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四章
15、遠い日の夢を見た【3】
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絲さんを誘拐した奴は、阿片の売買を生業としとった。要は子どもを高く売って、それで阿片を仕入れて阿片を売るという仕組みが出来上がっとったんや。
更に子どもが言うことを聞かんかったり、飽きたら今度は見世物小屋やサァカスに売り飛ばす算段や。
人を人とも思ってへん、極道よりも極悪な奴らやった。
そいつらの組織は徹底的に潰したはずやのに。阿片はあまりにも儲かりすぎるから。
また阿片の売買に手ぇ出して。それをうちの組が売り物を全部捨てたもんやから。
怒りの矛先が、今回も絲さんへと向かった。
なぁ、爺さん。
あんたが居らんようになってから、絲さんは元気がなかったで。
俺は女學院に通う絲さんを……まだ中等部の幼い絲さんを見守っとったけど。すごい寂しそうやったんや。
けど、春の季節を迎えると、うちの築地塀の外に生えとう躑躅の蜜を吸って。嬉しそうに微笑んどった。
爺さんがこれまでよう見とった絲さんの笑顔やろし、多分空の上からでも見えとうやろ。
せやから、安心し。俺は絲さんを守るし、大事にするから。
爺さんが、俺を彼女の婚約者として認めてくれたんやからな。
俺は絲さんを託されたんや。
◇◇◇
なにやら甘い香りと柔らかい感触に、俺は目を覚ました。
凬月堂の真珠麿かな、これは。
その柔らかいものに、頬を寄せる。
ふわん……。何やろ、覚えがある。多分手では触ったことがある。けど、頬に触れたのは初めてのような……。
「くすぐったいですよ」
え?
何故か上から聞こえてくる絲さんの声。そして頭を撫でる、しなやかな手つき。
ちょお待て。俺が絲さんを胸に寄りかからせているんやのうて、もしかして俺が絲さんの胸に寄りかかっとんのか?
慌てて瞼を開いて視線を上げると、柔らかな笑顔を浮かべる絲さんと目が合うた。
「お、おはよう」
「はい。おはようございます」
なんちゅうことや。俺は絲さんの胸を枕に寝とったんか。
「とっても可愛い寝顔でしたよ」
「言うな。言わんといてくれ」
「あら。いいじゃないですか。絲だけなら、見てもいいでしょう」
「……ああ」
仕方なく俺は頷いた。
そうや、絲さんだけは俺のすべてを見てもええ。
多分、表情は平静を保っとったやろ。頑張れ、顔の筋肉。そう思て、口をへの字に結んどったけど。
心の中では、恥ずかしさが大騒ぎや。
「絲さん。俺がもたれかかっとったから、重かったやろ」
「いえ、全然」と言いながら、絲さんはよろけた。
強がり言うて。困った子ぉやで。
「あのー、話し声が聞こえたんですけど。頭もう起きはったんですか」
「起きてへん」
襖の向こうから聞こえる波多野の声に、俺は答える。
「でも、そろそろ綿紗を取り換えんと」
「俺はまだ寝とうから、起きたら替える」
「はぁ」と納得しかねた声が襖の向こうから聞こえる。
まったく気の利かん奴やで。
俺は、ここぞとばかりに絲さんの胸に頬を寄せた。
うーん。浴衣越しなのは、ちょっともどかしいなぁ。
今日、百貨店に着ていっとった単衣よりは、生地が柔らかけどなぁ。帯も兵児帯やからふんわりしとうけど、邪魔やなぁ。
「あの、蒼一郎さん?」
「やっぱり直の方がええな」
「えっと、動いたら傷に障りますよ」
傷かぁ。たいしたことはないけど。
うーん。
「そうや、傷が塞がったら温泉に行こか」
更に子どもが言うことを聞かんかったり、飽きたら今度は見世物小屋やサァカスに売り飛ばす算段や。
人を人とも思ってへん、極道よりも極悪な奴らやった。
そいつらの組織は徹底的に潰したはずやのに。阿片はあまりにも儲かりすぎるから。
また阿片の売買に手ぇ出して。それをうちの組が売り物を全部捨てたもんやから。
怒りの矛先が、今回も絲さんへと向かった。
なぁ、爺さん。
あんたが居らんようになってから、絲さんは元気がなかったで。
俺は女學院に通う絲さんを……まだ中等部の幼い絲さんを見守っとったけど。すごい寂しそうやったんや。
けど、春の季節を迎えると、うちの築地塀の外に生えとう躑躅の蜜を吸って。嬉しそうに微笑んどった。
爺さんがこれまでよう見とった絲さんの笑顔やろし、多分空の上からでも見えとうやろ。
せやから、安心し。俺は絲さんを守るし、大事にするから。
爺さんが、俺を彼女の婚約者として認めてくれたんやからな。
俺は絲さんを託されたんや。
◇◇◇
なにやら甘い香りと柔らかい感触に、俺は目を覚ました。
凬月堂の真珠麿かな、これは。
その柔らかいものに、頬を寄せる。
ふわん……。何やろ、覚えがある。多分手では触ったことがある。けど、頬に触れたのは初めてのような……。
「くすぐったいですよ」
え?
何故か上から聞こえてくる絲さんの声。そして頭を撫でる、しなやかな手つき。
ちょお待て。俺が絲さんを胸に寄りかからせているんやのうて、もしかして俺が絲さんの胸に寄りかかっとんのか?
慌てて瞼を開いて視線を上げると、柔らかな笑顔を浮かべる絲さんと目が合うた。
「お、おはよう」
「はい。おはようございます」
なんちゅうことや。俺は絲さんの胸を枕に寝とったんか。
「とっても可愛い寝顔でしたよ」
「言うな。言わんといてくれ」
「あら。いいじゃないですか。絲だけなら、見てもいいでしょう」
「……ああ」
仕方なく俺は頷いた。
そうや、絲さんだけは俺のすべてを見てもええ。
多分、表情は平静を保っとったやろ。頑張れ、顔の筋肉。そう思て、口をへの字に結んどったけど。
心の中では、恥ずかしさが大騒ぎや。
「絲さん。俺がもたれかかっとったから、重かったやろ」
「いえ、全然」と言いながら、絲さんはよろけた。
強がり言うて。困った子ぉやで。
「あのー、話し声が聞こえたんですけど。頭もう起きはったんですか」
「起きてへん」
襖の向こうから聞こえる波多野の声に、俺は答える。
「でも、そろそろ綿紗を取り換えんと」
「俺はまだ寝とうから、起きたら替える」
「はぁ」と納得しかねた声が襖の向こうから聞こえる。
まったく気の利かん奴やで。
俺は、ここぞとばかりに絲さんの胸に頬を寄せた。
うーん。浴衣越しなのは、ちょっともどかしいなぁ。
今日、百貨店に着ていっとった単衣よりは、生地が柔らかけどなぁ。帯も兵児帯やからふんわりしとうけど、邪魔やなぁ。
「あの、蒼一郎さん?」
「やっぱり直の方がええな」
「えっと、動いたら傷に障りますよ」
傷かぁ。たいしたことはないけど。
うーん。
「そうや、傷が塞がったら温泉に行こか」
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