さんも喜ぶわ」
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