112 / 257
三章
45、行かへんから
しおりを挟む
待て待て、どういうことや。俺は、しくしくと泣く絲さんの頭を撫でた。
確かに森内は、俺に若いもんの集会に顔を出してくれと言うとった。その後、そのまま遊べるから……と。
その冗談を、絲さんは真に受けたんか。自分に色気がないから、それで俺が絲さんに飽きて、女を抱きに行く……と。
あいつ、簀巻きにして海に沈めたる。
絲さんは分かってへんのやな。自分がどれだけ色気が滲んでいるのか。
絲さんの泣き方は、見ていてとてもつらい。とても静かで、声を殺して泣くもんやから。
胸が引き絞られるように、苦しくなる。
しかも、それが俺を想って、俺を独り占めしたくて泣いているんやから。
俺は、ほんまに絲さんに愛されとんやな。
こんなに幸せなことはないよな。
「大丈夫や。俺は花街には行かへんから」
「でも、わたしでは……うぅ……満足なさらないのでしょう?」
あー、困ったな。けど可愛いなぁ。
俺は盛大に困惑しながらも、多分顔がにやけとった。
絲さんが両手で顔を覆っとうから、俺の表情を見られずに済んでよかった。
いや、泣いてるから喜んでてもあかんのやけど。
「なぁ、絲さん? 俺は絲さん相手やから、加減ができへんのやで」
「う、うう。それは蒼一郎さんが、ぜ、ぜつ……り」
絲さんは顔を真っ赤にして、言葉の続きを飲み込んだ。
まぁ、何が言いたいか大体想像はつくけど。
なんか悪い言葉を覚えてきとうな。組の者の所為か? それとも女學院の小生意気な級友の所為か?
「俺は女好きと違うで。俺は絲さんが好きなだけやし、絲さんやから我慢もできへんだけや」
「ほ、本当に?」
「ほんま、ほんま」
「だから、おいで」と両腕を広げると、ようやく絲さんは顔を見せてくれた。
恐る恐る俺に向かって両手を差し伸べて、そのまま……涙でぐずぐずになった顔のままで、俺の胸に飛び込んできた。
お帰り、絲さん。
「貧血の具合はどうや?」
「大丈夫みたいです」
「そうか、よかった」
俺の口許がにやりと上がったのを、胸に顔を埋めた絲さんは見てへんかったようだ。
「蒼一郎さん、蒼一郎さん」
「ん? どうした」
「あのね、わたし蒼一郎さんのこと大好きなの」
俺の胸に顔を埋めて喋るから。
彼女の口から出る言葉の振動が、着物を通して肌に伝わってくる。
ああ、もう。そんな可愛いことを腕の中で言わんといてくれ。
柔らかなその髪を手に触れて……そして絲さんのうなじに手を掛けると、彼女に上を向かせた。
「蒼一郎さん?」
パーラーでは、接吻だけで我慢した。外やから。それに絲さんの具合が悪かったから、着替えさせる時も手は出さんかったけど。
「無理はさせへん。大丈夫か?」
「無理って?」
「このまま絲さんを抱いてもええかと、尋ねてるんや」
単刀直入に問いかけると、絲さんは頬を赤らめながらうなずいた。
ああ、なんて愛らしいんや。
俺は絲さんの肩を左手で支えたまま、右手で帯紐をするりと解いた。
確かに森内は、俺に若いもんの集会に顔を出してくれと言うとった。その後、そのまま遊べるから……と。
その冗談を、絲さんは真に受けたんか。自分に色気がないから、それで俺が絲さんに飽きて、女を抱きに行く……と。
あいつ、簀巻きにして海に沈めたる。
絲さんは分かってへんのやな。自分がどれだけ色気が滲んでいるのか。
絲さんの泣き方は、見ていてとてもつらい。とても静かで、声を殺して泣くもんやから。
胸が引き絞られるように、苦しくなる。
しかも、それが俺を想って、俺を独り占めしたくて泣いているんやから。
俺は、ほんまに絲さんに愛されとんやな。
こんなに幸せなことはないよな。
「大丈夫や。俺は花街には行かへんから」
「でも、わたしでは……うぅ……満足なさらないのでしょう?」
あー、困ったな。けど可愛いなぁ。
俺は盛大に困惑しながらも、多分顔がにやけとった。
絲さんが両手で顔を覆っとうから、俺の表情を見られずに済んでよかった。
いや、泣いてるから喜んでてもあかんのやけど。
「なぁ、絲さん? 俺は絲さん相手やから、加減ができへんのやで」
「う、うう。それは蒼一郎さんが、ぜ、ぜつ……り」
絲さんは顔を真っ赤にして、言葉の続きを飲み込んだ。
まぁ、何が言いたいか大体想像はつくけど。
なんか悪い言葉を覚えてきとうな。組の者の所為か? それとも女學院の小生意気な級友の所為か?
