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しおりを挟むそうして、私とユーリーの共同生活が始まって一週間。
――思ったより普通だわ。
ユーリーは町外れの小さな一軒家に住んでいた。空き部屋があるとのことで、私はそこを使わせてもらうことになった。
どうやらユーリーは魔術の研究をしているらしい。日がな本を読んだり、庭で術を使ったりして過ごしているようだった。
たまに街の人が訪れて依頼を受けたりもしているらしい。
私はというものの、ユーリーから薬草の調合について教えてもらっていた。
「ねぇ、ユーリー」
ごりごりとすり鉢で薬草をすり潰しながら、目の前で魔術書を読むユーリーに声をかけた。
「この薬草ってなんの効果があるの?」
潰せば潰すほど甘い香りがしてくる。
とりあえず言われた通りにすり潰しているが、まだ何を作っているのかは聞いていなかった。
「その草と水を混ぜて煮れば即効性の睡眠薬になるんだよ。不眠症の患者がいるから欲しいっていう依頼さ」
「へぇー……」
なるほど。街の人からの依頼だったのか。
「ねぇ、もう一つ聞きたいんだけど」
「今度はなんだい」
「いい加減教えてよ。ユーリーはどうして私のことを知ってるの?」
もう、何度目かの質問だ。
何度聞いても、適当にかわされて終わる。
それでも尋ねずにはいられなかった。
「またその質問か……。別にいいだろう、俺が君のことを知っていても」
「良くないわよ」
勝手に知られている、というのは例えユーリーがミステリアスなイケメンであっても怖いものだ。
それに、もしどこかで会っていて私が忘れているのなら申し訳ないし、とても失礼だろう。
「それに、どうしてあのとき助けてくれたの?」
その理由もまだ分からないままだ。
助けてくれた理由がわかれば、ユーリーが私のことを知っている理由にも繋がる気がする。
ユーリーはようやく魔術書から顔を上げた。
「……君のことが好きだから、って言ったらどうする?」
「え」
薄紫の瞳と目が合う。
ユーリーの瞳の奥に熱が揺らいでいるように感じられて、私は思わず呼吸を止めてしまった。
「……そんなこと、あるわけないでしょ」
なぜだか、緊張して口の中が乾く。
ユーリーが私のことを好きだなんて、ありえないだろう。
私は公爵令嬢として生きてきた。見たところユーリーは身分があるわけでは無さそうだし、社交界での接点も無いだろう。
そうなると、私がユーリーに出会っている理由がない。
出会っていないのに、好かれるわけがない。
「なに、もしかして私のストーカーでもしてたわけ?」
どこかで私を見かけて勝手にストーカーとなっていた、ならまだ納得できる気がして茶化すように言うと、ユーリーはふと考え込んだ。
「……確かにそうかもしれない」
「否定してよ!」
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