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五章

5、不審すぎるようです

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 わたしは三條邸に帰り、買ってきたリボンを酒瓶に結びました。

 淡い水色のリボンは、とても愛らしく。ええ、愛らしくて……一升瓶には似合いません。
 おかしいわ。酒瓶ってこんなに大きかったかしら。

 どうやらしかめっ面をしていたようで、わたしはお座敷でお花を生ける波多野さんに「大丈夫ですか?」と案じられてしまいました。

 まるで折り紙でこしらえたかのような桔梗の花。淡い紫と白いその花の茎を花鋏で切り揃えながら、波多野さんは水盤に沈めた剣山に差していきます。

 お庭の方が騒がしくなったと思うと「お帰りなさいませ」との野太い声が、あちこちから聞こえてきました。

 蒼一郎さん、もう帰っていらしたの?
 汽車で名原組の組長さんとお出かけだから、帰りは遅いと思っていたのに。

 わたしは慌てて酒瓶を鏡台の後ろに隠しました。
 誕生日は明日ですもの。
 せめて日付が変わる午前零時までは見つからないようにしないと。

「無駄やと思いますけどねぇ」
「え、鏡台の後ろは見つかりますか?」
「いや、そうやのうて。絲お嬢さんが不審そうにしはるでしょうから。それでばれると思いますよ」

 まさかぁ。わたし、素知らぬふりをするのは得意なんですよ。
 波多野さんは首を傾げていますが。わたしは着物の袖や袴の裾を整えて、廊下に面した襖を開きました。

「おう、絲さん。帰ったで」
「お帰りなさい」

 にこにこと蒼一郎さんをお出迎えします。ですが、蒼一郎さんはわたしをじーっと見つめました。

「絲さんはさっき帰ってきたとこなんか?」
「いえ、そんなことはないですよ。お買い物はすぐに終わりましたから」
「ふーん。それにしては着替えてへんな。女學校に行っとった格好のままやな」

 ぎくっ。
 そうでした。蒼一郎さんは勘が鋭いのです。

「波多野、悪かったな。絲さんに付き合うてくれて」
「は、いえ。大丈夫です」
「で? 何を買うたんや」

 ぎくっ。ぎくっ。
 これはわたしと波多野さん二人分の音です。

「日用品ですよ。ねぇ」
「そうそう。ちょっとかさばるから、私が付き合うたんです」

 わたしと波多野さんは同時にうなずきました。
 蒼一郎さんは片目を眇めて、室内に視線を巡らします。

「かさばる? 別に何もあらへんけど」
「もう箪笥にしまったの。邪魔になるといけないから」
「へーぇ?」

 あ、これは信じていませんね。
 蒼一郎さんは桐の箪笥をじーっと眺めています。

◇◇◇

 怪しい。怪しすぎる。
 俺は絲さんと波多野から注意を逸らさんようにした。

 絲さんが風呂に入っとう間にでも、家探しするか。まぁ、俺には見せたないモンかもしれへんけど。
 それでも波多野にはそのブツを持たせて、波多野は絲さんが何を買ったか知っとうのは、面白くないからな。

「とりあえず、着がえた方がええんとちゃうかな。袴姿やったら、落ち着かへんやろ」

 俺は自然に仕向けた。もちろん、絲さんに箪笥を開けさせる為や。
 俺に隠し事とかあかんやろ。
 けど、俺は優しいから。無理に白状はさせへん。
 
 よかったな、絲さん。俺が温厚で優しいヤクザで。
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