女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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二章

27、修道女の提案

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 下駄箱で上靴に履き替えたわたしは、級友に取り囲まれました。
 もちろん町さんから伝え聞いた、蒼一郎さんのことを詳しく尋ねるためです。

「あの、蒼一郎さんは祖父が決めた結婚相手らしくて」
「らしくて、ってなぁに?」
「えーっと、わたしの許嫁なの。それでお家に御厄介になっていて」
「絲さん。あの方と同棲なさっているの?」

「えー? そういうのとは違って。二人きりでなくて、お家の方もたくさんいるから」
「ご両親が公認なのね。だって許嫁ですものね」

 廊下を歩きながらのわたしのたどたどしい説明に、友人たちは黄色い声を上げます。高い天井に、きゃあきゃあと言う声が響きました。

「ロマンスだわ」

 そ、そうなのかしら。一応、町さんは蒼一郎さんがヤクザの組長であることを伏せてくれているみたいだけど。

「あなた達、お静かに」

 ロザリオを手に持ち、春夏用の灰色のベールと同色の修道服を身に着けたシスターが、騒ぐわたし達をたしなめました。

「遠野さん。お話があります、いらっしゃい」

 階段の踊り場で、シスターは咳払いをなさいました。そしてわたしを手招きなさいます。
 きっと蒼一郎さんに送ってもらったことです。身内でもない殿方と連れ立って歩くとは何事ですか、と叱られるに決まっています。

「じゃあ、先に行くわね」と、町さん達は手を振って去っていきました。
 ああ、シスターと二人きり。踊り場を支配する沈黙が恐ろしいです。

 清らかな修道女としての生活を送っていらっしゃるシスターだから、この二日間のわたしの不埒な生活を見破ってしまったのかもしれません。

 生徒たちの華やいだ声が、遠くから聞こえます。
 ごめんなさい、シスター。わたし、もう神の御心から外れてしまっているのです。
 迷える子羊は、ヤクザの家に入り浸ってしまったのです。

「遠野さんのお宅のばあやさんから、お手紙を預かっています。これまで早引けする時は、書生さんが迎えにいらしてたけど。これからは、三條と仰る方が代行なさるとのことですね」
「は、はひ」

 あー、びっくりしました。てっきり叱られるものと思って、身をすくめていたんですもの。

「今朝も具合が悪かったのかしら。少し顔色が悪いですよ」
「いえ、その大丈夫です」
「そう? 体育は見学なさいね。それからこれを」

 シスターは、薄い冊子をわたしに手渡しました。表紙には『ステラマリス女學院寄宿舎、入舎の手引き』と書かれています。

「遠野さんのお家は近いですけれど、通うのが大変なら寄宿舎に入りませんか? 毎回、誰かに迎えに来てもらうのも負担になるでしょう?」

 確かに宿舎は構内にあります。息が苦しくなる坂の上り下りもないですし、もっともな提案です。
 三條組に帰ったら、蒼一郎さんにお話ししてみましょう。彼の負担が減るんですもの、きっと快く賛成してくれますよね。
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