17 / 75
第1章
14・騎士様と鍛錬場①
しおりを挟む食事を終えたあと、私は早めに食堂を退散することにした。
あのまま食堂にいたら、エミールくんがジェラルドに叱られ続けるのが目に見えていたからだ。それはさすがに申し訳ない。
エミールくんと仲良くなるのはまた次の機会にしよう、と私は心に決めた。
「よければ、ついでに神殿の中をご案内いたします」
「わ、ありがとう」
昨日は結局、あまり神殿内について知ることが出来なかったからジェラルドの申し出は助かる。
いつ元の世界に戻れるのがはっきりと分からない以上、自分が当面暮らす場所について知っておいて損は無いだろう。
そういえば、具体的にいつ元の世界に戻れるのを聞きそびれていたと思いだす。次に神様に会ったら問い詰めておかねばならない。
つらつらと考えながらジェラルドの後ろについて神殿内を歩いていると、ふと気になるものを見つけた。
窓の外、少し離れたところに別の建物が見える。
「ねぇ、ジェラルド。あの建物ってなに?」
建物を指しながらジェラルドに尋ねると、ジェラルドは「ああ」と頷いた。
「あれは、俺たち神殿騎士の鍛錬場です」
「へぇー……」
鍛錬場まで併設してあるのか。それはすごい。
やはり騎士を名乗るだけあって、強く鍛えねばならないのだろう。
「この神殿や町を守るため、神殿騎士は日々ここで鍛錬をしております。少し、中をご覧になられますか?」
「え、いいの? 見てみたい!」
好奇心には逆らえない。
私が目を輝かせたのを見て、ジェラルドは目元を緩めた。
◇◇◇◇◇◇
裏口から神殿を出て、中庭に面した渡り廊下を渡った先に鍛錬場はあった。
二階の高さまである石造りの建物が、ぐるりと四角く囲うように配置されている。
中はどうなっているんだろう?
「ここは、神殿騎士団の詰め所にもなっているんですよ」
ジェラルドはそう言いながら、簡素な木の扉を開けてくれる。
石造りの建物で囲われた中は、中庭のような開けた空間になっていた。
その中央では、神殿騎士と思われる格好をした男性二人が、模擬試合のようなものを行っているようだった。
片方は長剣を扱い、もう片方は短刀と投げナイフを扱って戦っている。
「騎士って言っても、使う武器って長剣だけじゃないんだね?」
騎士といえば、何となくジェラルドが腰に下げているような長剣のイメージがあった。ナイフを使っている人を見て意外に思う。
「基本は長剣ですけど、中にはこだわりを持って自分の好む武器を使う騎士もいるんです」
なるほど。その辺は割と自由なんだ。
「そういえばジェラルドって、かなり偉い人?」
入口付近で試合を見学しながら、私はずっと気になっていたことをジェラルドに聞いてみた。
エミールくんのジェラルドに対する態度といい、『神子様』を守るような重要っぽい役割を与えられていることといい、ジェラルドはただの騎士には思えない。
「そうですね……。偉いというほどではありませんが、騎士団内では力があるほうですよ。これでも一応、神殿騎士団の団長を務めております」
「……だ、団長!?」
ジェラルドがさらりと放った言葉に、私はぎょっと目を見開いた。
強そうだとは思っていたが、団長ということは神殿騎士団内でトップということじゃん! そんなすごい人を、呑気に私の神殿見学に付き合わせていたの!?
「な、なんか、すごい人をこんな子どもに付き合わせてごめんなさい……」
申し訳なさが募って、私はしゅんと頭を垂れた。
それに対して、ジェラルドはきょとんとしている。
「なぜ、神子様が謝るのですか? 俺はすごくありませんよ。すごいのは俺より神子様です」
「えっ、なんで私……?」
なぜ、はこちらのセリフだ。
私なんて、ただの女子高生だ。成績だってさして良くないし、見た目は普通。この異世界で『神子様』なんて呼ばれても、特別な力なんてないのだから。
だがジェラルドは、困惑して首をひねる私の様子などお構い無しで言葉を続けた。
「神子様は、異世界から突然召喚されたとニコラス様より伺っております。それなのに、悲観するでもなく、前向きにこの世界のことを受け入れようとなさっている」
待って、ジェラルドにはそんな良いように捉えられていたの!?
私はただ、私の世界と全然違うものに興味津々だっただけなんですけど!?
「ルーチェ様が選ばれた神子とはいえ、最初はどのような方が来るのかと不安でしたが……。あなたのような方なら、俺の全てをかけて守りたいと思える。……アオイ様」
「え、え、ちょっと美化しすぎでしょ……?」
ジェラルドの真摯な眼差しが私に注がれる。
どうしよう。一気に頬へ熱が集まって顔が熱い。耳まで真っ赤になっている自信がある。
私はジェラルドの顔を直視出来なくて視線を逸らした。
その時ひゅっと、一際大きく風を切る音が響いた。
「え……」
49
お気に入りに追加
180
あなたにおすすめの小説

