【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那

文字の大きさ
上 下
44 / 75
第3章

38・特別

しおりを挟む

「神子様……」

 静かなジェラルドの声と、背中を撫でてくる優しい手のひらに、私の心が次第に落ち着いていく。
 涙がようやくおさまって、はたと今の状況に気がついた。

 部屋の中。
 二人きり。
 ……抱きしめられているっっ⁉︎

 今更といえば今更。
 だけど、一度気づいてしまえば、鼓動が加速していくのを止められなかった。
 燃えるように顔が熱い。

「ご、ごめんね……っ、迷惑ばっかりかけて!」

 私は距離をとろうと、ジェラルドの胸を押した。
 だが、びくともしない。

 ――って、逞しいな……!

 一見細身に見えるのにジェラルドの胸は厚く、布越しでも鍛えられていることがわかる。
 当然のことなのだけれど、私の体とは全く違う。

 ――……男の人、なんだ。

 ふと、そう感じて。
 私の胸が、どくんと跳ねた。

「俺は、一度も神子様のことを迷惑だなんて思った事はありませんよ」

「でも……」

 ジェラルドが迷惑だと思っていなくても、私が気になってしまう。
 私にできることは少なくても、誰かの迷惑にはなりたくないのだ。
 特に、ジェラルドの迷惑には。

 ――これじゃあまるで、ジェラルドのことが特別みたい。

 そこまで考えて、私は一つの答えを見つけてしまった。

 ――私、ジェラルドのことが好きなんだ。

「俺がそう思っていなくても、神子様が『迷惑』だと感じるなら……。いくらでも俺に、迷惑をかけて下さっていいのですよ」

 ジェラルドは優しい。
 きっと彼は、相手が私でなくてもこうなのではないだろうか。

「神子様は、俺にとって……特別な方ですから」

「……っ」

 私の考えを否定するようなジェラルドの言葉に、驚きのあまり、至近距離にいるジェラルドを見上げた。
 ジェラルドの濃紺の瞳の奥が揺れているように感じられて、私は声を出すことができない。

 ――私が、特別……?

 そんなことはありえない、と。
 即座に脳内で否定する。
 私なんて、ただの平凡な小娘だ。ジェラルドに特別に思ってもらえるような何かなんて、ありはしないのに。

 私が特別なのではない。
 きっとジェラルドは、私が異世界から突然やってきたな存在だから優しくしてくれるだけで。同情してくれているだけで。仕事上、私と過ごしてばかりだから情が沸いただけだ。

「俺が……どんなことからも、あなたをお守りいたします。……アオイ様」

 それなのに、ジェラルドが私の名前を呼ぶから。
 馬鹿な私は誤解してしまいそうになる。

「……っジェラルド」

 名前を呼ばれただけで、顔が熱くなる。
 赤くなっているであろう顔を、ジェラルドに見られないように背けたいのに。
 ジェラルドの濃紺の瞳にとらわれて、私は彼の瞳から目をそらすことができなかった。

「神子様……ご無礼をお許しください」

 静かにジェラルドがそう言って、ゆっくりと顔を近づけてくる。
 そうして、ジェラルドの唇がそっと私の額に触れた。

 ――え……。

 何が起きたのかすぐには理解できなくて、私は呆然としてしまう。
 ジェラルドは、焦がれるような目をして私を見ている。ような気がした。

「俺に、あまり隙を見せないでください……。付けいってしまいたくなる」

「……っ」

 ……気がした、ではない。
 ジェラルドが真剣な顔で言うから、向けられる好意が嘘ではないのだと理解してしまう。

 ――私、馬鹿だ。

 いずれ私は元の世界に帰る。
 こんな異世界で恋に落ちたって、どうにもならないというのに。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について

あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜

近藤アリス
恋愛
 家庭にも学校にも居場所がない女子高生の花梨は、ある日夢で男の子に出会う。  その日から毎晩夢で男の子と会うが、時間のペースが違うようで1ヶ月で立派な青年に?  ある日、龍の娘として治癒の力と共に、成長した青年がいる世界へ行くことに! 「ヴィラ(青年)に会いたいけど、会いに行ったら龍の娘としての責任が!なんなら言葉もわからない!」  混乱しながらも花梨が龍の娘とした覚悟を決めて、進んでいくお話。 ※こちらの作品は2007年自サイトにて連載、完結した小説です。

【完結】破滅フラグを回避したら、冷酷な公爵閣下が離してくれません

21時完結
恋愛
気がつけば、乙女ゲームの悪役令嬢エリシア・フォン・ローゼンベルクに転生していた私。 このままだと、婚約者である王太子の心をヒロインに奪われ、婚約破棄&国外追放……破滅エンド一直線! (そんな未来はごめんです!!) そこで私は、王太子に恋をしない! ヒロインに絡まない! を徹底し、地道に好感度を下げる作戦を決行。 結果、見事に婚約破棄! 破滅フラグは回避成功!! これで静かに暮らせる……と思っていたのに―― 「……やっと自由になったな。今度こそ、君を手に入れよう」 冷酷無慈悲と名高い公爵閣下・クラウス・フォン・アイゼンハルトが、なぜか私に求婚してきた!? 「前から君を望んでいたが、王太子の婚約者では手が出せなかった……これで何の障害もない」 「えっ、ちょっと待ってください!? そんな話聞いてません!」 「もう逃がすつもりはない。覚悟してもらおう」 どうしてこうなった!? 破滅回避したら、冷酷公爵に執着されてしまったんですが!? 冷たく見えるけれど、私には甘すぎる公爵閣下。 「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」 と微笑む彼から、私は逃げられるの――!?

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員、奈央。彼女に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に私の好みドンピシャなイケメンを吊り上げてしまい、その瞬間に首を絞められる寸前となり絶体絶命!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。

氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。 それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。 「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」 それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが? 人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。 小説家になろうにも投稿しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~

降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

処理中です...