88 / 257
三章
21、渡しません【3】
しおりを挟む
はい、そんな俺の心を挫く物騒な代物をどうしますか? 答えは一つ、処分しましょう。
というても、さすがにフォ……フォーゲット、ミー……ノットとかいう小花の手紙は奪えへん。
うわ、脳内で考えるだけで恥ずかしい花やな。男殺しの花やで。ある意味毒があるよな。
さて、ようやく絲さんは眠りについた。静かな寝息。俺はそーっと彼女の首元に耳を寄せる。
狸寝入りやったら、唾を飲み込んだりするんやけど。その音も聞こえへん。
うん、大丈夫や。
悪いな、絲さん。俺が心のままに書きなぐった落書きは、返してもらうで。
そーっと夏布団をめくり、規則正しく上下する胸に手を伸ばす。
む? 寝間着の懐部分に手が入らへん。
朧な月明りを頼りに目を凝らせば、どうやら丸めてあった紙を今は折りたたんでいるらしい。
しかも絲さんの胸はささやかやから。平面に平面が寄り添うようなもので、たいそう取りにくい。
もしかして寝間着を脱がさなあかんのやろか。
俺は逡巡した。
いや、絲さんをひん剥くのはやぶさかではない。白魚みたいな細くて華奢な体は、全然見飽きへん。けど、それで目ぇ覚ましてしもたら本末転倒や。
まぁ、さっさと脱がしてぱっと寝間着を着せたらええやろ。
帯紐に指を添えて、結び目を解く。
存外、簡単にはらりと寝間着が布団に落ちた。
あった、あった。胸の谷間……と云うのは絲さんの場合、誇大表現やけど。左右の胸の間に皺を伸ばした紙が載せてある。短歌の方は、畳んだ服と一緒に置いてあるのか、胸元にはない。
慎重に拾い上げたのに。かさり、と音がして俺は息を呑んだ。
寝ときやー。もう夜中やで、ええ子は目ぇ覚ましたらあかんねんで。
紙を絲さんの胸から離したその時。彼女の指が俺の手に触れた。
「蒼一郎さん?」
うっ。これは絶体絶命や。後で叱られる奴や。誰に怒鳴られようが(俺を怒鳴るやつはおらへんけど)怖ないけど。絲さんに叱られるんは……ちょっと怖いかもしれへん。
俺は慌てて上体を落として、絲さんにくちづけた。
「ん……っ」
絲さんが、しどけなく足を動かすから。彼女の膝が、俺の膝に当たった。
しまった。寝間着を脱がせた状態で接吻なんかするんとちゃうかった。
しかもつい癖で、舌まで入れてしもた。
「そう……いち、ろうさん」
やめてくれ。そんな艶っぽい声で名前を呼ばんといてくれ。
胸の間の紙だけは畳に置いて。俺は絲さんの上にのしかかった。
ごめんな。もう夜中の零時を過ぎとうから「今日はもうせぇへん」には該当せぇへんよな。
仰向けになった絲さんの手を握ると、しなやかな指が、俺の武骨な指に絡められた。
ああ、可愛いなぁ。こんなにもしっかりと握ってきて。
さすがに可哀想やから無茶はせんとこ。
絲さんは夢の中におるんやで。俺が存分に愛したるから。
彼女が目を覚まさないように、過激な刺激は与えない。それに今日……もう昨日になるけど、散々抱いたから負担にならんように触れるだけにしよう。自制や自制。
細く白い彼女の首筋に、俺は顔を埋めた。うちの石鹸の匂いがする。
唇で撫でるように、徐々にくちづけを下へと移動させる。
絲さんは敏感やから、それだけでも身をよじらせた。そのまま胸にくちづけて、桜色の尖りを唇で挟む。
小さくて柔らかくて、下手をしたら歯を立ててしまいそうや。
「……んっ、だめ……です」
「駄目やないで。これは夢や。ほら、空にはあんなに星が瞬いとう。絲さんは夢の中で、俺に抱かれとんや。せやから、全然恥ずかしがることない」
まさか即興の嘘を信じ込まれるとは思わなかった。
絲さんは瞼を閉じたままで「ええ」と微かに頷いたんや。
というても、さすがにフォ……フォーゲット、ミー……ノットとかいう小花の手紙は奪えへん。
うわ、脳内で考えるだけで恥ずかしい花やな。男殺しの花やで。ある意味毒があるよな。
さて、ようやく絲さんは眠りについた。静かな寝息。俺はそーっと彼女の首元に耳を寄せる。
狸寝入りやったら、唾を飲み込んだりするんやけど。その音も聞こえへん。
うん、大丈夫や。
悪いな、絲さん。俺が心のままに書きなぐった落書きは、返してもらうで。
そーっと夏布団をめくり、規則正しく上下する胸に手を伸ばす。
む? 寝間着の懐部分に手が入らへん。
朧な月明りを頼りに目を凝らせば、どうやら丸めてあった紙を今は折りたたんでいるらしい。
しかも絲さんの胸はささやかやから。平面に平面が寄り添うようなもので、たいそう取りにくい。
もしかして寝間着を脱がさなあかんのやろか。
俺は逡巡した。
いや、絲さんをひん剥くのはやぶさかではない。白魚みたいな細くて華奢な体は、全然見飽きへん。けど、それで目ぇ覚ましてしもたら本末転倒や。
まぁ、さっさと脱がしてぱっと寝間着を着せたらええやろ。
帯紐に指を添えて、結び目を解く。
存外、簡単にはらりと寝間着が布団に落ちた。
あった、あった。胸の谷間……と云うのは絲さんの場合、誇大表現やけど。左右の胸の間に皺を伸ばした紙が載せてある。短歌の方は、畳んだ服と一緒に置いてあるのか、胸元にはない。
慎重に拾い上げたのに。かさり、と音がして俺は息を呑んだ。
寝ときやー。もう夜中やで、ええ子は目ぇ覚ましたらあかんねんで。
