【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那

文字の大きさ
上 下
71 / 75
第5章

63・悪天候

しおりを挟む

 エルミナさんとお茶会をした日からさらに二日が経った。
 この二日間、やけに天気が悪い。
 二日前の夜から降り出した雨が、一向に止む気配を見せないのだ。

 私は神殿の廊下から外を眺めながら、ジェラルドに尋ねた。

「ねぇ、ジェラルド。この国って雨が多いの?」

「いえ……。ルーチェ様の御加護のおかげで、天候も気候も安定しているはずです」

 ジェラルドもこの雨を訝しんでいるようだった。
 何せ、降り方が異常だ。
 バケツをひっくり返したような大雨が、この二日間降り注いでいる。

「ですが……この振り方は困りましたね……。このままでは、街に浸水被害が出るかもしれません」

 ジェラルドは顎に手を当てて、眉根を寄せて雨を見つめていた。

 この世界に来たばかりの頃、ジェラルドにこの国について説明してもらったことを思い出す。
 
 この国は、小国な上に水災害に見舞われることが多いが、あの神様の加護があるから人命に対する被害は少ないのだと。

 でももし、神様の力が奪われていたらどうなるのだろう。
 
 神様は、私が神殿に戻ってきた夜以降、私の夢にも現れない。
 神様の話を聞く限りでは、力の大半は既に国王様の元。残っているのは私の体に溜めたもののみ。
 その上、国王様の方が「神の力に乗っ取られ」ようとしているなら?

 そもそもこの雨は、もしかしてあの神様の力が奪われている影響だったりするのだろうか。
 
 ――なんか……嫌な予感がする。

 考えれば考えるほど、不安になってくる。
 ジェラルドはそんな私の肩をそっと抱き寄せた。

「アオイ様、大丈夫ですか」

「……うん」

 そんな時だ。廊下の向こう側から、ニコラスが慌ただしくこちらへ向かってきたのは。

「神子様、ジェラルド! 大変です!」

「どっ、どうしたの!?」

 普段落ち着いているニコラスが、見たことがないほど焦った様子で駆けてくる。
 外に出ていたのだろうか。ニコラスの緩やかなブロンドが濡れている。
 ニコラスは私たちのそばまでやってくると、膝に手を当てて荒い息を吐いた。

「国王陛下が……。陛下がお一人で城から居なくなられたそうです……!」

「ええ!?」

 一体どういうこと!?

 途切れ途切れに放たれたニコラスの衝撃的な言葉に、私もジェラルドも目を見開いた。
 国王様は、本来不可侵である神子を誘拐(?)した件で、臣下の方々から事情確認されているところだと聞いていた。
 しかし、国王様の体調が芳しくないせいであまり進んでいないのだと。

 そもそも国王様は、口から血を吐くような状態のはずだ。こんな雨の中、城から一人でいなくなるなんて無茶だ。心配でしかない。

「兵士たちが城中探したそうですが見当たらず……。街の捜索を始めるそうで、神殿騎士にも協力要請がありました。ジェラルド、指示の方をよろしくお願いします」

「はっ、承知いたしました」

「ジェラルド……っ」
 
 何だか、胸騒ぎがする。
 思わずジェラルドの服の裾を掴むと、ジェラルドは私を安心させるようににこりと微笑んだ。

「大丈夫です。騎士たちに指示を出したらあなたの元へ戻ってきます。俺は、アオイ様を守ることが務めですから」

 私は部屋にいるようにと言って、ジェラルドもニコラスもばたばたと駆けていく。
 おそらく、騎士たちに国王様捜索の指示を出しに行くのだろう。

 私は二人の姿を見送りながら、高まっていく不安な気持ちを抑えるように、胸の前でぎゅっと拳を握りしめた。
 
 

 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス
恋愛
 家庭にも学校にも居場所がない女子高生の花梨は、ある日夢で男の子に出会う。  その日から毎晩夢で男の子と会うが、時間のペースが違うようで1ヶ月で立派な青年に?  ある日、龍の娘として治癒の力と共に、成長した青年がいる世界へ行くことに! 「ヴィラ(青年)に会いたいけど、会いに行ったら龍の娘としての責任が!なんなら言葉もわからない!」  混乱しながらも花梨が龍の娘とした覚悟を決めて、進んでいくお話。 ※こちらの作品は2007年自サイトにて連載、完結した小説です。

【完結】破滅フラグを回避したら、冷酷な公爵閣下が離してくれません

21時完結
恋愛
気がつけば、乙女ゲームの悪役令嬢エリシア・フォン・ローゼンベルクに転生していた私。 このままだと、婚約者である王太子の心をヒロインに奪われ、婚約破棄&国外追放……破滅エンド一直線! (そんな未来はごめんです!!) そこで私は、王太子に恋をしない! ヒロインに絡まない! を徹底し、地道に好感度を下げる作戦を決行。 結果、見事に婚約破棄! 破滅フラグは回避成功!! これで静かに暮らせる……と思っていたのに―― 「……やっと自由になったな。今度こそ、君を手に入れよう」 冷酷無慈悲と名高い公爵閣下・クラウス・フォン・アイゼンハルトが、なぜか私に求婚してきた!? 「前から君を望んでいたが、王太子の婚約者では手が出せなかった……これで何の障害もない」 「えっ、ちょっと待ってください!? そんな話聞いてません!」 「もう逃がすつもりはない。覚悟してもらおう」 どうしてこうなった!? 破滅回避したら、冷酷公爵に執着されてしまったんですが!? 冷たく見えるけれど、私には甘すぎる公爵閣下。 「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」 と微笑む彼から、私は逃げられるの――!?

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。

氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。 それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。 「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」 それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが? 人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。 小説家になろうにも投稿しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな

弥生菊美
恋愛
付き合った相手から1人で生きていけそう、可愛げがない。そう言われてフラれた主人公、これで何度目…もう2度と恋愛なんかしないと泣きながら決意する。そんな時に出会った巫女服姿の女性に異国での生活を勧められる。目が覚めると…異国ってこう言うこと!?フラれすぎて自己評価はマイナス値の主人公に、獣人の青年に神使に騎士!?次から次へと恋愛フラグ!?これが異世界恋愛!?って、んな訳ないな…私は1人で生きれる系可愛げの無い女だし ありきたりで使い古された逆ハー異世界生活が始まる。 ※登場キャラ「タカちゃん」の名前を変更作業中です。追いついていない章があります。ご容赦ください。2024年7月※

異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員、奈央。彼女に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に私の好みドンピシャなイケメンを吊り上げてしまい、その瞬間に首を絞められる寸前となり絶体絶命!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!

処理中です...