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六章

26、さすがに無理や

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 絲さんが屈みこんで俺のに接吻した時、正直まずいと思た。
 経験の少ない少年でもあるまいに、我慢できへんと感じたんや。

 初めて俺に触れた絲さんの唇。
 これまで数えきれんほど唇を重ねとうから、その柔らかさは知っとうはずや。

 せやのに、初めての場所に接吻されただけで。あかん……その感覚を反芻するだけで果ててしまいそうや。

 実際のところ、俺はかなり我慢した。
 俺に唇を触れる絲さんの頭に手を置いて、そのまま口に含ませようとする衝動をかろうじて押さえた。

 そんな無茶させたら、絲さんは二度と俺に抱かれてくれへん。
 
――『女閨訓』って本があるんですけど。それに女が口でするやり方は載ってますよ。こぼさんように飲ませるんですよ。絲お嬢さんにさせたらええじゃないですか。

 いつだったか森内にそんな風に言われたが。
 やっぱり無理や。
 絲さんにはさせられへん。

 俺は純真やから、してもらうんは接吻までで止めておく。そこまで鬼畜になられへんし。ほんまに絲さんに嫌われてしまう。

「そ、いちろ……さん」
「うん。なんも考えんでええで。絲さんは俺に溺れとき」

 両脚の膝裏に手を入れて抱え上げ、絲さんを突き上げる。何度も何度も。

 ぱちぱち、と火鉢から聞こえる静かな音。
 それよりも俺が絲さんの肌を打つ音の方が大きいくらいや。

「……あぁ、っ……だめぇ、苦しい、の」
「どう苦しい? 言葉にしてみ」
「達しそう、なのに、届かなくて……」

 いつもと角度が違うからやろ。それに俺にしがみつくこともできへんから。もどかしいという言葉が、出てこぉへんかったみたいや。

「絲さん、目ぇ開けて。ほら、俺に抱かれとうところを見てみ」

 絲さんは俺が命じると、素直に応じた。
 官能に支配され、ぼうっと頬を上気させ。けど、簡単には絶頂を迎えられずにいるその表情は、色香が滲んでいる。

 抱く前は色気がないなんて言うたけど。他の誰にも見せへん、俺だけが知っとう絲さんや。

「っあ、いや……こんな格好」
「嫌やないで。ほら、ちゃんとつながっとうやろ」

 言葉を掛けつつ、何度も絲さんを穿つ。
 ささやかやけど柔らかい胸が、その度に揺れて。抱え上げた細くて白い足が、揺さぶられる。

「ちゃんと見てみ。綺麗やろ?」
「……でも」
「あかんなぁ。まだしゃべる余裕があるやん」

 俺はひと際深く、絲さんを貫いた。
 
「……ぁあ、だめ、も……ぅ、わたし……」

 途切れ途切れの声。甘く喘ぐ声はいっそう俺を駆り立てる。
 そして俺に抱えられたまま、絲さんは背をのけぞらせて達した。
 腕の中で、痙攣を起こす小さな体。
 その奥に、どうか授かりますようにと願いを込めて精を吐き出す。

 
 俺を受け入れてくれる絲さんが、愛おしくてならない。
 
「あ……ぁあ、んん……っ」

 まだ余韻が去らないのだろう。絲さんの体は小刻みに震えている。
 ほんまは抜きたないけど。
 いつまでも絲さんの中におりたいけど。

 ゆっくりと彼女の体を持ち上げて、俺と対面するように抱きしめる。

 絲さんは肩で息をしながら、俺に抱きついてきた。
 汗ばんだ顔や背中に、栗色の柔らかな髪が張りついている。

 好きやで、絲さん。よう頑張ったな。
 何度もそう囁きながら、俺は絲さんの頬や瞼にくちづけを落とした。
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