「俺は女好きと違うで。俺は絲さんが好きなだけやし、絲さんやから我慢もできへんだけや」
「ほ、本当に?」
「ほんま、ほんま」
「だから、おいで」と両腕を広げると、ようやく絲さんは顔を見せてくれた。
恐る恐る俺に向かって両手を差し伸べて、そのまま……涙でぐずぐずになった顔のままで、俺の胸に飛び込んできた。
お帰り、絲さん。
「貧血の具合はどうや?」
「大丈夫みたいです」
「そうか、よかった」
俺の口許がにやりと上がったのを、胸に顔を埋めた絲さんは見てへんかったようだ。
「蒼一郎さん、蒼一郎さん」
「ん? どうした」
「あのね、わたし蒼一郎さんのこと大好きなの」
俺の胸に顔を埋めて喋るから。
彼女の口から出る言葉の振動が、着物を通して肌に伝わってくる。
ああ、もう。そんな可愛いことを腕の中で言わんといてくれ。
柔らかなその髪を手に触れて……そして絲さんのうなじに手を掛けると、彼女に上を向かせた。
「蒼一郎さん?」
パーラーでは、接吻だけで我慢した。外やから。それに絲さんの具合が悪かったから、着替えさせる時も手は出さんかったけど。
「無理はさせへん。大丈夫か?」
「無理って?」
「このまま絲さんを抱いてもええかと、尋ねてるんや」
単刀直入に問いかけると、絲さんは頬を赤らめながらうなずいた。
ああ、なんて愛らしいんや。
俺は絲さんの肩を左手で支えたまま、右手で帯紐をするりと解いた。
0
お気に入りに追加
693
あなたにおすすめの小説
お隣さんはヤのつくご職業
古亜
恋愛
佐伯梓は、日々平穏に過ごしてきたOL。
残業から帰り夜食のカップ麺を食べていたら、突然壁に穴が空いた。
元々薄い壁だと思ってたけど、まさか人が飛んでくるなんて……ん?そもそも人が飛んでくるっておかしくない?それにお隣さんの顔、初めて見ましたがだいぶ強面でいらっしゃいますね。
……え、ちゃんとしたもん食え?
ちょ、冷蔵庫漁らないでくださいっ!!
ちょっとアホな社畜OLがヤクザさんとご飯を食べるラブコメ
建築基準法と物理法則なんて知りません
登場人物や団体の名称や設定は作者が適当に生み出したものであり、現実に類似のものがあったとしても一切関係ありません。
2020/5/26 完結
ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
昨日、課長に抱かれました
美凪ましろ
恋愛
金曜の夜。一人で寂しく残業をしていると、課長にお食事に誘われた! 会社では強面(でもイケメン)の課長。お寿司屋で会話が弾んでいたはずが。翌朝。気がつけば見知らぬ部屋のベッドのうえで――!? 『課長とのワンナイトラブ』がテーマ(しかしワンナイトでは済まない)。
どっきどきの告白やベッドシーンなどもあります。
性描写を含む話には*マークをつけています。
【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される
奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。
けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。
そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。
2人の出会いを描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630
2人の誓約の儀を描いた作品はこちら
「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041
溺愛ダーリンと逆シークレットベビー
葉月とに
恋愛
同棲している婚約者のモラハラに悩む優月は、ある日、通院している病院で大学時代の同級生の頼久と再会する。
立派な社会人となっていた彼に見惚れる優月だったが、彼は一児の父になっていた。しかも優月との子どもを一人で育てるシングルファザー。
優月はモラハラから抜け出すことができるのか、そして子どもっていったいどういうことなのか!?
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる