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16 逆転
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警視庁の一室に【警視正】と呼ばれる男が訪れていた。
このライブ配信に注視している者は他にも居たのだ。
ここは、警察の【ネット犯罪解析課】と呼ばれる部署で、場所も名称も頻繁に変わる。
「しかし、表札の【NSA】って?何処の国の情報局なんだよ?」
「単にNetwork Search Agentの略なんですがね」
世間一般で【NSA】と言えば、アメリカの情報機関である【国家安全保障局】を指すからだ。
「ネフィリムとかも、この配信を見ている筈だ。過去のハッキングと今回のアクセスを比較して、奴等の居所を突き止められないか?」
「奴等は巧妙に履歴を書き換えているらしくて、一定のループを堂々めぐりしちゃうんですよ」
【注視】と言っても彼等が見ているのは画面ではなく、ネットワーク上のアクセス履歴だった。
この部署には俗に【ハッカー】と呼ばれる者が集められ、逮捕と引き換えに協力をさせられている。
「ネフィリムには、よほどのハッカーか高度な人工知能でもついているんじゃないですかね?」
「お前も日本では【神業ハッカー】って呼ばれているんじゃなかったか?」
「本当に【神業】なら捕まってませんよ」
相手をしている男は苦笑いをした。
「俺等より、ニューフェイス達に頼むべきでは?今回も調べてはいますが、期待しないで下さいよ」
「頑張れよ!それに俺は、どうしても奴等が気に入らないのさ。上から目線で見られている様でな」
警視正は努力して現在の地位にまで昇ってきた。
過去に努力は彼を裏切らず、将来は警視総監を目指している。
だが、政府では将来的にニューフェイスを政府の役職につける方針らしい。
努力では、どうにもできない【世代】。いや、【種族】という壁がソコにはあるのだ。
「本当ならニューフェイスを潰すネタを見付けて欲しいんだがな!」
「そんな事をしたら、俺も警視正も失脚しちまうじゃないですか?」
今度は警視正が苦笑いをした。
さて、現場に戻ると、Web配信や親達の思惑を気にできるほど、今のニューフェイス達には余裕が無かった。
コンバットスーツの装甲は二割以上が剥がれ、肉体への被弾や骨折も増えていく。
「どうにかならないのかレッド?」
「数の差を活かして一旦、間合いを取るか?」
「コイツの機動力じゃ、各個撃破されるのがオチだ」
現状でも、ややニューフェイス側が劣勢なのに、ここで引いて分散しては格好の餌食だ。
「じゃあ、煙幕で目眩ましは?」
「こっちの基本システムは解析されてるんだ。プロトンポインターも装備されてるだろう?こっちの位置もバレるさ」
ECM起動時に、暗闇や煙幕の中で御互いの位置確認などができる、放射線を使った【プロトンポインター】は、ニューフェイスや支援警官のヘルメットに内蔵されている。
その技術を盗んだネフィリム側にも、ニューフェイス達の位置は判明するだろう。
「でも、この暗号化された電波通信は、逆に傍受されてないわよね?」
「コードは毎日ランダムに設定してるからな」
「じゃあ、こちらの作戦は聞き取れない。プロトンポインターの発信を切って、煙幕張ればネフィリムからは見えないでしょ?その間に集まって一体を攻撃すれば」
「それは使えるな。流石に五対一でやれば、致命傷を負わせられる」
武士道や騎士道に反する行為だが、フィクションの戦隊物でも五人掛かりで一体の怪人を倒すシーンがある。
【友情】や【協力】と言えば聞こえは良いが、結局は【数の暴力】で『己の正義』を押し通すテロリストと大差ない。
ヒーロー物や英雄譚も、結局は『勝てば官軍』なのだ。
「じゃあ、先ずはブラックとレッドの相手から。5秒の煙幕が終わったら一斉に攻撃よ」
発案者であるグリーンが、風上に向かって煙幕弾を投げた。
煙幕の中で攻撃しないのは、同士討ちを避ける為だ。
戦闘型キメラノイドもプロトンポインタは起動しているらしく、煙幕の中でも位置補足は可能だった。
煙幕の中を、他の三人が記憶を頼りにブラックとレッドの元へ駆け寄る。
