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五章
8、洗てもらおか【1】
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絲さんはほんまに可愛いなぁ。
絲さんが悪女やったら、この世の八割くらいの人間は悪人か極悪人か超極悪人や。
けどまぁ、俺を騙そうやなんて千年くらい早いかもしれへんなぁ。
俺に隠し事をしたお仕置きは必要やで。
絲さんを脱がすのなんか手慣れたもんやから。兵児帯をするりと解いて、襦袢の腰紐も外してやる。
「あ、あの。蒼一郎さん、自分で脱げますから」
「うんうん。悪女はそういうの自分でせぇへんのやで」
「え? そうなんですか」
「そうそう、絲さんはお嬢さん育ちから知らんやろ。着替えは人にさせるんが、悪女のたしなみや」
すらすらと嘘が出て来る俺も、相当に極悪人や。
桃色の可愛い縮緬の腰紐。これ、何かに使えそうやな。
俺はそれを手の中に入れた。
風呂の床はまだ乾いていて、足の裏も冷たくはない。
さて、どうしたもんかなぁ。と思案しつつ掛け湯をして、湯に浸かっているとおずおずと絲さんが浴室に入ってきた。
長い髪をまとめ、手拭いで体を隠している。
「絲さんも、温まった方がええで。もう秋なんやし、体が冷えたらあかんからな」
「あ、はい」
至極まともなことしか言うてへんから、絲さんは素直に従う。
一緒に湯に浸かり、向かい合うと絲さんは柔らかく微笑んだ。
「寒なってきたら、温泉でも行こか」
「素敵ですね。楽しみです」
うーん。表情に翳りもないし、ためらいもない。何かを隠しとんは事実やろけど。気にするほどのこともないんやろか。
「わたし、温泉って入ったことがないんです。子どもの頃、湯あたりするといけないからって言われていて」
「まぁ、俺がちゃんと見といたるし」
「え、でも女湯ですよ?」
きょとんと首を傾げる絲さん。
何を言うとんのや。混浴に決まっとるやろ。それも俺と絲さん二人きりのな。
なんで温泉に行って、別々の風呂に入らなあかんねん。それやったら家の風呂で充分や。
湯気はもうもうと浴室に満ち、俺の傍に座る絲さんの頬は上気している。
「熱くなってきましたね」
「体を洗うか。絲さん、上がり」
「はい」と返事をしつつ、絲さんはお行儀よく手拭いで体を隠して湯船から上がる。
白い肌の肩から下が、薄桃色に染まり色っぽい。
俺はざばっと湯の音を立てながら、洗い場に出た。
「あ。蒼一郎さん、先に洗いますか?」
「んー、そうやなぁ。じゃあ、そうさせてもらうか」
俺は白い石鹸と手拭いを絲さんに渡した。
「泡立てるんは手ぬぐいやないと難しいやろ」
「わたしが洗うんですか?」
「そうやで」
湯桶で濡らしながら、手拭いで石鹸を泡立てる絲さん。意外とその作業が楽しいんやろか。夢中で泡を量産しとった。
小さいシャボン玉がふわふわと、湯気と一緒にのぼっていく。
「はい、いいですよ」
絲さんはにこにこと笑みを浮かべながら、俺を手招きする。
浴用の木の椅子に向かい合わせに座り、俺は腕を差し出した。
まさに撫でるような優しい洗い方。
気分的には、ごしごし洗いたいところやけど。
まぁ、絲さんの絹のような肌を考えたら、彼女は普段からそーっと洗っとんのやろな。
絲さんが悪女やったら、この世の八割くらいの人間は悪人か極悪人か超極悪人や。
けどまぁ、俺を騙そうやなんて千年くらい早いかもしれへんなぁ。
俺に隠し事をしたお仕置きは必要やで。
絲さんを脱がすのなんか手慣れたもんやから。兵児帯をするりと解いて、襦袢の腰紐も外してやる。
「あ、あの。蒼一郎さん、自分で脱げますから」
「うんうん。悪女はそういうの自分でせぇへんのやで」
「え? そうなんですか」
「そうそう、絲さんはお嬢さん育ちから知らんやろ。着替えは人にさせるんが、悪女のたしなみや」
すらすらと嘘が出て来る俺も、相当に極悪人や。
桃色の可愛い縮緬の腰紐。これ、何かに使えそうやな。
俺はそれを手の中に入れた。
風呂の床はまだ乾いていて、足の裏も冷たくはない。
さて、どうしたもんかなぁ。と思案しつつ掛け湯をして、湯に浸かっているとおずおずと絲さんが浴室に入ってきた。
長い髪をまとめ、手拭いで体を隠している。
「絲さんも、温まった方がええで。もう秋なんやし、体が冷えたらあかんからな」
「あ、はい」
至極まともなことしか言うてへんから、絲さんは素直に従う。
一緒に湯に浸かり、向かい合うと絲さんは柔らかく微笑んだ。
「寒なってきたら、温泉でも行こか」
「素敵ですね。楽しみです」
うーん。表情に翳りもないし、ためらいもない。何かを隠しとんは事実やろけど。気にするほどのこともないんやろか。
「わたし、温泉って入ったことがないんです。子どもの頃、湯あたりするといけないからって言われていて」
「まぁ、俺がちゃんと見といたるし」
「え、でも女湯ですよ?」
きょとんと首を傾げる絲さん。
何を言うとんのや。混浴に決まっとるやろ。それも俺と絲さん二人きりのな。
なんで温泉に行って、別々の風呂に入らなあかんねん。それやったら家の風呂で充分や。
湯気はもうもうと浴室に満ち、俺の傍に座る絲さんの頬は上気している。
「熱くなってきましたね」
「体を洗うか。絲さん、上がり」
「はい」と返事をしつつ、絲さんはお行儀よく手拭いで体を隠して湯船から上がる。
白い肌の肩から下が、薄桃色に染まり色っぽい。
俺はざばっと湯の音を立てながら、洗い場に出た。
「あ。蒼一郎さん、先に洗いますか?」
「んー、そうやなぁ。じゃあ、そうさせてもらうか」
俺は白い石鹸と手拭いを絲さんに渡した。
「泡立てるんは手ぬぐいやないと難しいやろ」
「わたしが洗うんですか?」
「そうやで」
湯桶で濡らしながら、手拭いで石鹸を泡立てる絲さん。意外とその作業が楽しいんやろか。夢中で泡を量産しとった。
小さいシャボン玉がふわふわと、湯気と一緒にのぼっていく。
「はい、いいですよ」
絲さんはにこにこと笑みを浮かべながら、俺を手招きする。
浴用の木の椅子に向かい合わせに座り、俺は腕を差し出した。
まさに撫でるような優しい洗い方。
気分的には、ごしごし洗いたいところやけど。
まぁ、絲さんの絹のような肌を考えたら、彼女は普段からそーっと洗っとんのやろな。
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