女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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五章

9、洗てもらおか【2】

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 蒼一郎さんの背中はとても広いです。
 夜叉に睨みつけられながら、わたしはせっせと泡のついた手拭いで背中を洗いました。

 それから足。長いんですね。わたしの腿とは比べ物にならないほどに、がっしりとしています。

 そういえば何故か湯船の縁に、桃色の紐が掛けられています。あれはもしかして、わたしの腰紐ではないのかしら。

「はい、いいですよ」
「ああ、ありがとう。けどな、絲さん。忘れとうで」

 首を傾げると、蒼一郎さんはわたしの手首を握り、そのまま体を引き寄せました。

「ここ」

 て、てのひらに。当たっています。泡まみれの手ですけど、蒼一郎さんの形がしっかりと分かるんです。

「へ? えっ? ええっ。ご自分で洗ってください」
「そんな殺生な。中途半端やで」

 しばしの沈黙が浴室内に流れました。天井からぽたりと水滴の落ちる音。
 蒼一郎さんはまるで試すように、わたしを真正面から見据えています。

 うう、まるで蛇に睨まれた蛙です。

「ちょっと触れるだけでもええで。洗たことにはならへんけど」
「ほんのちょっとだけですよ」

 わたしは意を決して、四本の指先で蒼一郎さんの雄の部分に触れました。
 ああ、勘弁して。恥ずかしいの。
 
「絲さんは困った子ぉやな。俺のなんか慣れとうやろ」
「仰らないで」
「まぁ、そういう純情なとこも可愛いんやけど」

「で、どうする? もうやめるんか?」と顔を覗きこまれます。

 こくりと頷くと、蒼一郎さんはご自分でも石鹸を泡立て始めました。

「じゃあ、交代な。今度は俺が絲さんを洗たるわ」
「あの、自分で洗えますから」
「そんなつれないことを言わんと。寂しいやんか」

 少し眉根を下げて、寂しそうな表情をされると、無下に断ることも出来ません。

「それなら、背中だけお願いします」
「おっしゃ、ええで。任しとき」

 ふんふんと鼻歌を歌いながら、石鹸を泡立てる蒼一郎さんは楽しそうです。
 もしかしてさっきの寂しげなのは演技だったのかしら。

 でもまぁ、手拭いで洗われるくらいなら。
 そう考えたわたしは、すでに蒼一郎さんの罠にはまっていたことに気づかなかったのです。
 
「はい、絲さん。背中を向けて」

 さっきまでと反対の向きに小さな椅子に座ります。
 滑らかな泡が、背中を滑り。あら? でもこれ手拭いの感触ではないような。

 背後から聞こえる鼻歌。機嫌が良さそうなので、遮るのもどうかと思い、そのままお任せします。

「おっと、石鹸って滑るなぁ」
「え? ひゃあ」

 両わきから蒼一郎さんの手が、前に出てきて。そして、わたしの胸に触れたんです。

「ほんまに、つるつるしとうわ」
「そ、蒼一郎さん。お願いしたのは背中です」
「うん。絲さんの背中は狭いから、手が滑ってしまうんや」

 嘘です、そんなの。そもそも手拭いを使っていらっしゃらないじゃないですか。
 
「ん? 以前よりも胸が大きなってきたんとちゃうか?」
「え? そうなんですか」
「ちゃんと確認せんと分からへんなぁ」

 背後からやわやわと胸を揉まれて、わたしは「嵌められた」と気づきました。
 少しでも喜んだ自分が愚かでした。
 
 ええ、胸が小さいのを気にしているんです。だから、大きくなったなんて言われると……。

「うちに来た頃よりも、大きなっとうで。成長期なんかなぁ、それとも俺の所為かなぁ」
「本当に大きくなっていますか?」
「うんうん。もっと丁寧に触らんと、分からんなぁ」

 あ、わたしの馬鹿。だから、どうして喜ぶの。
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