女學生のお嬢さまはヤクザに溺愛され、困惑しています

真風月花

文字の大きさ
上 下
11 / 257
一章

10、往診【1】

しおりを挟む
 ちょっと接吻しすぎたかもしれへん。
 襦袢の肩がはだけた絲さんは、俺の腕の中でぐったりとしていた。

 ほんのちょっと、くちづけるだけのつもりやったのに。気づいたら、絲さんの首筋にも鎖骨の辺りにも、肩にも、俺が残した痕が赤く目立っている。

 あかん、やらかしてしもた。
 腕の中の絲さんの体は、さっきよりも熱なっとう。

 俺は絲さんを布団に横たえた。襦袢から覗く胸の膨らみは、ささやかすぎて色気も感じへんのに。なんで俺は……血気盛んなガキか。

「いや、それでも接吻で済ませただけ、自制しとう方や」

 ちょっと落ち着こか。大所帯ではないとはいえ、仮にも三條組を預かる組長なんやから。
 絲さんを見んようにして、布団を掛ける。そして彼女から視線を外した。
 見とったら、どうしても構いたくなるからな。

 他のことを考えるため、室内を見回す。普段からよう使つことう座敷やけど。まじまじと観察したことはなかったな。

 座敷の床の間には、牡丹の花が活けてある。
 床の間には、猛々しい唐獅子の姿を描いた水墨画の掛け軸も飾ってある。

 唐獅子牡丹は、百獣の王と百花の王。
 そのつもりで、掛け軸と花を一緒に飾ったんやろけど。

 だが、俺はその意味よりも、唐獅子は牡丹の花の香りにだけは酔いしれるとか、牡丹から滴り落ちる夜露によって守られるという話の方が好きや。

 まぁ、ここは絲さんの部屋やないけど。絲さんをこの家に迎えたら、二人の部屋には愛らしい花を活けてやりたい。
 この娘はあでやかな花よりも、蒲公英たんぽぽやれんげ草や、菜の花が似合いそうやな。

 廊下で足音が聞こえ、医者と波多野が一緒に座敷に入ってきた。

「なんや。誰か撃たれたんかと思うたが。ぼん、どこで小娘を拾うてきたんや」

 白衣を着て、大きな黒い診察鞄を抱える医者が俺の隣に座る。桶を置いた波多野が、慌てて医者に座布団を勧めた。

「坊って言うな。俺もいい年なんや。あと小娘は余計や」
「そう言われても、坊がガキの頃から知っとるからなぁ。あんたはいっつも苦虫を噛み潰したような顔をして、ちぃっとも笑わへん」
「面白いこともないのに、笑えるか」
「三十年間、面白いことのない奴は不幸やで」

 言いたい放題やな。

「で、この娘さんは? ええとこのお嬢さまっぽいけど」
「遠野絲さんや」

 俺の短い説明で、白髪交じりの医者は「ああ」と納得した。波多野はすでに座敷を出て行っている。気の利く奴やで。
 
「三年ぶりやな。よその子の成長は速いわ。大きなったな」
「絲さんを、子ども扱いしてやんなや」

 俺は医者を睨みつけたが、鞄から聴診器を出して「まだ子どもやんか」と言われてしまった。
 俺かて気にしとんや。言わんといてくれ。

「あん時は、このお嬢ちゃん、もうあかんのちゃうかと思うとったんや」

 そうやな、と俺は心の中で医者に同意した。
 遠野の爺さんと一緒に助けた絲さんは、鎖につながれて硬い床に転がされとったから、ひどく衰弱しとった。

 絲さんを犬扱いしとった男は、もう処分したけど。あいつが残した心の傷は、今も絲さんの中に嫌というほど残っとう。

 爺さんによれば、絲さんは心臓もつよないし、呼吸系も弱いらしい。
 俺は頑丈やから、そういうのはよう分からんけど。虚弱な少女を、鎖でつなぐんは絶対に許されることやない。

 医者が、絲さんに掛けとう布団をめくって、大きなため息をついた。

「もしかして相当悪いんか?」
「ああ、悪いな」
「じゃあ、入院か? あんたのとこの診療所で治せるんか? 遠野の家に連絡せなあかんほど悪いんか?」

 だが、白髪交じりの医者は、まだ絲さんの胸に聴診器も当てていない。
 そんな一目見ただけで診断できるほど、この医者は有能やったやろか。
 うちの組のもんが普段から世話になっとうくらいやから、病気よりも怪我の方が得意やろ。

「診察するんやから、坊は見んとき。それくらい気ぃ利かせな、この子に振られてしまうで」
「お、おお」

 それは確かに気が付かんかった。

「あとな、枕を交わすんやないんやから。接吻は唇や頬だけにしといたげ。こないに痣を作って、可哀想やろ」
「止められへんかった」
「……坊は阿呆やな」

 はっきりと言われて、俺はうなだれた。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

明智さんちの旦那さんたちR

明智 颯茄
恋愛
 あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。  奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。  ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。  *BL描写あり  毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

アイドルグループの裏の顔 新人アイドルの洗礼

甲乙夫
恋愛
清純な新人アイドルが、先輩アイドルから、強引に性的な責めを受ける話です。

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

虚弱なヤクザの駆け込み寺

菅井群青
恋愛
突然ドアが開いたとおもったらヤクザが抱えられてやってきた。 「今すぐ立てるようにしろ、さもなければ──」 「脅してる場合ですか?」 ギックリ腰ばかりを繰り返すヤクザの組長と、治療の相性が良かったために気に入られ、ヤクザ御用達の鍼灸院と化してしまった院に軟禁されてしまった女の話。 ※なろう、カクヨムでも投稿

イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?

すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。 「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」 家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。 「私は母親じゃない・・・!」 そう言って家を飛び出した。 夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。 「何があった?送ってく。」 それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。 「俺と・・・結婚してほしい。」 「!?」 突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。 かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。 そんな彼に、私は想いを返したい。 「俺に・・・全てを見せて。」 苦手意識の強かった『営み』。 彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。 「いあぁぁぁっ・・!!」 「感じやすいんだな・・・。」 ※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。 ※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。 ※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。 ※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。 それではお楽しみください。すずなり。

マッサージ

えぼりゅういち
恋愛
いつからか疎遠になっていた女友達が、ある日突然僕の家にやってきた。 背中のマッサージをするように言われ、大人しく従うものの、しばらく見ないうちにすっかり成長していたからだに触れて、興奮が止まらなくなってしまう。 僕たちはただの友達……。そう思いながらも、彼女の身体の感触が、冷静になることを許さない。

処理中です...