大人な軍人の許嫁に、抱き上げられています

真風月花

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2、逢引きは中止です

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「これは無理ですね」

 彼は、わたしの素足に手を触れて首を振りました。その撫でるような指の動きに、背筋が痺れそうです。

「あの、何がですか?」と、わたしは出来る限り冷静に問いかけました。

「展覧会は中止です」

 そ、そんなぁ。あまりにも無惨なその言葉に、わたしは落胆してうつむきました。唇を噛みしめ、己の浅はかさを悔います。
 今日は二人で展覧会に行く予定だったのに。どうして無理をしてお洒落をしたの? いつもの格好で良かったのに。そうすれば彼と楽しい時間を過ごせたのに。

 ただ手を繋ぎたい、その気持ちだけが先走って。せっかくの機会を台無しにしてしまいました。

「じゃあ、もう帰りましょうか」
「……はい」

 揃えた膝の上で、ぎゅっと拳を握りしめたその時。
 海風が吹いて潮の香りがしました。
 そしてわたしの体はまるで海風に攫われたように、持ち上がったんです。
 
 見れば、至近距離に彼の顔があります。しかも柔らかに微笑んで。
 軍人さんだから、いつも難しそうな厳めしい表情をなさっているのに。どうして、そんな……。

「光栄ですよ、お嬢さま。こうして堂々と抱き上げて、家までお連れ出来るのですから」
「え、あの。その……」
「そうだな。うちに着いたら、手当てをして差し上げますよ。消毒薬や包帯はあったはずですから」

 でも、わたしは貴方にとっては、ただのお人形で。年も随分と離れた子どもで。

 そのことを、つたない言葉で伝えると、彼は困ったように苦笑しました。

「あなたはまだ女學生で、子どもで。手を繋いだりしたら、あなたがいろんな人から叱られるでしょう?」
「それは……そうですけど」
「だから、俺と手を繋ごうという試みは、残念ながら砕かせてもらいました」

 え。え? 気づいていらっしゃったの?
 わたしは羞恥に顔が真っ赤になるのを感じました。
 
 無理です。お放しになって。
 何とか彼の腕から逃れようと、わたしはもがきました。ですが、鍛え上げられた彼の腕はびくともしません。
 逆に「暴れては危ないですよ」と、窘められる始末。

「怪我をなさったとあれば、これは救助です。正々堂々とあなたを抱き上げることができる」

 彼は、わたしの耳元でそう囁きました。
 わたしは恥ずかしさのあまり、帽子をぎゅっと握りしめて顔を隠しました。すると……。

「隠さないでください。せっかくの機会に、あなたの顔が見えないのは寂しすぎます」なんてまた低く、でも甘い声で囁かれて。
 
 どうしましょう。あなたの顔が見たいのに、わたしの真っ赤な茹で蛸のような顔は見せたくなくて……帽子を少しだけずらして覗き見すれば。
 彼はとても柔らかく微笑んだのです。
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感想 1

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みんなの感想(1件)

johndo
2020.01.26 johndo

おや?
今日アップされた強面の少尉様と許嫁の女学生のお話は、このお話の続きですか?
真風様の描かれる、この時代の物語が大好きです。
連載中のお話も、完結済みのお話も、アップされるのをとても楽しみにしています。

真風月花
2020.01.26 真風月花

johndoさま、こちらにも感想ありがとうございます。続きという訳でもなく、そろそろ軍人さんと女学生が書きたいなーと、こちらも気分転換で。明治、大正は資料を調べるのが大変ですが、書いていて楽しいので、大好きと言っていただけるのは本当に光栄です。ありがとうございます。

解除

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