【完結】うっかり異世界召喚されましたが騎士様が過保護すぎます!

雨宮羽那

文字の大きさ
上 下
13 / 75
第1章

10・神様再び②

しおりを挟む

「はぁ……」

 再び静かになった室内で、私はため息を吐き出した。
 ジェラルドには私を守るという役目があるからなのだろうが、少し過保護気味な気がしなくもない。
 いやでも、外に神様との言い合いが聞こえていたのなら不審に思って当然か……。
 そもそも、この神様の姿や声って他の人には認識できているのだろうか。

『いや、僕の声が聞こえているのも、姿をとらえることができるのも君だけだ』

 まずい……。脳内で神様と会話が成立してしまった。

 神様はあぐらをかいていた机の上からふわりと降りると、私の近くまで音もなく移動した。
 なんだか、顔色の白さも伴って、幽霊みたいだ。
 ああ、私以外の人が神様の姿も声も認識できないなら似たようなものか。

『神を幽霊扱いするなど、君くらいだろうな……』

「だってねぇ……」

 私の心を読んだのか、神様がふうと嘆息する。
 そう言われても、初対面の印象が悪すぎて、素直にこの神様を敬おうという気持ちが湧いてこないのだ。

『……ともかく。君を元の世界に返すその時まで身の安全は保証するから、安心してこの世界を楽しめばいい』

「それはありがたいけど……」

 私はなんの力もない普通の女子高生だ。
 いきなり神子様だなんて特別扱いされても、嬉しさより戸惑いや困惑の方が勝ってしまう。
 
「……それで、結局私の世界で何してたの?」

 思わぬジェラルドの来訪ですっかり話が逸れてしまったので、もう一度問いかける。
 そもそも私が異世界に来ることになったのは、神様とぶつかってしまったせいだ。
 異世界の神がわざわざ私の世界までやってくるなんて、何があるというのだろう。
 
『お別れを言いに行っていたのさ』

 お別れ? 誰と誰が、お別れなのだろう?

 神様の表情に一瞬、寂しそうな色が見えたような気がした。
 瞬きをした瞬間にはもう普通の表情に戻っていたから、私の見間違いかもしれないけれど。
 
『……なんでもない。会いに行っていたんだよ。君の世界の神様に』

 神様は小さく苦笑すると、言い直すように先ほどとは別の言葉を口にした。
 言い換えたということは、聞かれたくないことなのだろうか。
 神様の事情にこれ以上無闇に踏み込むのはなんだかはばかられて、私は意識的に話をそらすことにした。代わりに、神様の出した話題に乗る。
 
「私の世界の神様……?」
 
 というか、私の世界にも神様はいるのか。
 なかなかに衝撃的な話だが、目の前に神様を名乗る存在がいる以上、頭ごなしに否定することもできない。
 一体どんな人なんだろう。私の世界の神様は。

 神様は私の世界の神様を思い出してか、くすくすと笑った。

『君の世界の神様は、実におっちょこちょいで面白いぞ?』

「お、おっちょこちょい……?」

 神様に対しておっちょこちょいだなんて、到底似つかわしくない言葉のように思うのだけど。
 私にうっかりぶつかるような神様にそう言われるって……。私の世界の神様は何をしでかしたんだろう。

『この間は過労死寸前の女性に同情して助けようと思った結果、うっかり体から魂を引き抜いてしまったんだそうだ』

「は……?」
 
 なにそれ怖い。
 魂を引き抜いた?
 それは果たしておっちょこちょいの範疇に収まる内容なのだろうか。

『その女性を異世界に転生させることで事なきを得たそうだが――』

 それって、事なきを得たというより証拠隠滅をはかったようなものなのでは……。
 私はすっかりドン引いてしまって、神様からそろっと距離を取った。

「やっぱり神様ってろくなのがいないわけ……!?」

 類は友を呼ぶというが、まさにそれだ。
 うっかり世界の狭間に飛ばすだの、体から魂を引き抜くだの……。曲がりなりにも神様を名乗るなら、もうちょっと神様らしく神秘的な存在でいて欲しい。

『な、なんだと!? 僕は十分神様らしくミステリアスだぞ!?』

「見た目はね!」

 憤慨したように神様が言い返してくるが、事実なのだから仕方がないだろう。
 黙っていれば超絶美形な神様なのに、喋ると残念にも程がある。
 私の世界の神様は分からないが、目の前のルーチェというこの神様はなんだか子どもっぽい中身の神様だ。
 
 私が異世界に来てしまったのは、神様のせい。帰れないのは、神様のせい。
 だけど、私はこの神様のことを憎めないと感じはじめてしまっていた。
 
 



 
 

 
  
