女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

文字の大きさ
上 下
132 / 257
四章

15、遠い日の夢を見た【3】

しおりを挟む
 絲さんを誘拐した奴は、阿片の売買を生業としとった。要は子どもを高く売って、それで阿片を仕入れて阿片を売るという仕組みが出来上がっとったんや。

 更に子どもが言うことを聞かんかったり、飽きたら今度は見世物小屋やサァカスに売り飛ばす算段や。
 人を人とも思ってへん、極道よりも極悪な奴らやった。

 そいつらの組織は徹底的に潰したはずやのに。阿片はあまりにも儲かりすぎるから。
 また阿片の売買に手ぇ出して。それをうちの組が売り物を全部捨てたもんやから。
 怒りの矛先が、今回も絲さんへと向かった。

 なぁ、爺さん。
 あんたが居らんようになってから、絲さんは元気がなかったで。
 俺は女學院に通う絲さんを……まだ中等部の幼い絲さんを見守っとったけど。すごい寂しそうやったんや。

 けど、春の季節を迎えると、うちの築地塀の外に生えとう躑躅の蜜を吸って。嬉しそうに微笑んどった。
 爺さんがこれまでよう見とった絲さんの笑顔やろし、多分空の上からでも見えとうやろ。

 せやから、安心し。俺は絲さんを守るし、大事にするから。
 爺さんが、俺を彼女の婚約者として認めてくれたんやからな。
 俺は絲さんを託されたんや。

◇◇◇

 なにやら甘い香りと柔らかい感触に、俺は目を覚ました。
 凬月堂ふうげつどう真珠麿ましゅまろかな、これは。
 その柔らかいものに、頬を寄せる。
 ふわん……。何やろ、覚えがある。多分手では触ったことがある。けど、頬に触れたのは初めてのような……。

「くすぐったいですよ」

 え?

 何故か上から聞こえてくる絲さんの声。そして頭を撫でる、しなやかな手つき。
 ちょお待て。俺が絲さんを胸に寄りかからせているんやのうて、もしかして俺が絲さんの胸に寄りかかっとんのか?

 慌てて瞼を開いて視線を上げると、柔らかな笑顔を浮かべる絲さんと目が合うた。

「お、おはよう」
「はい。おはようございます」

 なんちゅうことや。俺は絲さんの胸を枕に寝とったんか。

「とっても可愛い寝顔でしたよ」
「言うな。言わんといてくれ」
「あら。いいじゃないですか。絲だけなら、見てもいいでしょう」

「……ああ」

 仕方なく俺は頷いた。
 そうや、絲さんだけは俺のすべてを見てもええ。

 多分、表情は平静を保っとったやろ。頑張れ、顔の筋肉。そう思て、口をへの字に結んどったけど。

 心の中では、恥ずかしさが大騒ぎや。

「絲さん。俺がもたれかかっとったから、重かったやろ」
「いえ、全然」と言いながら、絲さんはよろけた。

 強がり言うて。困った子ぉやで。

「あのー、話し声が聞こえたんですけど。カシラもう起きはったんですか」
「起きてへん」

 襖の向こうから聞こえる波多野の声に、俺は答える。

「でも、そろそろ綿紗ガーゼを取り換えんと」
「俺はまだ寝とうから、起きたら替える」

「はぁ」と納得しかねた声が襖の向こうから聞こえる。
 まったく気の利かん奴やで。
 俺は、ここぞとばかりに絲さんの胸に頬を寄せた。

 うーん。浴衣越しなのは、ちょっともどかしいなぁ。
 今日、百貨店に着ていっとった単衣よりは、生地が柔らかけどなぁ。帯も兵児帯やからふんわりしとうけど、邪魔やなぁ。

「あの、蒼一郎さん?」
「やっぱりじかの方がええな」
「えっと、動いたら傷に障りますよ」

 傷かぁ。たいしたことはないけど。
 うーん。

「そうや、傷が塞がったら温泉に行こか」
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

淫らに、咲き乱れる

あるまん
恋愛
軽蔑してた、筈なのに。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

愛し愛され愛を知る。【完】

夏目萌(月嶋ゆのん)
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。 住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。 悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。 特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。 そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。 これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。 ※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜

羽村美海
恋愛
 古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。  とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。  そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー  住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……? ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ ✧天澤美桜•20歳✧ 古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様 ✧九條 尊•30歳✧ 誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭 ✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦ *西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨ ※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。 ※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。 ※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。 ✧ ✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧ ✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧ 【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】

処理中です...