ニューフェイス同士で多少はぶつかりもしたが、煙幕が消えた5秒後には、ニューフェイスの五人がブラックの周囲に集まっていた。
「とう!」
「やっ!」
「くっ!」
「どうだ!」
「はっ!」
ニューフェイスの各々が、一斉に戦闘型キメラを攻撃する。
鞭で剣を押さえられ、コンバットスーツの間接部分から刀や槍、クナイなどが胸や腹に打ち込まれ、かなりの血が流れ出している。
「ぐはっ!」
恐らくはマスクの中で吐血したのだろう。
キメラノイドは膝をつき、刀などが抜かれると、そのまま地面に倒れこんだ。
「これで三体目!」
同じ手は二度も使えない。
キメラノイドの方もプロトンポインタを切って、左右に反復移動しながら向かってくる。
駆け寄ってきた二体のキメラノイドに、二人づつで素早く防御体制を取り、残ったレッドかが後ろから首を目掛けて刀を降り下ろしていく。
「くっ!これでも勝てぬのか?だが、悔いはない。日本人も大勢殺せたしな!」
最後の戦闘型キメラノイドは、組み合った瞬間に一気に力が抜け、簡単にとどめがさせた。
「最後のは、いきなり力抜けしていたな?」
「向こうも、そろそろ体力の限界だったんじゃないか?」
生物でも限界は存在する。
内包できるエネルギー量には物質的に限界がある。
相手も同じ系統の生物なのだ。持久力が自分の方が優るというのは傲慢でしかない。
「敗けを認めて、他も撤退したみたいだな」
「ある意味で、いさぎよい。いや、無駄な消耗を避けたと言うべきか?」
確かにキメラノイド達は、手足の隙間からも流血していた。
そして、全部の戦闘型キメラノイドが倒れた時には既に、周りの犬系キメラノイドも姿を消していたのだった。
『聞こえるか?ニューフェイス部隊。ネフィリムのキメラノイドは姿を消した。そちらの人質は無事か?』
警察から無線が入っている。
「こちらレッド。人質8人は無事です。我々も死者は無し」
『8人?こちらへの連絡では9人の筈だが』
「キメラノイドが居なくなったので一人で逃げたのでしょうか?現状では8人を確保しています」
既に体力の限界を迎えていたニューフェイス達は、地面に腰をついて無線の応対をしている。
避難していた建物から出てきた人質達は、そんなニューフェイスの元へ歩いてきていた。
「で、そちらの被害はどうなんです?」
『今まで分かっている一般人の被害は、トリアージブラック65、レッド120だ』
「死者65人?重傷者120人って事?」
「警官隊は?」
『ブラック26、レッド18だよ』
「合計で死者91人、重傷者138人って、被害甚大じゃない?対して倒せたのは8体でしょ?」
「これは、完全に敗北だな!」
敵は撃退できたが、被害が大きすぎた。
今回は完全に黒星と言える。
ヘルメットを脱ぎ、皆が仰向けになって天を仰ぎ見る中で、グリーンは戦闘型キメラノイドの死体を見つめた。
「それにしても、あの急な強化。いったい、どうなってるのかしら?」
比較的、体力の残っていたグリーンこと山梨 貴子が、キメラノイド達のヘルメットを外していく。
彼女の得意分野はバイオテクノロジーだ。
「これは・・・・見てよ、みんな」
「どうしたんだグリーン」
頭だけ動かして彼女の方を見ると、最初に倒したキメラノイドよりも、後に倒したキメラノイドの方が、体毛の色が薄い。厳密には毛の根元が白くなっているのだ。
毛が白いだけではなく、肌の皺も多くなっている。
「まるで、老化しているみたいだな」
「恐らくだけど、成長促進剤みたいなものでも射ったんじゃないかしら?細胞の急速な増殖だけじゃなく、反射速度も早くなるけど、補給をしないと一気にスタミナを失い、体組織を共食いして寿命を縮めるわ」
「力を得る代わりに、一気に人生を使い潰すわけか?ノーリスク・ノーリターンだな」
「それで最後の奴は、いきなり虚脱して・・・」
「正確には、コンバットスーツを調べないとわからないけど、大差ないものだと思うわ」
戦闘型キメラノイドの急激なパワーアップの秘密が見えた気がするが、それをニューフェイス側に使う訳にはいかない。
これを戦闘で使えば、まず確実に死ぬからだ。
