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三章

22、夢の中ですから【1】

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 これは夢。わたしは夢の中で、蒼一郎さんに抱かれているの。
 それなら、恥ずかしがることもないのね。
 夜の明かり、あれは行灯じゃないわ。水平線へとかかる天の川。
 そうね、そろそろ旧暦の七夕。一年に一度だけの逢瀬を許された織姫と彦星。きっと熱烈な逢引きね。

「蒼一郎さん、わたしも寂しかったの。あなたに逢いたくて、逢いたくて堪らなかったわ」

 わたしの告白を塞ぐように、きつくくちづけられる。唇をこじ開けるようにして入って来る舌。とても熱くて、わたしの脅える舌を翻弄するの。

「夢やから、自由にしてええんやで」

 ええ、そうね。普段は恥ずかしくてとてもできないけれど。わたしは、蒼一郎さんの舌に自分の舌を絡めました。
 ゆっくりと、そして丁寧に彼の舌をなぞります。

 夢の中なのに、蒼一郎さんったら戸惑った顔をしたわ。ふふ、存外可愛いのね。
 背中の夜叉も照れているんじゃないかしら。

 いつもわたしが接吻されるばかりだから、今回はわたしもするの。
 はしたなくても平気。だって夢だもの。
 のしかかってくる蒼一郎さんの首にくちづけを落とし、次に寝間着の胸元を広げて鎖骨に接吻しました。
 すると蒼一郎さんが息を呑んだの。

 まぁ。そんな初心うぶな反応をして。別人みたいよ。
 わたしは「ふふっ」と笑みをこぼしました。
 
 こんなにも自由に振る舞ったことはないわ。蒼一郎さんの寝間着の腰紐に手をかけて、それをするりと解いたの。
 少し体をずらして、逞しい胸にも接吻を落とします。
 女性の胸と違って硬いのね。それに、がっしりとしているわ。
 
 そうね、いつも赤い痕をつけられているから。今日はわたしが、蒼一郎さんに痕をつけるの。
 確か、きつく吸っていたはず。
 
 んーっ、と力を込めて接吻をします。吸いすぎて、逆に息が苦しいほどに。

「い、いと、さん?」

 急に蒼一郎さんが引きつった声を出しました。

「だめよ。蒼一郎さんはいつも、わたしの体中に痕をつけるでしょ。今夜はわたしがつけるの」

 顔を上げたわたしは、人差し指で蒼一郎さんの唇を押さえました。
 たったそれだけで、蒼一郎さんはおとなしくなったの。
 ふふ。ヤクザの組長さんなのにね。

 張りのある肌をてのひらで撫でると、ひんやりとしています。
 わたしはその胸に頬ずりしたの。そして引き締まった腹部にも接吻をします。

「絲さん……もうやめて、くれ」

 かすれる声で訴えながら、蒼一郎さんが両手で顔を隠します。
 そんな初心な反応をしても、だめ。

「いつも、わたしばっかりされてるんだもの。仕返しです」
「……拷問や」

 じゃあ、蒼一郎さんはいつもわたしに拷問をしているってことなのね。夢の中だから許してあげない。
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