女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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三章

39、あいすくりん【1】

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 学校帰り、わたくしと蒼一郎さんは坂の途中にあるパーラーに立ち寄りました。
 ここでは、珍しいあいすくりんがいただけるのです。

 波多野さんともう一人の若い組員(森内さんと仰るのを初めて知りました)も、同席します。

 近くの大学生がよく利用するというミルクホウルよりも明るくて、店の前には海を眺めることの出来る露台テラスが広がっています。

「絲さんは陰の方がええな。こっちやったら海も見えるし」

 蒼一郎さんが椅子を引いてくださり、わたしを座らせてくださいます。
 波多野さんはもう慣れていらっしゃいますが、森内さんはこういう蒼一郎さんをご存じないのか、目を丸くしています。

 ええ、そうですよね。
 わたしも申し訳ないんです。椅子くらい自分で引けますし、組長さんにさせることではないですよね。

 ですが、諸々言いたいこともおありでしょうに、森内さんはそれを飲み込んだようです。
 お二人は、蒼一郎さんとわたしとは別に、隣のテーブルについています。

「ほら、絲さん。品書き。あいすくりんが名物やな、ここ」
「あの。とんでもない値段ですけど、あいすくりん」
「うん。珍しいし頼んだらええんとちゃうかな」

 蒼一郎さんは簡単に仰いますけど。ご自分も波多野さん達も頼んでいるのは珈琲ですよ。
 わたしだけ、とびぬけて高価なあいすくりんを頼むわけには。

 今日は雲が少なく、坂の途中から見下ろす対岸の島も緑の木々が鮮明です。
 しかも風が止んだせいで、蒸し暑さが増して。

「ご注文はお決まりですか?」
「珈琲を三つ。砂糖とかは、いらんから。絲さん、決まったか?」
 
 うーんうーん。給仕さんと蒼一郎さんに訊ねられますが。そう簡単に決心していい値段でしょうか。
 珈琲だって高価ですけど。それよりもあいすくりんは高いんです。

「ああ、蒸し暑なってきたなぁ。冷たいもん食べたら、美味しいやろなぁ。しかも絲さんは今日、学校で頑張ってきたし」

 ちらっと蒼一郎さんが、隣のテーブルに視線を向けます。

「ああ、ええですね。あいすくりん。俺も食べたことありますよ」
「波多野の兄貴は、パンケークも女と食べに行ったことがあるから、ハイカラですよね」

 なぜか波多野さんと森内さんが、うんうんと頷きながら、あいすくりんの美味しさを絶賛しています。

 え、お二人とも召し上がったことがあるんですか?
 向かいの席に座る蒼一郎さんを、ちらっと見ると。

「ああ、俺も食ったことある。口の中で雪みたいに溶けていくよな」
「そうなんですか」

 雪を甘くして食べたいと思ったことはありますが。実際に試したことはありません。
 だって雪が降るくらい寒い時に、そんな冷たい物を口に入れたくはないんですもの。

 でも、今は夏の盛り。しかも氷と違い、あいすくりんは濃厚で……ああ、どうしましょう。

「あれ? なんや、あいすくりんはいつでもある訳やないんか」

 メニュウを見ながら、蒼一郎さんが視線を給仕さんに向けます。
すぐに「今日はございますよ」とのお返事。

 だめ。次の機会があるとは限らないわ。

「あいすくりんをお願いします」

 わたしは大きな声で注文しました。
 なぜか皆が一斉に「ほーっ」と、大きく息をつきます。
 ええ。わたしも緊張した所為で、いつの間にか握りしめていた拳を開くと、てのひらに汗をかいていました。
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