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終章
67・私の居場所②(最終話)
しおりを挟む『しかし……君の決断を騎士は知っているのか?』
「……まだだけど?」
異世界に残る選択をしたのは私の責任だ。
残る決断をした一番大きな理由はジェラルドなのだけど、ジェラルドに私の決断の責任を負わせたくなかった。
少し落ち着いてから話そうかな、と思っている。
だから、ジェラルドが私の部屋に来るよりも早い早朝の時間帯に、そっと抜け出してきたのだけど――。
「アオイ様!!」
地下に聞きなれた声が響いてハッと振り返る。
見れば、一直線にこちらへ向かって階段を駆け下りてくるジェラルドの姿があった。
どこか焦った表情をしている。
「じ、ジェラルドっ!?」
私は慌てて立ち上がるとジェラルドに駆け寄った。
「部屋にいらっしゃらなかったので探したんですよ! 俺に黙ってこんな場所に来られるなんて、まさか……元の世界に帰られるおつもりですか?」
「え」
私が元の世界に帰るか否かで悩んでいたことは、誰にも言っていないはずだ。
しかし、何か察するものがあったのだろう。ジェラルドはそういうところは鋭いから。
私がどう答えたものか戸惑っていると、ジェラルドはサッと私の足元に跪いた。
まるで最初に会った時のように、私の片手をすくい上げる。
「俺は、あなたがいない世界など考えられません。あなたがいない日々など、露ほども価値がない。あなたのためなら何でもいたします。だからどうか、お供させてください。あなたの一生を俺にください」
「え……ええええ!?」
あなたの一生を俺にください!?!?
この騎士様いきなり何言ってるの!?
プロポーズのようなジェラルドのセリフに、どうしても顔が熱くなってしまう。
「ジ、ジェラルド、違うよ、待って」
大好きな人にそう言って貰えるのは嬉しいのだけど、勘違いさせたままなのは申し訳ない。
本当はもう少し先で伝えるつもりだったが、予定変更せざるを得ないだろう。
「あのね、私……。この世界にずっといるって決めたんだ。だから、その……できたら、こちらこそジェラルドにずっとそばにいて欲しいというか――きゃっ」
私はジェラルドと違って、こういう言葉を口にするのはどうしても気恥ずかしくなってしまう。
ごにょごにょと言っていると、ジェラルドは私の腰へ腕を回してぐいっと上へ抱き上げた。
「本当ですか!? 嬉しいです」
「わわっ」
体がふわりと宙に浮く。
咄嗟にジェラルドの肩へ手を置くと、間近にジェラルドの幸せそうな顔があった。
――ジェラルドがそんな顔をしてくれるなら、私の選択はきっと間違いじゃない。
後悔はきっとするだろう。生まれてきてからあったすべてを捨てるのだ。しないわけが無い。
だけど、ジェラルドが傍にいてくれるなら、後悔を上回る幸福を手に入れられる。
「必ず俺が、あなたを幸せにします」
「……私も」
私だって、ジェラルドのことを幸せにしたい。
だからこの世界に残ったのだ。
元の世界にジェラルドを連れて帰っても、この人は要領がいいからきっとうまくやれるとは思う。
だけど、ジェラルドはこの世界で生きるべき人だ。
彼を必要としている人が、この世界にはたくさんいる。
ジェラルドには、神殿騎士団長として、時には王弟殿下(今は王子殿下?)として、この世界で生きて欲しい。
「アオイ様。俺はあなたのことを、お慕いしております」
ジェラルドはそう言うと、私の体をさらに強く抱き寄せる。
ゆっくりとジェラルドの唇が近づいてくるのが分かって、私はそっと目を閉じた。
――ルチアナ聖王国の神殿で正式に神子として働き始めた私が、騎士団長様と結婚するのはもう少し先のお話。
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