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三章

41、外で接吻されてます?

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 広げた扇子は、ちょうどわたし達の席と、波多野さん達の席の間を隠す形で。
 急にどうしたのかしらと思うと、蒼一郎さんの顔が近づいてきたんです。

「ん……んんっ?」

 唇に少し固い感触がありました。
 目の前に、瞼を閉じた蒼一郎さんの顔。
 わたし、接吻されてます?

 急に蒼一郎さんにくちづけられて、わたしは瞬きをすることすら忘れてしまいました。

 待って、待って。外ですよ、ここ。
 隣には、波多野さんと森内さんがいらっしゃいます。
 たとえ扇子で顔は隠れているといっても、体の近さでばれてしまいますよ。

 なのに、蒼一郎さんはくちづけをやめてくださいません。
 しかも、あろうことが口の中に舌が入ってきたの。

 いやぁ、本当にやめて。恥ずかしいの。
 ここは外よ。

「……んっ」

 なんとか蒼一郎さんを押しのけようとしたけれど。当然、わたしの力なんて何の意味もありません。
 口の中を、まさに舐められる感じで。
 わたし自身が、あいすくりんになってしまったかのよう。

「ほんまに甘いな」

 ようやく唇を離した蒼一郎さんは、わたしの耳元で囁きました。

「まるで絲さんみたいや」
「な、な……なっ」
「ああ、聞こえへんかったか? あいすくりんは、絲さんの体みたいに甘いな」

 なんて意味深な言葉。
 辺りはとても明るいのに、爽やかな日差しに満ちているのに。蒼一郎さんは一瞬で宵闇を連れてきました。

「ど、どうしてこんなことをするんですか?」
「ん? 食べろって勧めたんは絲さんやで」
「そういう意味じゃないんです!」

「こらこら、波多野らに丸聞こえやで」

 しれっと蒼一郎さんは仰います。なんて憎い人なの。
 まるでわたしの聞き分けがないみたい。

「まぁ、続きは家でな。それまで我慢しとき」
「う、ううっ」

 蒼一郎さんは、ぱしんと音を立てて扇子を閉じて、椅子にもたれるように体をわたしから離しました。

「早よ食べんと、あいすくりんが溶けてしまうで」

 お一人だけ悠々とした態度で、なんて憎らしいの。

◇◇◇

 絲さんは俺を睨みつけていたが。頬を染めとうから、全然怖ないな。
 まったく照れとうのを、怒って誤魔化すとか可愛いもんやで。

 正直なところ、接吻を扇子で隠すこともなかったんやけど。
 波多野も森内も、俺が絲さんを普段からどんな風に抱いとんのかよう知っとうやろし。
 接吻どころか、俺と絲さんの行為を見たところで顔色一つ変えんやろ。

 まぁ、そんなことを言うたら、絲さんはきっと俺と距離を取るやろから。絶対に教えられへんなぁ。

「しかし、あいすくりんは甘いなぁ」
カシラは、甘いもん苦手なんですか?」

 森内が訊いてきた。ほらな、別になんも気にしてへんやろ。けど波多野は、なぜか口に手を当てて頬を染めとうような気がする。ほんのわずかやけど。

「俺は、お前らみたいに花街とか行かへんから。女性と甘味処に行ったりもせぇへんし」
「まーたまたぁ」

 森内、お前。後で埋める。
 首から下を庭に埋めて、地面の上に顔だけ出させて蜂蜜を塗って、蟻をおびき寄せたる。

 ふん、よりにもよって絲さんの前で、言ってええ冗談やないぞ。
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