「確かに、戦う為に産まれた奴等には、これを使っても本望なのかも知れないな」
「そんな事を、奴等も言ってたな・・・しかし、思いきった手を使うものだ」
ニューフェイスは生まれて23年経つが、ネフィリムの活動は2年程。
発覚していない事件を含めても5年は経っていない。
つまり、ネフィリムのキメラノイドは、成長促進剤を使って短時間で戦闘などに使える様に育てられた可能性がある。
それを無補給で高濃度使用したのが、今回の【強化】なのだろう。
「まさか、【成長促進剤】みたいな物が実在したとは・・」
「実は、父の研究にも似た物があるのよ。外国の科学者との共同研究だけど」
グリーンが中心になって、そんな事を話していると、実質的に一時閉鎖された遊園地の中を、数台の救急車がニューフェイス達へと向かって来ていた。
「しかし、これでは当分の休業は避けられないぞ」
「でも、ネフィリムの方は休む気がないんだろうな」
「また、警官や市民に被害者がでるんでしょうね」
「我々が、こんな状態では仕方ないだろう?」
「骨折もあるから、全治4ヶ月って所かしら?私たちに出きる事は、有限なのよ」
怪我の具合は、五人とも異なる。
そして、少数や完治以前の状態で戦って勝てる相手でもない。
ましてや今回の様に、対戦人数を合わせてくれるとは限らないのだ。
ニューフェイスの五人は、それ以上は無言で病院に搬送されていった。
病院では、特別病棟の二階と三階に分けて入院させられていた。
とは言え、棟内での行き来は、かなり自由だ。
「確かに男性階と女性階の行き来は、かなり自由だが、お前がココに居ちゃあまずいだろう?」
「こんな所への侵入は簡単ですから」
部外者立ち入り禁止の病棟に現れたのは、遊園地での人質事件で姿を消していた少年だった。
諸事情により、監視カメラなどの無い部屋だが、一応は周りを見回している。
「父からは、謝罪と様子見をする様に言われて来ました」
「まぁ、再起不能にならなければ良いと言ったから、約束を破ってはいないけど、凄かったよアレは」
暁の病室に集まったニューフェイスの全員の前に、見舞いの少年は手土産を持ってきて、丁寧に頭を下げた。
「皆さんに直接御逢いするのは初めてですね。ベルフェゴール011アルファ。ある意味で六人目のニューフェイスです」
このライブ配信に注視している者は他にも居たのだ。
ここは、警察の【ネット犯罪解析課】と呼ばれる部署で、場所も名称も頻繁に変わる。
「しかし、表札の【NSA】って?何処の国の情報局なんだよ?」
「単にNetwork Search Agentの略なんですがね」
世間一般で【NSA】と言えば、アメリカの情報機関である【国家安全保障局】を指すからだ。
「ネフィリムとかも、この配信を見ている筈だ。過去のハッキングと今回のアクセスを比較して、奴等の居所を突き止められないか?」
「奴等は巧妙に履歴を書き換えているらしくて、一定のループを堂々めぐりしちゃうんですよ」
【注視】と言っても彼等が見ているのは画面ではなく、ネットワーク上のアクセス履歴だった。
この部署には俗に【ハッカー】と呼ばれる者が集められ、逮捕と引き換えに協力をさせられている。
「ネフィリムには、よほどのハッカーか高度な人工知能でもついているんじゃないですかね?」
「お前も日本では【神業ハッカー】って呼ばれているんじゃなかったか?」
「本当に【神業】なら捕まってませんよ」
相手をしている男は苦笑いをした。
「俺等より、ニューフェイス達に頼むべきでは?今回も調べてはいますが、期待しないで下さいよ」
「頑張れよ!それに俺は、どうしても奴等が気に入らないのさ。上から目線で見られている様でな」
警視正は努力して現在の地位にまで昇ってきた。
過去に努力は彼を裏切らず、将来は警視総監を目指している。
だが、政府では将来的にニューフェイスを政府の役職につける方針らしい。
努力では、どうにもできない【世代】。いや、【種族】という壁がソコにはあるのだ。
「本当ならニューフェイスを潰すネタを見付けて欲しいんだがな!」
「そんな事をしたら、俺も警視正も失脚しちまうじゃないですか?」
今度は警視正が苦笑いをした。