紙を絲さんの胸から離したその時。彼女の指が俺の手に触れた。
「蒼一郎さん?」
うっ。これは絶体絶命や。後で叱られる奴や。誰に怒鳴られようが(俺を怒鳴るやつはおらへんけど)怖ないけど。絲さんに叱られるんは……ちょっと怖いかもしれへん。
俺は慌てて上体を落として、絲さんにくちづけた。
「ん……っ」
絲さんが、しどけなく足を動かすから。彼女の膝が、俺の膝に当たった。
しまった。寝間着を脱がせた状態で接吻なんかするんとちゃうかった。
しかもつい癖で、舌まで入れてしもた。
「そう……いち、ろうさん」
やめてくれ。そんな艶っぽい声で名前を呼ばんといてくれ。
胸の間の紙だけは畳に置いて。俺は絲さんの上にのしかかった。
ごめんな。もう夜中の零時を過ぎとうから「今日はもうせぇへん」には該当せぇへんよな。
仰向けになった絲さんの手を握ると、しなやかな指が、俺の武骨な指に絡められた。
ああ、可愛いなぁ。こんなにもしっかりと握ってきて。
さすがに可哀想やから無茶はせんとこ。
絲さんは夢の中におるんやで。俺が存分に愛したるから。
彼女が目を覚まさないように、過激な刺激は与えない。それに今日……もう昨日になるけど、散々抱いたから負担にならんように触れるだけにしよう。自制や自制。
細く白い彼女の首筋に、俺は顔を埋めた。うちの石鹸の匂いがする。
唇で撫でるように、徐々にくちづけを下へと移動させる。
絲さんは敏感やから、それだけでも身をよじらせた。そのまま胸にくちづけて、桜色の尖りを唇で挟む。
小さくて柔らかくて、下手をしたら歯を立ててしまいそうや。
「……んっ、だめ……です」
「駄目やないで。これは夢や。ほら、空にはあんなに星が瞬いとう。絲さんは夢の中で、俺に抱かれとんや。せやから、全然恥ずかしがることない」
まさか即興の嘘を信じ込まれるとは思わなかった。
絲さんは瞼を閉じたままで「ええ」と微かに頷いたんや。
0
お気に入りに追加
701
あなたにおすすめの小説
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない
絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。
愛し愛され愛を知る。【完】
夏目萌(月嶋ゆのん)
恋愛
訳あって住む場所も仕事も無い神宮寺 真彩に救いの手を差し伸べたのは、国内で知らない者はいない程の大企業を経営しているインテリヤクザで鬼龍組組長でもある鬼龍 理仁。
住み込み家政婦として高額な月収で雇われた真彩には四歳になる息子の悠真がいる。
悠真と二人で鬼龍組の屋敷に身を置く事になった真彩は毎日懸命に家事をこなし、理仁は勿論、組員たちとの距離を縮めていく。
特に危険もなく、落ち着いた日々を過ごしていた真彩の前に一人の男が現れた事で、真彩は勿論、理仁の生活も一変する。
そして、その男の存在があくまでも雇い主と家政婦という二人の関係を大きく変えていく――。
これは、常に危険と隣り合わせで悲しませる相手を作りたくないと人を愛する事を避けてきた男と、大切なモノを守る為に自らの幸せを後回しにしてきた女が『生涯を共にしたい』と思える相手に出逢い、恋に落ちる物語。
※ あくまでもフィクションですので、その事を踏まえてお読みいただければと思います。設定等合わない場合はごめんなさい。また、実在の人物・団体等とは一切関係ありません。

狂愛的ロマンス〜孤高の若頭の狂気めいた執着愛〜
羽村美海
恋愛
古式ゆかしき華道の家元のお嬢様である美桜は、ある事情から、家をもりたてる駒となれるよう厳しく育てられてきた。
とうとうその日を迎え、見合いのため格式高い高級料亭の一室に赴いていた美桜は貞操の危機に見舞われる。
そこに現れた男により救われた美桜だったが、それがきっかけで思いがけない展開にーー
住む世界が違い、交わることのなかったはずの尊の不器用な優しさに触れ惹かれていく美桜の行き着く先は……?
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
✧天澤美桜•20歳✧
古式ゆかしき華道の家元の世間知らずな鳥籠のお嬢様
✧九條 尊•30歳✧
誰もが知るIT企業の経営者だが、実は裏社会の皇帝として畏れられている日本最大の極道組織泣く子も黙る極心会の若頭
✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦・━・✦
*西雲ササメ様より素敵な表紙をご提供頂きました✨
※TL小説です。設定上強引な展開もあるので閲覧にはご注意ください。
※設定や登場する人物、団体、グループの名称等全てフィクションです。
※随時概要含め本文の改稿や修正等をしています。
✧
✧連載期間22.4.29〜22.7.7 ✧
✧22.3.14 エブリスタ様にて先行公開✧
【第15回らぶドロップス恋愛小説コンテスト一次選考通過作品です。コンテストの結果が出たので再公開しました。※エブリスタ様限定でヤス視点のSS公開中】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる