女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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三章

25、夢ではなくて【2】

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 俺の腕の中で、絲さんはぐったりと横たわっとう。
 障子から差し込む光は、すでに早朝ともいえへん明るさや。
 小鳥が爽快な声でさえずっとう。

 俺は、乱れてしまった絲さんの髪を、指で梳いてやった。
 いっつも綺麗で、ふわふわした柔らかい髪やのに。俺の所為で絡まってしもとう。

 彼女の白い肌には、俺が残したくちづけの痕が無数に散っている。
 どれだけ所有欲が強いねん、と自分で突っ込んでしまうほどに。

カシラ。朝食は……うわっ」

 声を掛けてから廊下に繋がる襖を開けた波多野が、絶句した。
 おろおろと手を差し伸べては、歩こうとして、畳の縁につまずいてよろけている。

「何でこんなことに……おいたわしや」

 レースの割烹着の裾で、波多野が目尻を押さえる。
 何でって、そら一晩かけて愛したからやけど。

「い、絲お嬢さん。死んではるんですか?」
「縁起でもないこと言うな」
「せやけど、えらい惨状やのに、安らかな顔をしとってやから」

 えらい言われようやな。何で俺が絲さんを殺すんや。
 だがまぁ、波多野の言いたいことは分かる。

 布団は派手に乱れて、絲さんは裸身のまま力なく気絶している。しかも俺が汚した痕が残り、まぁ……愛しているのと犯罪は紙一重やなと思う。
 ただ、眠る絲さんが柔らかく微笑んでいるのが、せめてもの救いや。
 
 欲望をむき出しにして犯したんやのうて、ちゃんと愛したのが彼女の表情から伝わってくるから。

「絲さんを、風呂に入れて来たるわ」
「沸かさせましょか」
「いや、温い方が目ぇ覚まさへんやろ。新しい寝間着を用意しとったってくれ。あと、食べやすいもん……果物でも持って来てくれ。俺の朝飯は後にしてくれ」

 俺はしわくちゃになった寝間着を肩からはおり、絲さんには体の上にふわりと彼女の寝間着を載せてやった。
 なんや半日前も、似たようなことした気がするな、と考えながら。

 俺が絲さんを抱えて歩くと、組員たちが遠巻きに俺らを眺めとった。
 その顔は一様に青ざめとう。

 気の利く奴が「おら、見るな」と注意してくれたが。
 参ったな。もし絲さんが目ぇ覚ましとったら、恥ずかしさで泣いてしまうで。

 当の絲さんは多分、今度こそ夢の中や。
 安心し。もう無茶はせぇへんから。
 多分、やけど。

◇◇◇

 わたしは、ふわふわと風に乗って漂っていたの。
 どこからか「絲さん」と蒼一郎さんの声が聞こえてきて。
 ああ、二人でお出かけしているのねと分かったんです。

 百貨店に行く予定の筈なのに。なぜかわたしは、ふわりと花野に降ろされて。
 れんげ草が咲き乱れる中で、座っていました。
 温かくて、紋白蝶がひらひらと飛んでいて。
 すると傍に、蒼一郎さんが腰を下ろしたの。

 むすっとした表情のヤクザの組長と、愛らしい薄紅のれんげ草。
 
 全然似合わないはずなのに。蒼一郎さんはとっても乙女な短歌をお詠みになるから。
 きっとその不愛想な顔の下で、愛らしい和歌を考えていらっしゃるのね。

 ほら、右手の指が五七五……と、次々に折られていくわ。あら、八本め。字余りかしら。

 でも得心のいく短歌が詠めたのか、蒼一郎さんは照れた様子で微かに笑みを浮かべたの。

 素敵。また、わたしにも見せてくださいね。
 でも。ねぇ、これは……これこそは夢よね?
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