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二章

23、登校【1】

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 月曜日の朝です。これまでのわたしだったら、登校するのが面倒とか、もっと眠っていたいとか、いっそ学校をお休みしたいと思っていたのに。
 今朝は学校に行くのが嬉しいの。

 桜の季節は過ぎてしまいましたが、今日は花曇りといったお天気で、太陽はうっすらとした雲の向こうに隠れています。

 遠野の家からよりも、三條邸からの方がステラマリス女學院に通うのが随分と近いんです。
 ただやはり學院近くの坂道が、きついんですよね。

 風呂敷包みを抱えて歩くわたしを、先に進んでいた蒼一郎さんがふり返って待ってくれています。
 そう、わたしは一人で大丈夫なのに、心配だからと送ってくださっているの。

「通い慣れた道ですよ」
「そう言うけど。下校途中ですら休んどったやんか。帰り道は下り坂やろ」

 まぁ、そうなんですけど。朝は上り坂でも、起きて間がない時間なので元気なんですよ。

 近くにある別の女学校に向かう生徒が、振袖を風にひらめかせ、華やいだ巻き髪をリボンで結んで颯爽と歩いています。
 うちはミッションスクールだから、派手な装いは禁じられているので。よく言えば清楚、悪く言えば地味なのよね。

「貸してみ」

 蒼一郎さんが右手を差し伸べてくれるので、風呂敷包みを持ってくださると思って、お礼を言いつつ渡したの。
 ご自分でも小さな包みを持ってらっしゃるのに、わたしの分までなんて、申し訳ないわ。

「ほら、早よしぃ」

 え? さっき渡したのは、幻じゃないわよね。
 そう考えながらきょろきょろしていると「ほら」と、また急かされました。

 ようやくわたしも気づきました。
 これは、手をつなぐというか、手を引いてくれるのだということに。

「あのー、大丈夫ですよ?」
「反論は聞かへん。途中でばてて、俺に背負われるよりはええやろ」

 そこまで虚弱じゃないです。

「はーん。それともおんぶよりも、抱き上げられる方が好みか。絲さんは」

 蒼一郎さんは、にやにやと口の端を上げました。なんでそんなに楽しそうに意地悪を言うんですか。ヤクザだからですか?

 結局、わたしは蒼一郎さんと手をつないで坂道を歩くことになってしまいました。
 だって拒否する権利がないんですよ。

 蒼一郎さんの手は大きくて、がっしりとしていて。握る力が、とても強いの。

「今日の髪型もええな。可愛い絲さんによう似合におとる」
「え? ごめんなさい。聞こえませんでした」

 ちょうど船の汽笛と蒼一郎さんの言葉が重なって、わたしは聞き返しました。
 でも、蒼一郎さんはわたしの手を引っ張って歩くばかりです。
 どうしましょう。何かとても大事なことだったのでしょうか。

「あの、落ちこんだりしませんから仰ってください」
「……落ち込むんか」

 え? どうしてお声がしょぼーんとなさっているの?
 わたし、そんなに失礼なことをしてしまったのかしら。
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