女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

文字の大きさ
上 下
197 / 257
六章

34、納豆は出ません

しおりを挟む
 お粥に鹿肉の時雨煮、鯖の塩焼き、お野菜の白和えとお漬物にお味噌汁という、とても美味しそうな朝食がお部屋に運ばれてきました。
 それに温泉卵もあります。

 朱塗りのお膳を前に、蒼一郎さんと向かい合っていただきます。

 すり胡麻の入った白和えがやさしい甘さで、口に含むとほわーっとします。
 
「うちの家では、こういうの出ぇへんな」
「男性が多いですから。甘い味はあまりお酒に合わないのかもしれませんね」

 蒼一郎さんも甘い味付けのお豆腐が得意ではないのかしら。あまりお箸を伸ばしません。
 そういえば白和えだけではなく、高野豆腐も甘いですよね。

「絲さん。これ、やるわ」

「行儀悪いけど」と言いながら、蒼一郎さんが白和えの入った器を、わたしに手渡します。

「それならお返しです」
「お返し?」

 わたしは鯖の塩焼きを差し出しました。
 ぱりっと皮が焼かれた鯖です。

「あかんで。ちゃんと食べな」
「でも一皿増えたので」
「いや、豆腐よりも魚やろ。なんか体力がつきそうやん」

 わたしは渋々お皿を、自分のお膳に戻しました。
 だって、鯖は脂がきついんですもの。
 
「ゆっくりでええから、ちゃんと食べなさい」
「……はい」

 子どもを作ると宣言したからかしら。
 これまでよりも、蒼一郎さんが厳しい気がします。食とか健康に対して。

 でも、鯖を食べなかったからって、さほど問題はあるのかしら。

 ◇◇◇

 結局、絲さんは鯖を半分残した。しかも腹の部分、そう脂のきついとこや。
 まぁ、しゃあないか。
 
 慣れてへんはずの鹿肉は、生姜やら醤油で甘辛く炊いて、しかもほぐしてあるから。絲さんは食べられたみたいやけど。

 どうせ鯖は残すやろと思て、白和えを余分に食べさせたんや。
 豆腐より魚というたけど。豆腐も悪ないからな。

 俺、ちょっと口うるさいやろか?

「蒼一郎さんって、納豆は召し上がったことがありますか?」
「あるで? 好きやないけど」
「わたし、ないんです」

 せやろなぁ。
 絲さんには難しい味と匂いやろ。あと、糸を引くんも。

 はっ。もしかして。

――絲って、納豆の糸のことちゃうんか? ねばねばー。
――うっううっ。ちがうもん。その糸じゃないもん。絲、ねばねばじゃないもん。
――ほらー。自分で糸って言った。納豆の糸やろ。

 こんな風に誰かにからかわれて、泣いたことがあるんとちゃうやろか。

 と考えて、俺は首を振った。
 いや、ちゃうて。絲さんは男児のおらん女學院育ちや。
 そないな意地悪いう奴はおらんやろ。
 というか、もしおったら。俺がシメる。簀巻きにして瀬戸内海に沈める。
 もしくはそいつの穴という穴に名産のいかなごを詰める。もちろん俺は手ぇ下さへんけど。

 当然のことながら俺の杞憂やったみたいで、絲さんは納豆に関しては何も思うところがなさそうやった。

「もしかして旅館の朝食って、納豆が出るのかしらとドキドキしていたんですけど。出なくて良かったのかしら?」
「女将に頼んでみよか。納豆を出してほしいって」

「いえいえ」と絲さんは盛大に首を振った。
 そのせいで、箸に挟んどった漬物がぽろりと落ちる。落ちたのは皿の上やったから、大丈夫やけど。
 もし、納豆を服の上に落としたらと思うと……やっぱり頼まん方がええやろ。

 そもそも関西の人間は、納豆は食べへんしな。

 絲さんと二人の朝食は、いつもゆったりとしとうけど。
 三條の家と違て、組員の野太い声が聞こえてこぉへんから、さらに穏やかや。
 
 季節外れの鶯の声、それに川のせせらぎ。
 絲さんの声も、普段よりよぉ聞こえる気がする。
 ええなぁ。
 絲さんが来る前の自分の家は好きでも嫌いでもなかった……というか関心がなかったけど。絲さんが来てからは、自分ちが本当に好きになった。

 でも、絲さんと二人きりでいられるなら。そこは最高の場所になるんやな。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌(月嶋ゆのん)
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。 住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。 悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。 特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。 そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。 これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。 ※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

処理中です...