推しの幸せをお願いしたら異世界に飛ばされた件について
あかね
恋愛
いつも推しは不遇で、現在の推しの死亡フラグを年末の雑誌で立てられたので、新年に神社で推しの幸せをお願いしたら、翌日異世界に飛ばされた話。無事、推しとは会えましたが、同居とか無理じゃないですか。

【完結】私が見る、空の色〜いじめられてた私が龍の娘って本当ですか?〜
近藤アリス
恋愛
家庭にも学校にも居場所がない女子高生の花梨は、ある日夢で男の子に出会う。
その日から毎晩夢で男の子と会うが、時間のペースが違うようで1ヶ月で立派な青年に?
ある日、龍の娘として治癒の力と共に、成長した青年がいる世界へ行くことに!
「ヴィラ(青年)に会いたいけど、会いに行ったら龍の娘としての責任が!なんなら言葉もわからない!」
混乱しながらも花梨が龍の娘とした覚悟を決めて、進んでいくお話。
※こちらの作品は2007年自サイトにて連載、完結した小説です。

【完結】破滅フラグを回避したら、冷酷な公爵閣下が離してくれません
21時完結
恋愛
気がつけば、乙女ゲームの悪役令嬢エリシア・フォン・ローゼンベルクに転生していた私。
このままだと、婚約者である王太子の心をヒロインに奪われ、婚約破棄&国外追放……破滅エンド一直線!
(そんな未来はごめんです!!)
そこで私は、王太子に恋をしない! ヒロインに絡まない! を徹底し、地道に好感度を下げる作戦を決行。
結果、見事に婚約破棄! 破滅フラグは回避成功!!
これで静かに暮らせる……と思っていたのに――
「……やっと自由になったな。今度こそ、君を手に入れよう」
冷酷無慈悲と名高い公爵閣下・クラウス・フォン・アイゼンハルトが、なぜか私に求婚してきた!?
「前から君を望んでいたが、王太子の婚約者では手が出せなかった……これで何の障害もない」
「えっ、ちょっと待ってください!? そんな話聞いてません!」
「もう逃がすつもりはない。覚悟してもらおう」
どうしてこうなった!? 破滅回避したら、冷酷公爵に執着されてしまったんですが!?
冷たく見えるけれど、私には甘すぎる公爵閣下。
「君を手に入れるためなら、何でもするよ?」 と微笑む彼から、私は逃げられるの――!?

溺れかけた筆頭魔術師様をお助けしましたが、堅実な人魚姫なんです、私は。
氷雨そら
恋愛
転生したら人魚姫だったので、海の泡になるのを全力で避けます。
それなのに、成人の日、海面に浮かんだ私は、明らかに高貴な王子様っぽい人を助けてしまいました。
「恋になんて落ちてない。関わらなければ大丈夫!」
それなのに、筆頭魔術師と名乗るその人が、海の中まで追いかけてきて溺愛してくるのですが?
人魚姫と筆頭魔術師の必然の出会いから始まるファンタジーラブストーリー。
小説家になろうにも投稿しています。

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!
桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。
「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。
異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。
初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

【完結済】私、地味モブなので。~転生したらなぜか最推し攻略対象の婚約者になってしまいました~
降魔 鬼灯
恋愛
マーガレット・モルガンは、ただの地味なモブだ。前世の最推しであるシルビア様の婚約者を選ぶパーティーに参加してシルビア様に会った事で前世の記憶を思い出す。 前世、人生の全てを捧げた最推し様は尊いけれど、現実に存在する最推しは…。 ヒロインちゃん登場まで三年。早く私を救ってください。

2度と恋愛なんかしない!そう決意して異世界で心機一転料理屋でもして過ごそうと思ったら、恋愛フラグ!?イヤ、んなわけ無いな
弥生菊美
恋愛
付き合った相手から1人で生きていけそう、可愛げがない。そう言われてフラれた主人公、これで何度目…もう2度と恋愛なんかしないと泣きながら決意する。そんな時に出会った巫女服姿の女性に異国での生活を勧められる。目が覚めると…異国ってこう言うこと!?フラれすぎて自己評価はマイナス値の主人公に、獣人の青年に神使に騎士!?次から次へと恋愛フラグ!?これが異世界恋愛!?って、んな訳ないな…私は1人で生きれる系可愛げの無い女だし
ありきたりで使い古された逆ハー異世界生活が始まる。
※登場キャラ「タカちゃん」の名前を変更作業中です。追いついていない章があります。ご容赦ください。2024年7月※
異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!
楠ノ木雫
恋愛
突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員、奈央。彼女に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。
ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!
これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に私の好みドンピシャなイケメンを吊り上げてしまい、その瞬間に首を絞められる寸前となり絶体絶命!
何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる