女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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六章

13、内緒のお話

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「おいおい。大丈夫か? 若先生」
「ありがとうございます。助かりました」

 蒼一郎さんが差し出す手を取って、若先生は立ち上がります。お父さまの大先生は、わたしが三條家に来た時に診ていただいたことがあります。

 それよりも前、まだ子どもだった頃に誘拐されてお爺さまと蒼一郎さんに助け出されて。その時にも大先生に診察していただいたらしいのですけれど。
 わたしの記憶には残っていません。

「遠野のお嬢さんも、ありがとうございます」
「いえ、わたしは何も」

 若先生に深々と頭を下げられて、わたしは両手を振りました。
 だって、肩を貸すことも出来なかったんですよ。

「組長やら組員の方が撃たれた時以来、うちの親父も三條組に呼ばれないので安心していたのですが」

「まさか自分が厄介事に巻き込まれるとは」と、若先生は困ったように眉を下げて微笑みました。

「絲さん。波多野らと一緒に馬を見てき。俺と一緒に乗るから、脚の強そうなん選んでもらうんやで」

 蒼一郎さんに言われて、わたしは素直に従ったのですが。
 若先生と大事なお話でもあるのでしょうか。
 
◇◇◇

「済まんな。汽車の時間もあるやろうに、引き留めてしもて」

 俺が謝ると、若先生は「大丈夫です」と恐縮したように何度も頭を下げた。
 親父さんと違て、腰の低い先生やで。

 さっきの雲助に払った金も、若先生はちゃんと払うと言うし。別にええのに。

 けど、絲さんの肩は貸したられへんなぁ。ごめんな。
 先生も、ごつい俺の手を取るよりも、柔らかな絲さんの手を取る方がええやろけどな。
 絲さんは、俺専用やねん。

「単刀直入に訊くわ。絲さん、子ども出来ると思うか?」
「これはまた……唐突ですね」

 さすがにおとなしい若先生は引いた。うん、ごめんな。俺、まわりくどいの苦手やねん。
 せやから短歌も全然上達せぇへんし。絲さんに一度褒められて、わりと満足してしもたんやな。放ったらかしや。

「三條さんが訊きたいのは、母体が出産に耐えられるかという方ですよね」
「それ、そっちや」

 さすが若先生、頭ええな。
 何しろ俺は、絲さんが好きで好きで。でも抱きすぎると子どもは出来にくいと言うし。しかも抱くたびに絲さんの体力を削いでいる気がする。

 でもなぁ、絲さんの子ども。きっと可愛いんやで。
 男の子でも女の子でも、どっちでもええけど。

 絲さんと子どもが、そろって俺にまとわりついたら……。
 ああ、考えただけで天国や。

 今回の温泉旅行も、子宝の湯に決めたんや。
 とはいえ、出産は命懸けやから。絲さんに無理はさせられへんし……。

「分かってくれ、若先生。この苦しい胸の内を」
「そ、蒼一郎さん。心臓がお悪いの?」

 突然聞こえてきた声に、俺ははっとした。
 すぐに馬を選び終えたんか、絲さんが俺に向かって走って来たからや。

 三つ編みにした髪を派手に揺らす絲さん。
 あかんやん。走ったりしたら。転ぶし、具合が悪なるで。

 蒼い顔をした絲さんを、俺は受け止めた。

「嫌よ。絲を置いて逝かないで。蒼一郎さんの代わりに、絲が逝きますから」

 誤解は早よ解かんとあかんと分かっとうのに。
 あまりにも絲さんがいじらしくて。
 何ともないという言葉が、なかなか出て来ぉへんかった。

「あの……三條さん。絲お嬢さん、泣いてらっしゃいませんか」

 俺は「しーっ」と口の前で人差し指を立てながら、若先生に視線を向けた。
 今は至福を味わっとんや。そっとしといてくれ。

「大丈夫だと思いますよ。その時は私も頻繁に往診しますし。不安なら産婆に任せるのではなく、知り合いの病院を紹介しますから。最新の西洋医学を取り入れた産院ですよ」

 半泣きの絲さんを慰めていると、若先生は再び礼を言って驛舎へと入っていった。
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