女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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二章

37、朧月夜と交換条件【1】

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 夕食後、わたしは宿題の残りに取り掛かりました。
 手元が明るくなるように、蒼一郎さんが行灯を近くに置いてくださったの。

 夜更かしをすれば、きっと迷惑をかけてしまうわ。そう思って、一生懸命辞書を引いて調べたのだけど。

 はい、三十分もすると飽きてしまいました。

 こてんと畳に転がるわたしを、上から蒼一郎さんが覗きこんでいます。

「終わったんか?」
「あと少しです」
「ほな、早よ終わらせたらええやんか」

 わたしはころんと寝返りを打って、蒼一郎さんの視線から逃れました。
 だって夕方からやってるんですよ。飽きますよ。

 半ば開いた障子から見える空には、月が昇っています。いそいそと立ち上がったわたしは、浴衣の裾を整えて、濡れ縁へと向かいます。

「こら、絲さん。まだ途中やろ」
「でも、今日は満月ですよ」

 ところが、わたしの目の前で障子はぴしゃんと閉められてしまったの。

「月を見るんは、宿題を終わらせてからや」
「でも……」
「月は逃げへん」

 蒼一郎さんに睨まれて、わたしはすごすごと文机へと戻りました。
 抱かれている時は、いくらお願いしても障子を閉めてくれなかったのに。どちらにしても無情です。これが極道のやり方なのですね。

 かろうじて宿題を終わらせて、わたしは再び畳に転がりました。
 座敷にいらっしゃるとばかり思っていた蒼一郎さんの姿がありません。一人でいるには広すぎる部屋で、わたしは寝っ転がったまま蒼一郎さんの帰りを待ちます。

 学校ではシスターの躾が厳しいし、実家ではばあやが目を光らせているので、こんな風にお行儀悪くすることはありません。
 とはいえ、蒼一郎さんはわたしをお嫁さんにすると仰っているのだから。
 解放感に浸っていてはいけないわ。

 しばらくすると廊下側の襖が開いて、蒼一郎さんが戻ってきました。手には徳利とお猪口の載ったお盆を持っています。

 組の人に運んでもらうのが当たり前の立場の人なので、ちょっと驚きました。
 そのことを話すと「絲さんが、すぐにころころと転がるから。他に誰かおったら、のびのびできへんやろ」と言われました。

 お見通しだったのですね。

「ほら、絲さんはこっちの方がええやろ」

 蒼一郎さんは、涼し気な瓶をわたしに差し出しました。
 十八番ラムネです。

「面白いな。絲さん、目ぇが輝いとうで」
「え、そんなことありませんよ。そりゃあ、嬉しいですけど」

「貸してみ」と言いつつ、蒼一郎さんが栓を抜いてくださいます。
 十八番ラムネは外国人の居留地十八番地にあるシーム商会が作っているので、そんな名前なんです。
 しゅわしゅわと微かな炭酸の音に、わたしは耳を澄ましました。

「あの、グラスは?」
「ん? そのまま飲んだらええやん」

 え? 瓶に口をつけて飲めと仰るの? そんなお行儀の悪いこと、したことがありません。

「そのラムネを飲んだら、月を見に庭に下りよか」
「いいんですか? 夜露にあたるのは良くないから、夜にはあまり外に出ないんです」
「ほんまに箱入りなんやな」

 蒼一郎さんは苦笑しながら、わたしに瓶を手渡します。
 ガラス瓶がひんやりとしているのは、氷屋さんで買ってきた氷で冷やしてあるからでしょう。

「ほら、見といたるから。飲んでみ」
「いえ、蒼一郎さんこそお酒を召し上がってください」
「なんや。交換条件か?」

 交換条件なんて、言ってませんよ。いったい何のことなんですか?
 わたしはすでに、蒼一郎さんに翻弄されていることに気づかなかったの。
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