 
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

【完結】緑の手を持つ花屋の私と、茶色の手を持つ騎士団長

五城楼スケ(デコスケ)
ファンタジー
〜花が良く育つので「緑の手」だと思っていたら「癒しの手」だったようです〜 王都の隅っこで両親から受け継いだ花屋「ブルーメ」を経営するアンネリーエ。 彼女のお店で売っている花は、色鮮やかで花持ちが良いと評判だ。 自分で花を育て、売っているアンネリーエの店に、ある日イケメンの騎士が現れる。 アンネリーエの作る花束を気に入ったイケメン騎士は、一週間に一度花束を買いに来るようになって──? どうやらアンネリーエが育てている花は、普通の花と違うらしい。 イケメン騎士が買っていく花束を切っ掛けに、アンネリーエの隠されていた力が明かされる、異世界お仕事ファンタジーです。 *HOTランキング1位、エールに感想有難うございました!とても励みになっています! ※花の名前にルビで解説入れてみました。読みやすくなっていたら良いのですが。(;´Д`)  話の最後にも花の名前の解説を入れてますが、間違ってる可能性大です。  雰囲気を味わってもらえたら嬉しいです。 ※完結しました。全41話。  お読みいただいた皆様に感謝です!(人´∀`).☆.。.:*・゚

【完結】神から貰ったスキルが強すぎなので、異世界で楽しく生活します!

桜もふ
恋愛
神の『ある行動』のせいで死んだらしい。私の人生を奪った神様に便利なスキルを貰い、転生した異世界で使えるチートの魔法が強すぎて楽しくて便利なの。でもね、ここは異世界。地球のように安全で自由な世界ではない、魔物やモンスターが襲って来る危険な世界……。 「生きたければ魔物やモンスターを倒せ!!」倒さなければ自分が死ぬ世界だからだ。 異世界で過ごす中で仲間ができ、時には可愛がられながら魔物を倒し、食料確保をし、この世界での生活を楽しく生き抜いて行こうと思います。 初めはファンタジー要素が多いが、中盤あたりから恋愛に入ります!!

『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?

釈 余白(しやく)
ファンタジー
HOT 1位!ファンタジー 3位! ありがとうございます!  父親が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。  その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。  最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。 その他、多数投稿しています! https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】魔力がないと見下されていた私は仮面で素顔を隠した伯爵と結婚することになりました〜さらに魔力石まで作り出せなんて、冗談じゃない〜

光城 朱純
ファンタジー
魔力が強いはずの見た目に生まれた王女リーゼロッテ。 それにも拘わらず、魔力の片鱗すらみえないリーゼロッテは家族中から疎まれ、ある日辺境伯との結婚を決められる。 自分のあざを隠す為に仮面をつけて生活する辺境伯は、龍を操ることができると噂の伯爵。 隣に魔獣の出る森を持ち、雪深い辺境地での冷たい辺境伯との新婚生活は、身も心も凍えそう。 それでも国の端でひっそり生きていくから、もう放っておいて下さい。 私のことは私で何とかします。 ですから、国のことは国王が何とかすればいいのです。 魔力が使えない私に、魔力石を作り出せだなんて、そんなの無茶です。 もし作り出すことができたとしても、やすやすと渡したりしませんよ? これまで虐げられた分、ちゃんと返して下さいね。 表紙はPhoto AC様よりお借りしております。

異世界でイケメンを引き上げた!〜突然現れた扉の先には異世界(船)が! 船には私一人だけ、そして海のど真ん中! 果たして生き延びられるのか!

楠ノ木雫
恋愛
 突然異世界の船を手に入れてしまった平凡な会社員、奈央。彼女に残されているのは自分の家とこの規格外な船のみ。  ガス水道電気完備、大きな大浴場に色々と便利な魔道具、甲板にあったよく分からない畑、そして何より優秀過ぎる船のスキル!  これなら何とかなるんじゃないか、と思っていた矢先に私の好みドンピシャなイケメンを吊り上げてしまい、その瞬間に首を絞められる寸前となり絶体絶命!  何とも恐ろしい異世界ライフ(船)が今始まる!

はずれスキル『本日一粒万倍日』で金も魔法も作物もなんでも一万倍 ~はぐれサラリーマンのスキル頼みな異世界満喫日記~

緋色優希
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて異世界へやってきたサラリーマン麦野一穂(むぎのかずほ)。得たスキルは屑(ランクレス)スキルの『本日一粒万倍日』。あまりの内容に爆笑され、同じように召喚に巻き込まれてきた連中にも馬鹿にされ、一人だけ何一つ持たされず荒城にそのまま置き去りにされた。ある物と言えば、水の樽といくらかの焼き締めパン。どうする事もできずに途方に暮れたが、スキルを唱えたら水樽が一万個に増えてしまった。また城で見つけた、たった一枚の銀貨も、なんと銀貨一万枚になった。どうやら、あれこれと一万倍にしてくれる不思議なスキルらしい。こんな世界で王様の助けもなく、たった一人どうやって生きたらいいのか。だが開き直った彼は『住めば都』とばかりに、スキル頼みでこの異世界での生活を思いっきり楽しむ事に決めたのだった。

処理中です...