さて、現場に戻ると、Web配信や親達の思惑を気にできるほど、今のニューフェイス達には余裕が無かった。
コンバットスーツの装甲は二割以上が剥がれ、肉体への被弾や骨折も増えていく。
「どうにかならないのかレッド?」
「数の差を活かして一旦、間合いを取るか?」
「コイツの機動力じゃ、各個撃破されるのがオチだ」
現状でも、ややニューフェイス側が劣勢なのに、ここで引いて分散しては格好の餌食だ。
「じゃあ、煙幕で目眩ましは?」
「こっちの基本システムは解析されてるんだ。プロトンポインターも装備されてるだろう?こっちの位置もバレるさ」
ECM起動時に、暗闇や煙幕の中で御互いの位置確認などができる、放射線を使った【プロトンポインター】は、ニューフェイスや支援警官のヘルメットに内蔵されている。
その技術を盗んだネフィリム側にも、ニューフェイス達の位置は判明するだろう。
「でも、この暗号化された電波通信は、逆に傍受されてないわよね?」
「コードは毎日ランダムに設定してるからな」
「じゃあ、こちらの作戦は聞き取れない。プロトンポインターの発信を切って、煙幕張ればネフィリムからは見えないでしょ?その間に集まって一体を攻撃すれば」
「それは使えるな。流石に五対一でやれば、致命傷を負わせられる」
武士道や騎士道に反する行為だが、フィクションの戦隊物でも五人掛かりで一体の怪人を倒すシーンがある。
【友情】や【協力】と言えば聞こえは良いが、結局は【数の暴力】で『己の正義』を押し通すテロリストと大差ない。
ヒーロー物や英雄譚も、結局は『勝てば官軍』なのだ。
「じゃあ、先ずはブラックとレッドの相手から。5秒の煙幕が終わったら一斉に攻撃よ」
発案者であるグリーンが、風上に向かって煙幕弾を投げた。
煙幕の中で攻撃しないのは、同士討ちを避ける為だ。
戦闘型キメラノイドもプロトンポインタは起動しているらしく、煙幕の中でも位置補足は可能だった。
煙幕の中を、他の三人が記憶を頼りにブラックとレッドの元へ駆け寄る。
ニューフェイス同士で多少はぶつかりもしたが、煙幕が消えた5秒後には、ニューフェイスの五人がブラックの周囲に集まっていた。
「とう!」
「やっ!」
「くっ!」
「どうだ!」
「はっ!」
ニューフェイスの各々が、一斉に戦闘型キメラを攻撃する。
鞭で剣を押さえられ、コンバットスーツの間接部分から刀や槍、クナイなどが胸や腹に打ち込まれ、かなりの血が流れ出している。
「ぐはっ!」
恐らくはマスクの中で吐血したのだろう。
キメラノイドは膝をつき、刀などが抜かれると、そのまま地面に倒れこんだ。
「これで三体目!」
同じ手は二度も使えない。
キメラノイドの方もプロトンポインタを切って、左右に反復移動しながら向かってくる。
駆け寄ってきた二体のキメラノイドに、二人づつで素早く防御体制を取り、残ったレッドかが後ろから首を目掛けて刀を降り下ろしていく。
「くっ!これでも勝てぬのか?だが、悔いはない。日本人も大勢殺せたしな!」
最後の戦闘型キメラノイドは、組み合った瞬間に一気に力が抜け、簡単にとどめがさせた。
「最後のは、いきなり力抜けしていたな?」
「向こうも、そろそろ体力の限界だったんじゃないか?」
生物でも限界は存在する。
内包できるエネルギー量には物質的に限界がある。
相手も同じ系統の生物なのだ。持久力が自分の方が優るというのは傲慢でしかない。
「敗けを認めて、他も撤退したみたいだな」
「ある意味で、いさぎよい。いや、無駄な消耗を避けたと言うべきか?」
確かにキメラノイド達は、手足の隙間からも流血していた。
そして、全部の戦闘型キメラノイドが倒れた時には既に、周りの犬系キメラノイドも姿を消していたのだった。
『聞こえるか?ニューフェイス部隊。ネフィリムのキメラノイドは姿を消した。そちらの人質は無事か?』
警察から無線が入っている。
「こちらレッド。人質8人は無事です。我々も死者は無し」
『8人?こちらへの連絡では9人の筈だが』
「キメラノイドが居なくなったので一人で逃げたのでしょうか?現状では8人を確保しています」
既に体力の限界を迎えていたニューフェイス達は、地面に腰をついて無線の応対をしている。
避難していた建物から出てきた人質達は、そんなニューフェイスの元へ歩いてきていた。
