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一章
17、初めての【1】
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蒼一郎さんの大きな手が、わたしの肩にかけられます。
いいえ、正確には襦袢を肩から外したの。
「や、やめてください」
「やめへん」
襦袢がするりと肩から落ちました。薄い肌襦袢が、頼りなくわたしの胸元やお腹を隠しているだけです。
「見ないでください」
「元々あんたは俺の許嫁になる約束やった。知らんから、聞いてへんからゆうて反故にすることは認めへん」
優しいと思っていた蒼一郎さんを恐ろしく感じて。わたしは必死で彼の体を押しのけようとしました。
でも、びくともしません。
「俺やのうて、他の男の方がええと言うんか」
「ちが……そうじゃなくて」
肌襦袢しかまとっていないわたしを、腕の中に閉じ込めて、蒼一郎さんが頬にもひたいにも、唇にもくちづけを降らせます。
接吻は首筋に、そして肩へと移動します。
開いた障子から吹き込む風が、わたしの素肌を撫でていきます。
ええ、わたしはほとんど何もまとっていない状態だったの。
「やっ……見ないで」
「大丈夫。他の奴らには見せへん」
そういう意味じゃないの。
わたしは小さく首を振ったのだけれど、蒼一郎さんは手を止めてくれません。
露わになった肩をそっと撫でられます。
まるで壊れ物を触れるかのように丁寧に。
もし乱暴にされていたら、たとえ突き飛ばすことは叶わなくとも、身を伏せて拒絶していたに違いありません。
なのに、わたしを見つめるその目は切なそうで。自分でも気づかぬ内に、蒼一郎さんの着物の胸元に、わたしは手を添えていました。
それが了承の合図でもあるかのように。
いつの間にかわたしは、蒼一郎さんの腕の中で一糸まとわぬ姿にされていました。
◇◇◇
なんちゅう薄い肩や。
それが俺が絲さんの裸身を見た時の素直な感想やった。
こないに薄くて細くて。人は生きていけるんか?
いや、絲さんは確かに生きとるけど。
もしこのまま最後までやってしもたら、絲さんを壊してしまうんやないか?
そんな不安が頭をもたげた。
ガラスを持つよりも繊細な手つきで、絲さんの肩を撫でる。
信じられるか? すべすべなんだぞ。
すべすべ饅頭蟹という、蟹がおるな。いや、それは関係あらへん。毒のある蟹で、俺は触れたこともないし。
だが、すべすべなのにふわふわなんだ。
組長は何を言うとんのやと、組員に馬鹿にされるかもしれんが。
色も白くて、凬月堂が出している真珠麿のようだ。
ああ、このまま食ってしまいたい。
いや、駄目だろ。どっちの意味でも。
「蒼一郎さん?」
かすれた声で、絲さんが俺を見上げてくる。あかん、脅えさせてしもたか。
本当に女の子の……というか好いた少女の扱いが俺には分からない。
経験のない少年じゃあるまいに。
なんでこんなに俺まで緊張するんや。
絲さんの肩にかかる三つ編みを後ろに払い、俺は彼女にくちづけた。
木苺の仄甘さと、粉薬の苦さの残る接吻だ。
絲さんにとっては、これが初めてのキスやないから、戸惑いながらも応じてくる姿が愛らしい。
少しは熱が下がったんやろか。
彼女の口内の熱さが引いている気がする。
くちづけを続けながら、絲さんの背中に左手をまわす。その肌の感覚を存分に味わいながら。
そして右手で、彼女の胸に触れた。
まったく小さな胸や。てのひらにすっぽりと収まってしまう。
だが、大きさはあまり関係ないのか、絲さんは小さく声を洩らした。
恥じらうその声は甘くて、まるで俺を誘っているかのようだ。
いいえ、正確には襦袢を肩から外したの。
「や、やめてください」
「やめへん」
襦袢がするりと肩から落ちました。薄い肌襦袢が、頼りなくわたしの胸元やお腹を隠しているだけです。
「見ないでください」
「元々あんたは俺の許嫁になる約束やった。知らんから、聞いてへんからゆうて反故にすることは認めへん」
優しいと思っていた蒼一郎さんを恐ろしく感じて。わたしは必死で彼の体を押しのけようとしました。
でも、びくともしません。
「俺やのうて、他の男の方がええと言うんか」
「ちが……そうじゃなくて」
肌襦袢しかまとっていないわたしを、腕の中に閉じ込めて、蒼一郎さんが頬にもひたいにも、唇にもくちづけを降らせます。
接吻は首筋に、そして肩へと移動します。
開いた障子から吹き込む風が、わたしの素肌を撫でていきます。
ええ、わたしはほとんど何もまとっていない状態だったの。
「やっ……見ないで」
「大丈夫。他の奴らには見せへん」
そういう意味じゃないの。
わたしは小さく首を振ったのだけれど、蒼一郎さんは手を止めてくれません。
露わになった肩をそっと撫でられます。
まるで壊れ物を触れるかのように丁寧に。
もし乱暴にされていたら、たとえ突き飛ばすことは叶わなくとも、身を伏せて拒絶していたに違いありません。
なのに、わたしを見つめるその目は切なそうで。自分でも気づかぬ内に、蒼一郎さんの着物の胸元に、わたしは手を添えていました。
それが了承の合図でもあるかのように。
いつの間にかわたしは、蒼一郎さんの腕の中で一糸まとわぬ姿にされていました。
◇◇◇
なんちゅう薄い肩や。
それが俺が絲さんの裸身を見た時の素直な感想やった。
こないに薄くて細くて。人は生きていけるんか?
いや、絲さんは確かに生きとるけど。
もしこのまま最後までやってしもたら、絲さんを壊してしまうんやないか?
そんな不安が頭をもたげた。
ガラスを持つよりも繊細な手つきで、絲さんの肩を撫でる。
信じられるか? すべすべなんだぞ。
すべすべ饅頭蟹という、蟹がおるな。いや、それは関係あらへん。毒のある蟹で、俺は触れたこともないし。
だが、すべすべなのにふわふわなんだ。
組長は何を言うとんのやと、組員に馬鹿にされるかもしれんが。
色も白くて、凬月堂が出している真珠麿のようだ。
ああ、このまま食ってしまいたい。
いや、駄目だろ。どっちの意味でも。
「蒼一郎さん?」
かすれた声で、絲さんが俺を見上げてくる。あかん、脅えさせてしもたか。
本当に女の子の……というか好いた少女の扱いが俺には分からない。
経験のない少年じゃあるまいに。
なんでこんなに俺まで緊張するんや。
絲さんの肩にかかる三つ編みを後ろに払い、俺は彼女にくちづけた。
木苺の仄甘さと、粉薬の苦さの残る接吻だ。
絲さんにとっては、これが初めてのキスやないから、戸惑いながらも応じてくる姿が愛らしい。
少しは熱が下がったんやろか。
彼女の口内の熱さが引いている気がする。
くちづけを続けながら、絲さんの背中に左手をまわす。その肌の感覚を存分に味わいながら。
そして右手で、彼女の胸に触れた。
まったく小さな胸や。てのひらにすっぽりと収まってしまう。
だが、大きさはあまり関係ないのか、絲さんは小さく声を洩らした。
恥じらうその声は甘くて、まるで俺を誘っているかのようだ。
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