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二章
33、くちづけの場所【2】
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体じゅう、蒼一郎さんの唇が触れていないところは、ないんじゃないかというほどに、わたしは彼の接吻を受け続けました。
膝へのくちづけなら、その場所も口にできます。そう思うのに、言葉にしようとした瞬間に、蒼一郎さんの唇は別な場所に触れているの。
「あーあ、残念やったな。せっかくの機会を逃してしもて」
「あ……ぁ、うぅ……ぁ、ぁん」
「ほら、ちゃんと言葉にせな」
蒼一郎さんは、そうやって意地悪ばかりを言います。
言えるはずがないわ。だって口にするのも憚られる場所ですし、それに……唇が触れるだけではなく、含まれてしまうんだもの。
「や……ぁ、あぁ」
「待っといたるし。小さい声でええから、言うてみ」
「言え、な……い」
「せやったら、終わらへんなぁ」
蒼一郎さんに接吻をされすぎて、わたしの体はまるでどこもかしこも熟れすぎた果実のように思えました。
ほんの少しの刺激で、果汁が滴って崩れてしまいそう。
障子は開いているはずなのに、もうそのことを機にかける余裕もないの。
「だめ……もぅ、い……ちゃう」
「ああ、ええで」
わたしだけが蒼一郎さんの腕の中で乱れて、その様子を冷静に観察されているのだと思うと。恥ずかしいのに、でも、すぐに抗いがたい愉悦を与えられて。
頭の中が白く弾けました。
「ほら、戻っておいで」
ぴくりと痙攣するわたしの腕に、蒼一郎さんがまたくちづけます。
敏感すぎる肌に与えられる刺激に、わたしは再び甘美な陶酔の中に連れ戻されます。
「や、あぁ……だめ、いったばかり……」
「絲さんが意地でも場所を言わへんからやで」
◇◇◇
俺が与えるくちづけに、絲さんは何度達したんやろ。いちいち数えてへんから、分からへん。
正直、もう解放されたと思った絲さんを、再び追い詰めるのは、妙な嗜虐心のようなもんを感じた。
けど、俺の腕の中で背筋を逸らせて、まるで痛みをこらえるように眉根を寄せたり、恍惚の表情を浮かべる絲さんを見てると、愛しさが増してくる。
別に虐めたいわけやないんやけどな。
絲さんは達する時に、俺の背に爪を立てる。たぶん本人は気ぃついてへんやろけど。
着物の布地を通して伝わってくる鈍い痛みも、裸の時に直に肌に与えられる鋭い痛みも。全部、俺が絲さんを感じさせている証やと思うと、嬉しい。
少し褪せた痕と、新たに俺がつけた接吻の生々しい赤い色。
白くしなやかな肢体に散った、その数の多さに、己の執着の強さを思い知らされる。
けど、接吻だけっちゅうのは、ほんまに拷問やな。約束したから、守らなあかんけど。
全身に与えられるくちづけに、絲さんはもうどこに触れても敏感に感じてしまうようやった。
最後は俺にしがみついて、悲鳴に似た声を上げて極めた。
喉を傷めたんとちゃうやろか。風邪を引かんかったらええんやけど。
絲さんに浴衣を着せ直して(この数日で、俺はほんまに着付けがうまなったと思う)掛け布団をかけてやる。
風に乗って、潮の香りと出汁の匂いが流れてきた。そろそろ夕飯の時間かと思って時計を見ると、すでに六時を過ぎている。
そういえば障子の外も、すでに薄暗い。
帰ってきてから二時間も、絲さんに接吻しとったんか。
自分でも、ようやるわと呆れてしまう。でも、彼女のことが、ほんまに好きなんやからしょうがない。
膝へのくちづけなら、その場所も口にできます。そう思うのに、言葉にしようとした瞬間に、蒼一郎さんの唇は別な場所に触れているの。
「あーあ、残念やったな。せっかくの機会を逃してしもて」
「あ……ぁ、うぅ……ぁ、ぁん」
「ほら、ちゃんと言葉にせな」
蒼一郎さんは、そうやって意地悪ばかりを言います。
言えるはずがないわ。だって口にするのも憚られる場所ですし、それに……唇が触れるだけではなく、含まれてしまうんだもの。
「や……ぁ、あぁ」
「待っといたるし。小さい声でええから、言うてみ」
「言え、な……い」
「せやったら、終わらへんなぁ」
蒼一郎さんに接吻をされすぎて、わたしの体はまるでどこもかしこも熟れすぎた果実のように思えました。
ほんの少しの刺激で、果汁が滴って崩れてしまいそう。
障子は開いているはずなのに、もうそのことを機にかける余裕もないの。
「だめ……もぅ、い……ちゃう」
「ああ、ええで」
わたしだけが蒼一郎さんの腕の中で乱れて、その様子を冷静に観察されているのだと思うと。恥ずかしいのに、でも、すぐに抗いがたい愉悦を与えられて。
頭の中が白く弾けました。
「ほら、戻っておいで」
ぴくりと痙攣するわたしの腕に、蒼一郎さんがまたくちづけます。
敏感すぎる肌に与えられる刺激に、わたしは再び甘美な陶酔の中に連れ戻されます。
「や、あぁ……だめ、いったばかり……」
「絲さんが意地でも場所を言わへんからやで」
◇◇◇
俺が与えるくちづけに、絲さんは何度達したんやろ。いちいち数えてへんから、分からへん。
正直、もう解放されたと思った絲さんを、再び追い詰めるのは、妙な嗜虐心のようなもんを感じた。
けど、俺の腕の中で背筋を逸らせて、まるで痛みをこらえるように眉根を寄せたり、恍惚の表情を浮かべる絲さんを見てると、愛しさが増してくる。
別に虐めたいわけやないんやけどな。
絲さんは達する時に、俺の背に爪を立てる。たぶん本人は気ぃついてへんやろけど。
着物の布地を通して伝わってくる鈍い痛みも、裸の時に直に肌に与えられる鋭い痛みも。全部、俺が絲さんを感じさせている証やと思うと、嬉しい。
少し褪せた痕と、新たに俺がつけた接吻の生々しい赤い色。
白くしなやかな肢体に散った、その数の多さに、己の執着の強さを思い知らされる。
けど、接吻だけっちゅうのは、ほんまに拷問やな。約束したから、守らなあかんけど。
全身に与えられるくちづけに、絲さんはもうどこに触れても敏感に感じてしまうようやった。
最後は俺にしがみついて、悲鳴に似た声を上げて極めた。
喉を傷めたんとちゃうやろか。風邪を引かんかったらええんやけど。
絲さんに浴衣を着せ直して(この数日で、俺はほんまに着付けがうまなったと思う)掛け布団をかけてやる。
風に乗って、潮の香りと出汁の匂いが流れてきた。そろそろ夕飯の時間かと思って時計を見ると、すでに六時を過ぎている。
そういえば障子の外も、すでに薄暗い。
帰ってきてから二時間も、絲さんに接吻しとったんか。
自分でも、ようやるわと呆れてしまう。でも、彼女のことが、ほんまに好きなんやからしょうがない。
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