「で、そちらの被害はどうなんです?」
『今まで分かっている一般人の被害は、トリアージブラック65、レッド120だ』
「死者65人?重傷者120人って事?」
「警官隊は?」
『ブラック26、レッド18だよ』
「合計で死者91人、重傷者138人って、被害甚大じゃない?対して倒せたのは8体でしょ?」
「これは、完全に敗北だな!」
敵は撃退できたが、被害が大きすぎた。
今回は完全に黒星と言える。
ヘルメットを脱ぎ、皆が仰向けになって天を仰ぎ見る中で、グリーンは戦闘型キメラノイドの死体を見つめた。
「それにしても、あの急な強化。いったい、どうなってるのかしら?」
比較的、体力の残っていたグリーンこと山梨 貴子が、キメラノイド達のヘルメットを外していく。
彼女の得意分野はバイオテクノロジーだ。
「これは・・・・見てよ、みんな」
「どうしたんだグリーン」
頭だけ動かして彼女の方を見ると、最初に倒したキメラノイドよりも、後に倒したキメラノイドの方が、体毛の色が薄い。厳密には毛の根元が白くなっているのだ。
毛が白いだけではなく、肌の皺も多くなっている。
「まるで、老化しているみたいだな」
「恐らくだけど、成長促進剤みたいなものでも射ったんじゃないかしら?細胞の急速な増殖だけじゃなく、反射速度も早くなるけど、補給をしないと一気にスタミナを失い、体組織を共食いして寿命を縮めるわ」
「力を得る代わりに、一気に人生を使い潰すわけか?ノーリスク・ノーリターンだな」
「それで最後の奴は、いきなり虚脱して・・・」
「正確には、コンバットスーツを調べないとわからないけど、大差ないものだと思うわ」
戦闘型キメラノイドの急激なパワーアップの秘密が見えた気がするが、それをニューフェイス側に使う訳にはいかない。
これを戦闘で使えば、まず確実に死ぬからだ。
「確かに、戦う為に産まれた奴等には、これを使っても本望なのかも知れないな」
「そんな事を、奴等も言ってたな・・・しかし、思いきった手を使うものだ」
ニューフェイスは生まれて23年経つが、ネフィリムの活動は2年程。
発覚していない事件を含めても5年は経っていない。
つまり、ネフィリムのキメラノイドは、成長促進剤を使って短時間で戦闘などに使える様に育てられた可能性がある。
それを無補給で高濃度使用したのが、今回の【強化】なのだろう。
「まさか、【成長促進剤】みたいな物が実在したとは・・」
「実は、父の研究にも似た物があるのよ。外国の科学者との共同研究だけど」
グリーンが中心になって、そんな事を話していると、実質的に一時閉鎖された遊園地の中を、数台の救急車がニューフェイス達へと向かって来ていた。
「しかし、これでは当分の休業は避けられないぞ」
「でも、ネフィリムの方は休む気がないんだろうな」
「また、警官や市民に被害者がでるんでしょうね」
「我々が、こんな状態では仕方ないだろう?」
「骨折もあるから、全治4ヶ月って所かしら?私たちに出きる事は、有限なのよ」
怪我の具合は、五人とも異なる。
そして、少数や完治以前の状態で戦って勝てる相手でもない。
ましてや今回の様に、対戦人数を合わせてくれるとは限らないのだ。
ニューフェイスの五人は、それ以上は無言で病院に搬送されていった。
病院では、特別病棟の二階と三階に分けて入院させられていた。
とは言え、棟内での行き来は、かなり自由だ。
「確かに男性階と女性階の行き来は、かなり自由だが、お前がココに居ちゃあまずいだろう?」
「こんな所への侵入は簡単ですから」
部外者立ち入り禁止の病棟に現れたのは、遊園地での人質事件で姿を消していた少年だった。
諸事情により、監視カメラなどの無い部屋だが、一応は周りを見回している。
「父からは、謝罪と様子見をする様に言われて来ました」
「まぁ、再起不能にならなければ良いと言ったから、約束を破ってはいないけど、凄かったよアレは」
暁の病室に集まったニューフェイスの全員の前に、見舞いの少年は手土産を持ってきて、丁寧に頭を下げた。
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