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三章

24、夢ではなくて【1】

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 夜ってこんなに長かったのかしら。

 わたしの甘すぎる喘ぎ声と、蒼一郎さんの切羽詰まったような荒い息。
 それに肌を打つ音に、わたしの足が布団の敷布をたぐり寄せる音。
 それらすべてが、夜の音でした。

「絲さん……もう離さへん」

 ええ、離さないで。
 そう言いたいのに。
 けれど、何度も穿たれたわたしの口からは、まともな言葉が出て来ません。

 蒼一郎さんの背に手をまわそうとしたけれど、汗で滑って。
 それが自分の汗なのか、蒼一郎さんの汗なのか分からなくて。

 どこかから幽かに蚊の飛ぶ音が聞こえてきました。
 ああ、刺されては嫌だわと思ったら、また甘美な刺激を与えられて。
 わたしは必死で蒼一郎さんにしがみついたの。

「あ……っ、あぁ……ん」
「苦しかったら言うんやで」

 苦しいの。でも、それを言うときっと蒼一郎さんは、我慢をしてしまうわ。
 これほどに激しく求められるのは、それだけ貴方が寂しかったから。

 わたしも寂しかったの。あなたが、わたしの手を離してしまったから。

◇◇◇

 今が何時かは分かりません。でも、障子越しに仄明るい光が差し込んで。
 夏の時季は、朝の四時過ぎにはもう夜が明けるから。それくらいになっているのかも、しれません。

 わたしは、とてつもなく恥ずかしい格好をさせられて……ええ、両肘と両膝を敷布団につけて、背後から蒼一郎さんを受け入れていたの。

「だめ、ほんとうに……もう、やめて」

 やめてくれないと、頭がおかしくなってしまいそう。
 敷布に爪を立てて、ひたいをこすりつけます。そうでもしないと、溺れきってしまってまともな思考を失いそう。

「爪、剥がれるで」

 優しいのか、そうでないのか分からない言葉。
 だって敷布から指を外されて、わたしの上体は起こされたんですもの。

 蒼一郎さんが、それで解放してくれるはずもなく。背中からまわされた彼の手が、胸や花芯を弄ってきます。
 もちろん、わたしと繋がったままで。
 彼の指は濡れ、腿の内側を何かが伝っていきます。

「あぁ……っ、あ……ん」
「綺麗やで、ほんまに」
「きれ……く、なんて……ぁあ」
「もっと啼いてええで」

 数えきれないほどに達して、その内何度かは意識を手放すように眠りに落ちた気がします。

「絲さん、好きやで」
「そういちろう、さん」
「帰りたい言うてくれて、ほんまに嬉しい。ずっとずっとこうして手元に置いて、抱きしめて……そんな風に思えるん、絲さんだけや」

 眠りから目を覚ますと耳元で甘く囁かれて、乱れた髪を大きな手が梳いてくださいます。
 髪にも毛の一本にも神経が通っているかのように。蒼一郎さんの指の動きに合わせて、体が痺れます。

「わたしも、好き」

 ねぇ、これは夢だったのよね? そう問いかけようとしたら、再び唇を塞がれます。
 どこまでも終わらない官能に支配され、ゆるゆると波のように寄せてくる悦楽からは、もう逃れることもできません。

 夢ではなかったのかしら。
 敏感になりすぎた部分を刺激され、悲鳴に似た声を上げて、わたしはまた絶頂を迎えました。
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