女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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三章

44、花街に行かないで【3】

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 絲さんの袴の帯を解いて、着物やら肌襦袢やらを脱がせていく。
 腰巻だけになった絲さんは、素肌をさらしとうけど。幾分楽になったんか、息遣いがさっきほどは苦しくなさそうや。

 手早く寝間着を着せてやろうとすると、力のない手がそれをとどめた。

「大丈夫。自分で、できますから」
「何を今更。俺に任せとき。もう慣れたもんやで」

 なのに絲さんは、またふるふると首を振る。

「組長さんが、そんなこと、慣れちゃいけないの」
「へ?」

 いろいろと出来た方がええと思うけど。これまで俺は何でも人任せにしとったから。
 逆に、絲さんの世話ができるのは嫌いではないんやけど。
 ああ、でも絲さんの世話をする時は、だいたい彼女がぐったりしとう時やから。まぁ、どっちがええんやろ。

「絲さんはもっと我儘を言うてええんやで」
「我儘?」
「そうそう。聞けることなら、なんでも聞いたるで」

 口の端を上げて、俺は笑った。ちょっと少年っぽい笑いやったかもしれへんけど。
 そしたら中途半端に寝間着を着せられた(まだ衿の部分が開いたままやから、ささやかな胸の谷間が見えとうけど)絲さんが、俺の単衣の袖を引っ張った。

「絲さん?」
「我儘……聞いてもらってもいいですか?」
「ああ。どうぞ」

 なんや神妙な顔をしてると思いつつ、彼女の寝間着をちゃんと着せて腰紐を結んでやる。

「花街に行かないで」
「かがい? 加害者のことか。別に捕まるようなことはしてへんで」

「違うんです」と絲さんは瞼を伏せる。

 ああ、もうそんな表情も可愛いなぁ。
 言いたいことがあったら、はっきりと言ったらええのに
 絲さんは、すぐ遠慮がちになるから。

「わ、わたし……あの、わたしじゃ物足りないですか?」
「ん? 何が?」

 純粋に何のことか分からなかったから尋ね返しただけやのに。絲さんは顔を真っ赤にして、俺を見上げてきた。
 まぁ、さっきよりも貧血はマシみたいやけど。
 貧血に効く食いもんは何やったかな。後で料理番に作ってもらうか。

「わたし、胸も小さいです」
「前よりはちょっと大きなったで。俺が触っとうから」

 しまった。これは失言か? 絲さんの大きい瞳に涙が滲んで、うるうるとしている。

「全体的にすとんとして、体にメリハリがないんです」
「お、おう……」

 どう答えるのが正解か分からへん。何を言っても絲さんが泣きだしそうやから、俺は静かにしとくことにした。

「男の人って、大きな胸がお好きなんでしょう?」
「……人によるんとちゃうかな」

 なんで急に体形の話になっとんや? 確かに絲さんは細いけど。別に俺は気にせぇへんし。そもそも太かろうが細かろうが、絲さんは絲さんや。

「わ、わたしに魅力がないから、遊郭に行って女の人を抱くんですよね」

 とうとう絲さんは泣いてしもた。けど、それよりも彼女が発した言葉が信じられへんかった。

「ちょ、ちょっと待とか。『かがい』って遊郭のある花街のことか。なんで俺が、遊郭で女を抱くんや?」
「だって、森内さんと行くんでしょう? いやっ。行かないで」

 ふり絞るような声で叫ぶと、絲さんは両手で顔を覆った。
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