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三章

23、夢の中ですから【2】

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 俺は「ひっ」と引きつった声を上げた。
 そんな声を出したんは、生まれて初めてかもしれへん。

 多分ドスで切りつけられても、銃で撃たれても、呻き声を噛み殺して耐えるやろ。それにこれまで経験した中で、俺の肌にくちづけてきた女もおったはずやけど。
 何とも思わんかった。思わんかったのに……。

「絲さん、もうやめよ。な、寝よか」
「寝てますよ。夢ですもの」

 あほ、俺のあほ。なんで夢やなんて嘘ついたんや。馬鹿、絲さんの馬鹿。なんでそんな見え透いた嘘を信じ込むんや。
 簡単に騙されすぎやろ。

「……っ」

 嫋やかな指が、俺の胸を撫でるから……思わず悲鳴を飲み込んだ。
 助けてくれ、波多野でも誰でもええから。俺から絲さんを引き離してくれ。
 そうやないと、このまま絲さんを犯してしまう。
 今日はもう抱いたのに、おとなしく寝かせるはずやったのに。

 やっぱり、俺はあほや。
 自制しとったのに。もうそれも限界やった。

「ごめんな、絲さん」
「え?」

 ほんまにごめん。俺はされるよりも、する方が好みみたいや。

◇◇◇

 訳が分かりませんでした。わたしは蒼一郎さんの体にのしかかっていたんですよ。裸だったのも、夢の中だから。彼を押し倒している状態なのも、夢だから。
 じゃないと理屈に合わないでしょう?

 なのに、さっきまで布団に仰向けになっていた蒼一郎さんが、今度はわたしを押し倒したの。
 満天の星と天の川が見えていたはずの空は、どこにもありません。
 見えているのは、行灯の明かりにぼんやりと照らされた蒼一郎さんの顔と、暗い格子天井。

 蒼一郎さんは中途半端に寝間着を脱いだ状態です。
 その瞳は潤んでいて、切なそうに眉根を寄せています。

「あの、どうなさったの?」
「限界や。後でいくらでもなじってええから」
「……んっ」

 わたしが答える前に、蒼一郎さんに貪るようにくちづけられました。ええ、まるで食べられてしまいそうなほど。

 膝に、がっしりとした彼の手が置かれます。そのてのひらは、うっすら汗が滲んでいました。
 足を左右に開かされたと思ったら、いえ、違うの。もっと恥ずかしいことに、両足を上げさせられたんです。

 これ、夢ではないわ。
 どこから? いつから夢でなくなったの?

「後でちゃんと謝るし、絲さんが望むなら土下座でもするから」
「え、なに? きゃあっ」

 蒼一郎さんの屹立が、わたしを裂くように押し入ってきました。
 痛みを感じるのに、知らぬ内に濡れていた所為で彼を受け入れます。
 しかも、普段よりももっと奥まで。

 激しく穿たれて、わたしは彼の腕にしがみつきました。

「絲さん……絲さん」

 うわ言のように繰り返される呼び声。わたしは揺さぶられ、その度に強烈な快感が背筋を駆け抜けて、悲鳴に似た声を上げます。

 頭の中が白くなるほどの刺激に、口を閉じることもできません。唇の端から唾液が零れるのに気づいても、どうすることもできなくて。

「あ……っ、だめ……無理」

 必死に蒼一郎さんの腕を掻き毟ります。でないと溺れてしまいそうで。

「や……っ。壊れ、ちゃう」

 蒼一郎さんの短く荒い息遣い。ぼやけて霞む視界に映る彼には、ほんの少しの余裕も見えませんでした。
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