女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

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一章

20、初めての【4】

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 蒼一郎さんが、わたしの背後から両膝に手を伸ばします。大きな手で膝頭を掴まれて、そのままぐいっと左右に足を開かされました。

「いやっ。やめてっ」
「なんで? 絲さんはどっちも選ばんかった。俺に任せるということやろ?」

 はしたないほどに大きく足を開かされた状態で、あごを上げさせられます。
 足を閉じようとしましたが、すでに膝の裏に蒼一郎さんの左腕が入っていて。その左手で顎を掴まれているので、身動きが取れません。

 先刻よりも、いっそう淫らな姿に、わたしは目に涙が浮かんできました。

「どうして……こんなことを。なぜ、わたしを虐めるの?」

 視界が滲んで、鏡に映るわたしのはしたない姿が、少しぼやけました。
 わたしの問いに、一瞬総一郎さんがひるんだように思えました。
 彼が身を固くするのが、素肌に伝わってきたんです。

 蒼一郎さんの腕に持ち上げられていたわたしの足が、布団の上に降ろされました。顎を掴んでいた手も離れ、そしてわたしは後ろから抱きしめられたの。

「……蒼一郎さん?」

 彼は私の肩に顔を埋めて、さらにぎゅっとわたしを腕の中に閉じ込めます。

「済まん。俺は……あんたを自分のものにしたくて……そうやないのにな。たとえあんたの初めてを奪ったところで、心まで縛ることはできへんのに」

 今にも消え入りそうな声でした。
 蒼一郎さんがヤクザの組長でもなく、大人でもなく、まるで一人の心細い少年のように見えたんです。

 わたしは規律の厳しいミッションスクール育ちですから、初恋だってまだです。

――下世話な雑誌を読み暇がおありなら、ロザリオをり、聖母マリア様に祈りを捧げなさい。わたし達シスターは皆、汽車に乗っていても祈りを捧げておりますよ。
 
 シスターは常々、生徒にそう仰っています。

 大人向けの雑誌を読むことすら罪深いのに。こんな風に体を暴かれて。わたしは蒼一郎さんをはねつけてしまいましたが。
 それがこんなにも彼を傷つけることになるなんて。

 夫でもない男性に体を触れられるのは、良くないことなのでしょう?
 自由に恋愛なんてしてはいけないのでしょう? それは破廉恥な行為なんですよね。接吻はおろか、手をつなぐこともいけないのに。
 どうして親が決めた相手なら、初めて出会ったその日に結婚して、その夜に体を重ねても許されるの?

 好きではない相手を受け入れることの方が、よほど淫らではないの?

 わたしは混乱して、小さく首を振りました。
 違う。そうではないの。
 今は、蒼一郎さんを見なくては。常識も世間体も関係ないわ。
 この人は、わたしのことを好いてくれている。何故かは分からないけれど。
 そしてわたしは、蒼一郎さんのことを嫌いではない。いいえ、むしろ好意を持っているから、会っているの。

 薬が効いて、少し熱が下がってきたのかもしれません。
 頭の中は次第に明瞭になり、わたしは結論にたどり着きました。

「いいんです。蒼一郎さんの思うようになさってください」
「……意味が分かって言うてんのか?」

 わたしは頷きました。
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