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二章

3、助けてください

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 体が熱いんです。
 もがこうとしても、両手は後ろ手に縛られ、しかも両脚は開かされて棒に括りつけられて、畳に横たわっています。

 なんてみっともない、はしたない格好なの。
 格子の向こうには窓があるので、わたしの淫らな姿が映っているんです。

 窓を叩く激しい嵐。滝のように硝子を流れる雨。
 硝子に映るわたしは、まるで雨に直に叩かれているかのよう。
 そしてわたしの側に、男が腰を下ろしたんです。

「どうだい? 心地よくなってきただろう」
「……誰、が」
「ふん。まだ喋れるのか」

 男の手が、わたしのむき出しになった膝に触れました。
 そしてその手が、徐々に上へと上がって来たんです。

「やめて、触れないで」
「大丈夫。気持ち良くするだけだ」

 腿を這う手は、まるで蛇のよう。背筋がぞっとするのに、下腹部は熱を孕んで。恐ろしいことに、触れられたいと願っているようでした。

「違う、こんなのわたしじゃない」
「すぐに慣れるさ。そして自ら男を求めて腰を振るようになる。ああ、楽しいなぁ。穢れないお嬢さんをどん底に突き落とすのは、ぞくぞくする」

 男の指が焦らすように、わたしの敏感な部分の周囲をまさぐります。
 直に触られているわけではないのに、それだけで苦しくて。
 わたしは息が上がりました。

「ほら、欲しくなってきただろう?」

 いいえ、いいえ。そんな卑怯な手に落ちたくなどありません。
 いっそこのまま舌を噛み切って……そう思い口を開いた時。わたしは口の中に丸めた半巾ハンカチを突っ込まれました。

「ぐ……ぅ、う……ぅぅ」
「お前さんは知らないだろうが。どの娘も、同じような反応を示す。舌など噛み切っても、そう簡単には死ねんぞ。ひたすらに苦しいだけだ」

 それでも、こんな卑劣な男に犯されるくらいなら。

「ぅう……っ、うっ」
「苦痛を浮かべる表情もたまらないな。お前は痛みを堪える顔が美しいようだ。どうだい? 鞭打たれてみるのも悪くないと思うぞ」

 口を塞がれたわたしは反論することも出来ず、ただ首を振るだけです。
 
 悔しい、悔しい。
 どうしてこんな非道な扱いを受けねばならないの。
 
 男は立ち上がったと思うと、棚から革の鞭を手に戻ってきました。
 
「さぁ、どこを打たれたい?」

 声は全て口腔内の布に吸い込まれるわたしは、ただ首を振るしかありません。
 すると男は、にたりと微笑んだんです。
 鎌のように唇を歪めて。

「ここかい?」と、鞭の柄の部分を下腹部に押しつけられました。
 それだけのことで強烈な快感が、背筋を駆け上がります。

「……っ」
「ここが好きみたいだな」

 さらに力を加えられて、わたしは体をのけぞらせました。
 逃れることもできずに拘束されて。嫌なのに、気持ち悪いのに。体が勝手に反応するのです。

 肩が、すり切れた畳に何度もこすられて痛みを感じます。
 なのに、痛みを凌駕する快感に襲われて。わたしは何とか逃れようとしました。
 けれど男は嗤いながら、さらにわたしをいたぶるのです。

「ああ、純粋無垢なお嬢さんが堕ちていく様は、本当に何度見ても楽しいなぁ」

 嫌……もう、嫌なの。
 助けて……幾久司さん。

 古ぼけて煤けた天井が、涙でぼやけていきます。
 さっき会ったばかりの人に助けを求めて。彼にわたしを助ける義務なんてないのに。どこにも……これっぽっちもないのに。

 それなのに、幾久司さんの顔ばかりを思い描くんです。
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